《46》 属性と高速

(見た目がエレイスに近いとは言え、相手はエレイスじゃない。さっき遭遇した私の偽物同様、所詮はただの人間……恐れることなんてない!)


 七支刀を構えて真っ直ぐ向かってくる雪希に対し、ギラウスは脳内でシミュレーションをした。

 七支刀での攻撃を見切り、それを回避。

 回避直後に雪希本体に攻撃し、四肢のいずれかを使用不能にする。

 ダメージを受けて生まれる隙を突き、致命傷を与える。

 まだ抗うようであれば、ダメ押しを加える。


(問題ない……勝てる!)


 ギラウスは攻撃力、防御力、スピード、思考力……どれを取っても、人間プレイヤーのスペックを確実に上回っている。

 それを自覚しているからこそ、ギラウスは油断せず、確実に勝利を掴もうとした。


(単純な攻撃だ……回避も容易い!)


 雪希は七支刀を前へ突き出すが、ギラウスは予定通りそれを回避。

 左へ避けたギラウスは、突き出された雪希の右腕を攻撃しようとした……のだが、


「っ!?」


 突如、目の前に存在していたはずの雪希は消え、ギラウスの攻撃は空を切る。

 さらに、攻撃が空振りしたことを理解した直後、ギラウスの腕が切断されて。

 切断される直前、ギラウスは自らの腕を通過する銀色の残像を確かに見た。

 その残像の正体は七支刀の刃。しかしギラウスがその事に気付くよりも先に、ギラウスは背後から胴体を貫かれていた。

 七支刀の刃にギラウスの腸が引っかかり、貫通した刃と共に体外へ引きずり出された。


「~っ!!」


 予想外の攻撃を受けたギラウスは、まるで傷口を焼かれているかのような激痛と熱さを感じた。

 しかしその熱さが単なる痛みではなく、本当に焼かれていることに気付いたのは約2秒後のことだった。


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!)


 七支刀から発せられていた僅かな炎は、ギラウスの傷を焼く。

 その痛みに悶えるギラウスは、まともな思考を保つことができず、反撃することすらできない。

 対する雪希は七支刀を引き抜き、攻撃を続ける。


「はあっ!」


 七支刀はギラウスの両脚が切断され、ギラウスの血を撒き散らす。


(ヤバい……死ぬ……殺される……)


 ギラウスが自らの死を悟った直後、傍観していたメラーフが時間を止めた。

 ギラウスが感じていた痛みは消え、身体は空中で停止。意識だけが停止した時間に残った。


「どうだい? エレイスの力を宿した人間の攻撃は」


 ギラウスに歩み寄り、話しかけるメラーフ。

 身体が止まり意識だけが残ったギラウスは、テレパシーという形で脳内の返答をする。


(エレイスはこんな力使っていなかった……一体この人間は何者なんだ)

「名は廣瀬雪希。今現在、最もプロキシー……否、神に近い人間だ」

(神……なるほど。そうでなければ、人間がこれ程の力を持つ訳が無いか)

「……正確には彼女の力と言うよりも、あの七支刀の力だ」


 メラーフは雪希の持つ七支刀を見る。


「あの七支刀には、エレイスを生み出す際の核として使用した、2つの力が込められている。その力に君は苦戦し、結局敗れた……いや、正確には"敗れる"、だね」


 代行者プロキシーは、後にアクセサリーの力になる神の力を核として、神に似せて作られた存在。

 ギラウスやクーナ達は、1つの能力を核として生み出された。

 しかし、側近として生み出されたエレイスには、2つの力が核として使用されていた。

 1つは属性操作。

 小さく僅かな火や、広範囲を燃やし尽くす大きな炎などを生み出し操る"炎"。

 限りなく氷に近い冷水や、熱湯などを生み出し操る"水"。

 手のひらサイズの旋風や、巨木を薙ぎ倒す狂風などを生み出し操る"風"。

 自在に大地を隆起させ、ダイヤモンド並に硬い鉱石を生み出し操る"地"。

 一瞬で網膜を焼く強い光や、落雷レベルの強い電気を生み出し操る"光"。

 影や暗闇との融合や、人間並みの質量を持った人影を生み出し操る"闇"。

 属性操作は以上の6つを使用できる。メラーフを含め、複数人の神が所持していた。

 そしてもう1つの能力は、高速移動。

 移動の速度を上昇させることで、目にも留まらぬ速さでの攻撃が可能。

 橙の瞬間移動は一瞬で移動できるが、攻撃は停止しなければできない。対して高速移動は、全ての動きを高速化できるため、停止することなく常に高スピードで動ける。

 言葉だけ聞けば瞬間移動の方が強く聞こえるが、戦闘においては高速移動の方が上位互換にあたる。

 しかし、高速移動は紫のアクセサリーの持つ"動体視力向上"に弱く、高確率で動きを読まれる。

 それでも、総合スペックは通常のプレイヤーを上回り、ギラウスのスペックすら上回っている。並のプレイヤーでは、最早銀のアクセサリーには適わないだろう。


(この私が人間に敗れるとは……正直受け入れ難いが、認めざるを得ないか)

「……じゃあ死ぬ前に、彼女の力を存分に味わうといい」


 メラーフは元の場所に戻り、指を鳴らして時間を動かす。

 両脚を失い、空中に留まっていたギラウスは地面に落ち、消えていた痛みを再び感じ始めた。


「ギラウス……あんたは、罪の無い子供達を喰らった。神であろうと人であろうと、それは許されざる行為」


 地に落ち、痛みに悶え、涙を流すギラウス。

 それを見下す雪希は、刀身に銀の光を集約させた七支刀を振り上げた。


「せめて……地獄で苦しみなさい」


 雪希は七支刀を振り下ろし、ギラウスに最後の攻撃をした。

 攻撃を受けたギラウスは爆散し、その衝撃は近隣の住宅の窓ガラスを砕いた。

 爆風は木の葉を吹き飛ばし、砂を巻き上げる。その中心に立つ雪希は、さながら嵐の神のようだった。


「……ごめんね、護れなくて……」


 ギラウスが死亡したと同時に、砂へと変化した子供達の残骸。

 爆風で巻き上げられた砂を見て、雪希は涙を浮かべた。


 ◇◇◇


 雪希とギラウスが戦っていた頃、別の場所でプロキシーが出現していた。

 灰のアクセサリーを持つプレイヤー、杉原桃花だけがそれに気付き、駆除に向かった。

 しかし出現したプロキシーの数は4体。桃花1人で手に負える筈が無い。

 数分間の戦いの後、死んだのはプロキシーではなく桃花。その際、桃花の持っていたアクセサリーはプロキシーに拾われ、喰われてしまった。

 ギラウスを殺し安心していた雪希とメラーフだったが、悲劇はまだ始まったばかりだということには、まだ気付いていない。

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