《42》 合同学園祭計画

 夏休みも残すところ2週間。

 友人達と出かける者。受験に向けて勉強する者。エアコンを効かせた部屋で惰眠を貪る者。殆どの学生達は夏休みを有効活用し、楽しい日々を送っている。

 しかし学生達の極一部は、夏休みを楽しむことができず、プロキシーとの戦いに疲れている。

 中でも黄のプレイヤーである以前に、生徒会副会長である理央は、生徒会の仕事とプロキシーとの戦いにより疲弊している。

 次期生徒会長である理央は、夏休み中にも何度か登校している。


「合同学園祭?」

「そう。学校同士の関係を良くするために、去年頃から計画されてたの。ただタイミングが合わなくて、なかなか実行に移せなかったんだけどね」


 生徒会の会議で、舞那達の通う五百雀高校と、比較的近い位置にある渦音うずね高校との合同学園祭の議題が持ち上がった。

 合同学園祭はその名の通り、各校が共同で学園祭を開催し、3日間に渡り生徒と一般来場客を楽しませるというもの。

 理央が生徒会に入る前から計画されていたが、理央は合同学園祭のことなど知らなかった。


「いきなりだけど、この後渦音の生徒会長が来るから、理央にはうちの紹介と案内をし」

「ちょっと待ってください……なんで私が?」

「夏休みが終われば、私の代わりに理央が生徒会長になるんだよ? 旧生徒会長である私の出番はここまで」

「えぇ……」


 ◇◇◇


 暫く経ち、予定通りの時間に渦音高校の生徒会長がやって来た。

 相手は1人であるため、理央も1人で対応をすることとなった。

 因みに前生徒会長は帰宅。


「はじめまして。渦音女子高等学校、次期生徒会長の常磐ときわ撫子なでしこです」

「五百雀女子高校、次期生徒会長の笹部理央です」


 理央同様、夏休み明けから渦音高校の生徒会長になる撫子。

 舞那と似た髪型ではあるが、撫子の方が後ろ髪が長い。常に優しい表情を崩すことがないため、生徒からは人気がある。

 撫子は1年生にして生徒会長に推薦される程優秀で、人柄もいいため生徒や教師からの信頼も厚い。


「さて、これから協力して物事を進めるんだし、堅苦しいのはこれまでにしない?」

「……そうですね。私のことは撫子と呼んで頂いて結構です。ただ私の方が年下なので、私はこのままの話し方を貫かせて頂きます」

「気にしなくていいよ。私の事は理央でいいよ。そんじゃ早速、五百雀うちの紹介するね」


 校内を案内し、どこにどんな部屋があるかを確認。

 理央と撫子は部屋の面積と、備品を置いた状態での最大収容人数、壁の厚さなどをチェックし、合同学園祭における出し物の向き不向きを話し合う。

 さらに、グラウンドの広さも確認し、一般来場客の駐車台数の限界も考える。

 五百雀高校の後は渦音高校のチェックもするのだが、片方だけでもかなりの時間をかける。

 だがチェックを初めて約1時間半が経過した頃、少し離れた場所にある宗教団体の施設にプロキシーが出現した。


(タイミング悪……仕方ない、1回抜けよう)

「ごめん撫子。急用思い出したから、一旦外れるね」

「大丈夫ですよ。かく言う私も急用ができましたので、一旦外させていただきます。そうですね……30分後に再び集合でどうでしょう?」

「ほんとごめん……そんじゃ30分後にまた!」


 理央は校門に向けて走る。校門を抜け、宗教施設がある場所まで走る。

 しかしその途中、理央は立ち止まって隣を見た。


「……失礼だけど、急用って何?」

「……恐らく理央さんが知らないことです」


 先程から理央と並走していた撫子。

 用事があると言っていたため、校門まで並走するのは分かる。

 しかし理央の進行方向にあるのは、宗教施設といくつかの廃屋のみ。どんな用事かはしらないが、理央と並走して何も無い場所へ向かうのは不思議である。

 そして理央は、撫子が並走する理由を察し、それが的中しているかを確認した。


「これと似たもの……持ってる?」


 理央はポケットから黄のアクセサリーを取り出し、撫子の前に突き出した。

 黄のアクセサリーを見た撫子は少し驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着いた表情に戻った。


「プレイヤー……だったんですね」


 撫子は胸ポケットのボタンを外し、中から緑のアクセサリーを取り出した。

 アクセサリーは弓の形を模しており、一部が緑に染色されている。


「とりあえず今は、プロキシーの駆除が先です。急ぎましょう」

「……だね!」


 2人は宗教施設のある場所まで走り、10分未満で目的地に到着した。

 宗教施設の窓から中が見える。

 中には人を喰らうプロキシーの姿がある。僅かに悲鳴が聞こえたが、喰われたのかその声は途絶えた。

 理央が施設の扉を突き破り、中へと侵入した。

 プロキシーは1体。しかし既に、室内に居たはずの教徒を全員捕食しており、室内は血と肉片で塗れている。


「……1体だけなら、私一人で十分です。理央さんはそこで見ていてください」

「撫子!?」


 撫子は理央の前に立ち、アクセサリーを弓へと変化させた。

 アクセサリー時同様、弓には弦と矢が付いていない。

 この弓は未完成品のようにも見えるが、この状態であることが正しい。決してパーツが足りない訳ではない。


「変身」


 緑色の光が撫子を包み、弾けると同時に撫子の姿を変化させた。

 上半身は緑色のチャイナドレス風の服で、下半身は膝丈のスカート。他の色に負けず劣らず、奇抜な服装である。

 撫子は息を吐き、捕食を終えたプロキシーを睨んだ。


「粛清する」


 弓を持ち、撫子はプロキシーに向かって走り出した。

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