《41》 杏樹

「そっか……杏樹ちゃんもプレイヤーだったんだね」


 プロキシーを殺し、舞那達は場所を変えずに会話をしていた。

 会話の中で、杏樹が理央同様黄のプレイヤーであることが明かされた。これで舞那が持っているリストの、黄のプレイヤーの空欄が1つ埋まった。


「まあ、私はあまり戦わないけど。基本的に戦いは理央に任せて、私は留守番してるから」

「……留守番?」

「あれ、前に話さなかった? 私杏樹の家で居候してるって」


 舞那と理央が、プレイヤーとして初対面した際、理央は自らを「居候」と言っていた。しかし、同居人については殆ど話していない。

 理央が居候をしていることを思い出し、舞那は「あぁ……」と若干腑抜けた声を出しながら、「そんなこと言ってたな」と頭の中で呟いた。


「とりあえずさっき言った通り、私はあんまり戦わない。けど、これからは仲間として、必要な時は頼って」


 童顔で、普段は「可愛い」としか言われていない杏樹だったが、一瞬だけ凛々しい表情を見せた。


「あ、そうだ。今プレイヤー探してて、見つけ次第殺そうと思ってるんだけど……オレンジ色のプレイヤー知らない?」


 橙のプレイヤーは最大3人存在しているが、舞那は杏樹の示しているプレイヤーの正体を瞬時に理解した。

 以前、理央は橙のプレイヤーに腕を刺された。そして杏樹はその理央と同棲している。

 以上から察するに、杏樹の探しているプレイヤーは、現在入院中の心葵。


「知ってる……けど、殺さないであげて」

「……何で? そのプレイヤーは理央を刺した。つまり、そいつは理央を殺そうとした。私の敵になる理由はそれだけで十分」


 普段可愛いと言われ続ける杏樹が、"殺す"などという発言したことに、舞那は多少なりとも驚いた。


「確かに、あの頃の心葵はそうだった。けど、もうあの頃とは違う」

「どういうこと?」


 舞那は、心葵、千夏との交流、その後の出来事を話した。

 最初は黙って聞いていた理央達だったが、千夏がプロキシーに変化してしまったと聞き、驚きを隠せずに声を漏らした。


「プレイヤーが……プロキシーに……!?」

「そう。1度プロキシーになれば、もう人間には戻れない。化物として、人を食べる」


 かつて人間だった者も、人としての道を歩むことなく、化物としての道を歩むことしかできない。それは理央達も理解している。

 先日のメラーフの話に加え、今回の舞那の話が作用し、理央達はプロキシーに対する見方が変わった。


「……千夏、どうなったの?」

「心葵に殺されることを望んで、そのまま……」


 以前、心葵や千夏と共闘した雪希が、最初に千夏の結末について質問をした。

 舞那の回答は、雪希の予想と一致。あの日共闘したのを最後に、雪希と千夏は死に別れた。

 もしかしたら友達になれるかもしれない。そう思っていた雪希だったが、それが叶わなかったことを理解し、悲しみに震える手を強く握りしめた。


「……その心葵ってプレイヤーに会っても、殺さないであげる。けど、刺したことに変わりはない……それだけは忘れないで」

「うん……ありがとう」

「……行こう、理央」

「おっけー。じゃあ2人とも、またね」


 理央と杏樹はその場から去った。


「じゃあ私達も帰ろ」

「うん、じゃあね」


 舞那と雪希も分かれ、その場から去った。

 分かれて数十秒、雪希が人通りの少ない道に入った時、突如雪希以外の全ての時間が停止した。

 蝉の鳴き声が途絶え、遠くを走るバイクの音も途絶えた。


「何? 外は暑いんだから、なるべく早めに終わらせて」

「まあそう言わないで。今日は君にプレゼントをあげようと思ってね」

「プレゼント……?」


 時間を止め、雪希の前に現れたメラーフ。

 メラーフは時空に歪みを発生させ、歪みの中に手を入れた。

 そして手を引き抜き、手の中に収まっていたアクセサリーを見せた。


「それは……!」

「そう。2019年、プロキシーの大群を全滅させた……銀のアクセサリーだ」


 そのアクセサリーは、他の色のアクセサリーとは違い銀一色で作られており、七支刀を模している。


「1回目の戦いから力を引き継いできた君ならば、これを使いこなすことも可能だろう。今後、妙に強い個体プロキシーが現れる可能性もあるから、持っておいた方がいい」

「私が、これを……?」


 雪希は受け取ろうと腕を伸ばす。

 しかし、瞬間的に1回目の戦いを思い出した雪希は、ある程度伸びていた腕を止めた。

 雪希の記憶には、銀のアクセサリーの強さが刻まれている。同時に、銀のアクセサリーがもたらした絶望も刻まれている。

 銀のアクセサリーの強さを知っているからこそ、雪希は受け取ることを躊躇った。


「まあ焦る必要はない。君がこれを使う覚悟をして、君がこれを欲した時に、改めてこれを渡そう。もし必要ならば今すぐ渡すが、どうする?」

「……今は預かっておいて。私自らがそれを欲するかどうかは分からないけど」

「そうか。なら必要になったらいつでも言ってくれ」


 メラーフは指を鳴らし、止まっていた時間を再び動かした。

 途絶えていた蝉の鳴き声が響き始め、遠くを走るバイクも再び走行を開始した。

 時間が動き始めると共に、メラーフは陽炎のように姿を消した。

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