《39》 記憶
舞那との通話を終えた龍華は、暫く歩いた場所にある雪希の自宅へ来ている。
玄関前に立ち、深呼吸をした後インターホンを押した。
中から「はーい」と声が聞こえ、直後に雪希がドアを開けた。
「……住所まで調べたわけ?」
「じゃないと今ここに来てない。情報収集は私の特技だしね」
「はぁ……で、今日は何の用?」
「また聞きたいことがあってね……今時間ある?」
「……あがって。飲み物くらいは出してあげる」
龍華は雪希宅に入り、雪希の自室に案内された。
その後雪希はコップにアップルジュースを注ぎ、龍華の待つ自室に戻った。
「聞いたよ。メラーフがいろいろ暴露したそうじゃん。まあ私は聞いてなかったんだけど」
「あぁ……で、それがどうかした?」
「……単刀直入に聞く。私達には1回目の2018年を生きた記憶がない。でも廣瀬さんには、その記憶が残ってるんじゃない?」
コップに口をつけようとした雪希だったが、龍華の言葉を聞いてその手を止めた。
「色々調べたけど、廣瀬さんは今年の5月あたりから様子がおかしい。そして、世界がリスタートしたのも今年の5月。単なる偶然とは思えない」
以前入手した雪希の情報は、5月頃の出来事だと聞いた。
プレイヤーとプロキシーの戦いが集結し、神の力によって2回目の2018年がスタートしたのも5月。
舞那が2018年5月という言葉を発した直後、龍華はある仮説を立てた。
「仮に廣瀬さんに1回目の記憶があったとして、なぜ私や木場さん達にその記憶が無いのか……私はこう仮説した」
「……」
「廣瀬さんは1回目の戦いで生き残り、神に等しい力を得た。そしてその力を使い、2018年を繰り返した。神であるメラーフに1回目の記憶があるのならば、神に等しい力を得た人間も記憶を保持しているはず」
舞那達は何も感じなかった。
神であるメラーフが、1回目の2018年の記憶を保持していることに。
しかし龍華だけは、メラーフと同じ存在になった"生き残ったプレイヤー"が、メラーフ同様に記憶を保持していると考えた。
「この仮説が当たってようと外れてようと、私はこのことを他言する気は無い。だから、この仮説に対する回答が欲しい」
様子がおかしくなったというだけでは、雪希が2018年の戦いを生きたという証拠にはならない。
多少強引ではあるが、あくまでもこれは仮説。仮に結果がどうであろうと、真実に近づ蹴るのであればそれでいい。
「……その仮説は当たってる。しかも、最初から最後まで全て」
雪希は少し黙ったが、龍華の質問に回答した。
龍華は雪希の目の動き、仕草などを観察し、その回答が真実か否かを見極めた。
「私はプレイヤーとして戦って、最後まで生き残って、神に等しい力を得て、メラーフと同じ神になった。神の力で時間を巻き戻して、戦いが起きない未来を作った」
神になった雪希にも、メラーフ同様1回目の記憶が残っている。
全ての戦いと、戦いの中で死んでいったプレイヤー達の死際が、今尚鮮烈な記憶として雪希の脳内に存在している。
「そして私は神の力を捨てて、人として生きることにした」
「神の力を捨てた……? 一体どうして……」
「私は人でありたかった。人として、またみんなと友達になりたかった。なのに……」
「また戦う羽目になった、ってことね……」
作り替えられた世界の中で、雪希は神の力を消した。しかし僅かに力が体内に残留し、結果的に1回目の記憶が残ることとなる。
雪希には1回目で出会った友人達との記憶がある。その友人達と再び会いたいがため、雪希は力を消した。
メラーフなどの神は、自らの力で体細胞を操作することで、永久に身体を若く保つことができる。さらに神は生物を超越した存在であるため、病気などの心配もない。
神同士が殺し合わない限り、神は実質不老不死である。
しかし雪希は考えた。このまま神であり続ければ、友人達だけが老い続け、いずれ自分一人だけが残ってしまう。加えて、友人達が朽ちゆく様を見たくない。
そうして雪希は力を消去し、人間の身体に戻った。
「前に、舞那の呼び方を指摘してきたの、覚えてる?」
「たしか、ずっと前に知り合って友達に……もしかして……」
「そう。舞那とは1回目の2018年、お互いにプレイヤーとして出会った」
1回目の2018年で雪希がプレイヤーになるよりも前に、当時の舞那が既にプレイヤーとして戦っていた。
1回目の舞那も、今と同じで青のアクセサリーを使っていた。
「メラーフから聞いたんだけど、1回目のプレイヤーは全員、今回の戦いにも参加してるみたい。それも、1回目と同じアクセサリーを使ってね」
「……1回目の紫のプレイヤーって、私だった?」
「違う。メラーフからプレイヤーの名前は全部教えてもらったけど、その中に犬飼さんの名前は無かった」
「そっか……じゃあ、1回目のプレイヤーの名前なんだけど、覚えている限り教えてくれない?」
「……いいよ。けどその代わり、今日の話は他言しないで。特に舞那には……ね」
「分かってる」
龍華はスマートフォンのメモ帳アプリを起動し、1回目のプレイヤーの名前、及びその他情報の記録を始めた。
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