《26》 復帰
「……よし!」
包帯を巻いた自身の腕を掴む理央。
心葵に刺された箇所は完治していないものの、常に感じていた痛みはある程度緩和されていた。
(これでまた戦える……)
◇◇◇
この日は今期最強の猛暑日だった。
夏休み中の小中高生は、エアコンや扇風機のある室内に篭もった。
外に出て働く人々は汗をかき、熱中症を防止するためにこまめに水分補給をしている。それでも暑さに耐えきれず倒れる人は多く、この日だけでもかなりの人数が熱中症で苦しんだ。
夏休み中の舞那は、エアコンのある快適な室内で夏休みの宿題を片付けていた。
殆どの宿題は既に終了しており、残すは読書感想文のみ。感想を述べるために選んだのは、「絶望の孤島」という小説。
「絶望の孤島」は読書感想文に相応しくないであろう、グロテスクな表現が目立つ内容である。
しかし舞那は敢えてこの作品を選んだ。その理由はただ一つ。執筆したのが父の誠一であるためである。
「いいのか? 父親の書いた小説で読書感想文を書くなんて」
「初めて読む本より、何回も見直しを手伝った本の方が理解度は高いと思うの。それにお父さんはペンネーム使って本名隠してるし、私もお父さんのことは言ってないから、原作者同伴で感想文書いたなんてバレないよ」
「……なんか、母さんに似てきたか?」
我が娘の成長を素直に喜べない誠一。
そんな誠一を尻目に、舞那は感想文を描き続けた。
「……よし、終わった!」
◇◇◇
宿題を全て終わらせた舞那は、まだ終わらない夏休みを有意義に過ごせる、そう思っていた。
しかしよく考えれば、プロキシーのことやプレイヤーのことで夏休みの一部が潰れるため、夏休みを完全に楽しむことはできないと悟った。
そんな矢先、舞那の脳内にプロキシー出現場所がイメージされた。
舞那はため息を吐きながら青と黄のアクセサリーをポケットに入れ、出現場所へ向かうため家から出た。
(あっつ!)
プロキシーとの戦闘はまだ始まってすらいない。しかし今期最強の暑さに、舞那はノックアウト寸前である。
(そうだ! 自転車だったらちょっとはマシかも!)
自転車に乗って走れば風を感じるため、暑さは緩和される。そう思った舞那は普段あまり乗らない自転車に乗り、目的地へと向かった。
走行中は確かに風を感じていた。ただ、目的地に到着して自転車を止めた瞬間、ペダルを回していた分の体力が一気に消耗。さらに思っていたよりも脚への負担が大きく、舞那は戦闘前に予期せぬダメージを受けていた。
しかし弱音など吐いている暇はなく、舞那は脚の痛みを堪えながら2つのアクセサリーを取り出した。
「変身!」
舞那は赤いプロキシーの頭部に銃口を向け、暑さで朦朧とした状態で引き金を引いた。
黄色い銃弾はプロキシーの頭に直撃。頭部の一部を抉った。しかしプロキシーは死ぬどころか倒れもせず、弾道の風上に立つ舞那を見た。
「嘘でしょ……?」
プロキシーは舞那の立つ場所まで走り、舞那を殴るために右腕を大きく振った……という未来を予知した舞那は、プロキシーの攻撃に合わせて盾で防御態勢を取った。
予知通りプロキシーは腕を振り、舞那の盾を殴った。同時に舞那は青の能力を発動していたため、赤いプロキシーは体力を大幅に削られた。
(今度こそ殺す!)
舞那は改めて銃口を向け、赤いプロキシーを葬るため引き金に指をかけた。
しかし直後、舞那は再び未来予知を使用した。予知の内容が正しければ、舞那は十数秒後に後ろから現れる青いプロキシーに胴を貫かれる。
(やばい!)
舞那は振り返りながら銃を構え、後方から近付いて来る青いプロキシーを見た。
身長2m弱という小柄な体格ながら、並のプロキシー以上の殺意を放っている。
先に戦っていた赤いプロキシーは、体力が削られているとは言え一応生きている。つまり舞那は赤と青、両方のプロキシーと戦わなければならない。
「せいやぁぁぁ!」
「っ!?」
突如横道から現れた理央が、舞那に向かい走っていた青いプロキシーに突進した。青いプロキシーは予期せぬ所からの攻撃に対応できず、能力を使用する間もなく転倒した。
「笹部理央、戦線復帰!」
「理央! もう怪我治ったの!?」
「戦える程度にはね」
転倒したプロキシーは起き上がり、標的を舞那から理央へと変更した。
「舞那! アクセサリーを!」
「おっけー!」
舞那は黄の銃を投げ、理央はそれを空中で掴んだ。
「変身!」
理央が変身したことで、舞那の服装は元に戻った。
理央がアクセサリーを受け取ったことで、舞那は黄の能力を使用できなくなった。しかし2対1だった状況が、理央の登場により2対2になった。
「こっちのプロキシーは任せて!」
「分かった!」
青いプロキシーは、舞那達"青のプレイヤー"と同じ能力を使用できる。そのため舞那が青いプロキシーと戦えば、互いの能力で互いを潰し合うことになる。
しかし、プロキシーに直接触れずに戦える理央は、青の能力を受けることなく常に優勢でいられる。
理央はこの場にいるプレイヤーとプロキシー、及び各々が保有する能力を把握し、現状を自分達が生き残るための最善の方法を実行した。
(頼もしい……理央が来ただけで戦況が裏返った)
もしも理央が来なければ、舞那は苦戦を強いられていた。と言うよりも、下手すれば死んでいた。
いくら青と黄の両方を使用していたとは言えど、1人の
しかし理央の登場により、舞那が生き残る確率は格段に上がった。
アクセサリーを使用した戦闘に関しては、舞那よりも理央の方が圧倒的に上手。仮に使用しているアクセサリーを交換したとしても、理央が舞那の上に立っていることは変わらない。
(またあの大きいプロキシー……いや、もっと強いプロキシーが現れても、理央がいれば勝てる気がする!)
舞那は理央の重要性に気付いた。同時に、絶対に死なせてはいけない、絶対に敵対してはいけない人物だと気付いた。
もしも理央が欠ければ、この先の戦いで必ず自分達は苦戦する。そんなことを考えながら、舞那は赤いプロキシーにトドメを刺す為拳を強く握った。
青い光を纏った拳はプロキシーの頭部を粉砕し、頭を失ったプロキシーは痙攣した後に死亡。舞那に付着した返り血諸共、砂へと変化した。
「これで終わり!」
理央の持つ銃に黄色の光が集約され、引き金を引くと同時に光は放出。9つに分散し、それぞれプロキシーの身体に命中した。
両肘、両膝、両肩、両目、喉を撃ち抜いた光の銃弾は、プロキシーを貫通すると同時に消滅。
そして理央は再度引き金を引き、プロキシーの頭部に銃弾を命中させた。
死亡したプロキシーは後ろ向きに倒れ、数秒後に砂へと変化した。
「ふぅ……やっぱり私って強い!」
「だね。けど、あんまり無茶しないでね。まだ痛むんでしょ?」
戦闘中、理央は何度か患部を押さえ、明らかに痛みを堪えている表情をしていた。
「大丈夫だって。もしもの時は、また舞那にアクセサリー預ければいいし」
「……その"もしも"が来ないよう気をつけてね」
「……はい」
こうして、理央は無事戦線復帰した。
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