《24》 停戦協定

 停止していたプロキシーは動き始め、雪希達への攻撃を再開。対する雪希達は、これから来るであろう3人のプレイヤーを待った。

 雪希は走力を向上させて、プロキシーの攻撃範囲から逃げる。

 沙織は体力消費が少ない飛行能力で、プロキシーの攻撃範囲の外を移動。雪希達への攻撃を控えさせるため、プロキシーの目を引きつける。

 日向子は身体を多少硬化させ、不規則に訪れる攻撃から身を守る。

 それぞれがそれぞれの能力を活かしつつ、プロキシーの攻撃を何とか耐え抜いていた。そしてその努力が報われ、数分後に3人のプレイヤーがほぼ同時に到着した。

 右側の脇道からは舞那。左側の脇道からは心葵と千夏。3人ともプロキシーを確認した直後に変身し、雪希達とコミュニケーションをとる前にプロキシーへと攻撃した。

 青の能力が込められた舞那の右ストレート、橙のナイフによる右アキレス腱への攻撃、チャクラムによる左アキレス腱への攻撃。

 舞那達の攻撃により少なからずダメージを受けたプロキシーは、バランスを崩してその場に転倒した。


「3人とも! こっちに来て!」


 雪希の声に反応した舞那達はプロキシーから離れ、素直に雪希のところへと移動した。


「あのプロキシーは普通のプロキシーとは違う。あれに勝つには、私達6人が力を合わせるしかない」

「……私達が力を合わせる? 仲間でもないのにそんなことできるの?」

「やろうと思えばできる。やらないと死ぬ」


 千夏を除く5人は、この場で死ぬつもりはない。そしてこの場を生き残るためには、6人全員が協力しなければならない。

 千夏を除くプレイヤーとの馴れ合いを避ける心葵も、現状を理解しているため協力を拒むことはできなかった。


「……どうすればいい?」

「……まず最初に、西条さんと松浦さん。2人はプロキシーの注意を引いて欲しい。お願いできる?」

「おーけー。元々私はサポート役だし、頼ってくれていいよ。だよね、沙織」

「だね。でも隙あらば美味しいとこ持ってくかもしれないから、覚悟しておいてね」


 笑顔でサムズアップをする沙織と日向子。

 表には出していないが、2人は雪希に頼られたことを心底喜び、自分達を仲間だと認めてくれたのだと勝手に解釈した。

 ただ雪希は、既に2人は仲間だと認識していた。そのことを沙織と日向子は知らない。


「次にオレンジのプレイヤー」

「風見心葵」

「……風見さんは、そこの紫の」

「大野千夏。名字は嫌だから名前で呼んで」

「……風見さんは千夏と一緒に、2人に気を取られたプロキシーを攻撃して欲しい。浅くても深くてもいいから、できる限りダメージを与えてくれると嬉しい」


 名前の呼び方を矯正させた心葵と千夏。

 千夏は基本的に心葵にしか従わない。しかし心葵が雪希に従えば、千夏も心葵に倣い雪希に従う。

 因みに雪希は心葵と千夏の関係性は理解していない。


「次に、木場さんには青の能力で相手の弱体化。それとプロキシーの行動を予測して欲しい。理央から聞いたけど、黄色のアクセサリー持ってるんでしょ?」

「うん……でも、何を予測すればいい?」

「主に相手の攻撃パターンをお願い。できれば、それ以外の行動の予測も。できる範囲でいいから」


 黄のアクセサリーの貸与について、事前に理央本人から連絡があった。夏休み中に偶然遭遇した際に、雪希は理央の連絡先を聞いていたのだ。

 雪希は黄の能力を理解しているため、舞那を黄の能力と青の能力の両方を活かすポジションに立たせた。


「私は能力で高めてから、プロキシーの攻撃の隙を突く。相手は傷口を再生する力があるから、再生の時間を与えず、確実に殺しにいく」


 先程は能力を使用していなかったため、雪希はプロキシーの腕を切断することができなかった。

 しかし次の攻撃の際には能力を使用し、腕以外も完全に切断する予定である。


「……期せずして停戦協定だね、風見さん」

「うるさい。あれに限らず、プロキシーを殺せば私達は敵として対峙する。ちゃんと分かってる?」

「分かってるから停戦協定なんでしょ」


 舞那と心葵が互いの立場を理解した上での会話をしていると、アキレス腱が回復したプロキシーが再び立ち上がった。


「じゃあ予定通り、西条さん松浦さん! お願い!」

「「任せて!」」


 沙織と日向子を残し、他の4人はそれぞれの役目を果たすために散らばった。

 立ち上がったプロキシーは沙織と日向子を凝視した後、2人へ攻撃するために走り始めた。

 日向子は白の能力で身体を硬化させ、沙織はその背後に隠れた。

 プロキシーは巨大な拳で日向子へと殴りかかる。しかし硬化した日向子にはダメージは通らず、逆にプロキシーの拳がダメージを受けた。硬化した身体は言わば鋼鉄。鋼鉄を生身で殴れば、拳どころか腕全体に痛みが走る。

 プロキシーが腕にダメージを受けた直後、日向子の背後に隠れていた沙織が真上に飛び上がった。予定通りプロキシーは沙織だけを目で追い、全体的な注意が疎かになった。


「いくよ千夏!」

「はい!」


 隙だらけになったプロキシーに、待機していた心葵と千夏が攻撃を仕掛ける。

 千夏はチャクラムを投げ、プロキシーの背中に刺した。直後に心葵は瞬間移動で、そのチャクラムを足場としてプロキシーに接近。

 心葵はプロキシーの頭部に腕を回し、ナイフを真横に動かしプロキシーの両目を切った。

 プロキシーは痛みに悶え、心葵を振り払うために上半身を激しく動かした。しかし心葵は瞬間移動で既に離脱しているため、結果的に無駄な動きをしてしまった。


「はああ!」


 視界を奪われたプロキシーの前に立った舞那は、青の能力を拳に込めて全力で殴った。

 青の能力により、プロキシーは大幅に体力を削られてしまった。それによりプロキシーは足元がおぼつかなくなり、泥酔したかのような動きをしている。


「13秒後に沙織に向かって走り始める!」


 黄の能力でプロキシーの動きを予知した舞那。

 その予知を聞いた雪希は、沙織とプロキシーを結ぶ直線上の中心に向かって移動を開始。

 13秒後、予知通りプロキシーは沙織に向かって走り始めた。プロキシーの目には、宙に浮いている沙織が優先して映っていたのだ。

 プロキシーが走り、初期地点から沙織を結ぶ直線上の中心に到達した時、視界の外から現れた雪希がプロキシーへ攻撃した。


「てぇやああ!」


 赤い光を帯びた刃は、プロキシーの下腹部を切り裂き体内に入り、内臓と骨を通過しながら両断。

 下半身は上半身を置き去りにして、そのまま沙織に向かって走る。しかし数メートル進んだところでバランスを崩し、足首を曲げながら下半身は倒れた。

 置いていかれた上半身は地面に落下し、切断面から内臓と血液を散らす。

 自らの目に映る景色が変わり、足を動かしている感覚が無くなったことで、プロキシーはようやく自身の状況を理解した。

 理解した途端にプロキシーは痛みを感じ、喉を潰す勢いで叫び声を上げた。しかし、プロキシーの真横に瞬間移動した心葵がナイフで喉を刺し、プロキシーの叫び声を止めた。

 声が出せなくなったプロキシーは涙を流し始めた。それを見つめる舞那は銃を構え、涙を止めるために引き金を引いた。

 銃弾はプロキシーの眉間に穴を穿ち、死を迎えさせた。プロキシーは時間をかけて砂へと変化し、風に乗せられ散っていった。

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