《17》 橙

(要注意人物か……)


 龍華からリストを受け取った舞那は、要注意人物だと伝えられたプレイヤー達を見て思った。

 あくまでも龍華の推測に過ぎない。しかし人を殺す可能性があると疑われているプレイヤーは、舞那からすれば少々可哀想に思える。

 同時に、舞那はこのプレイヤー同士の殺し合いに疑問を抱いた。

 つい最近まで普通の女子高生だったプレイヤー達が、なぜ自分以外のプレイヤーを殺そうという気になれるのか。

 元から殺人衝動を抱いていたのであれば話は別だが、そのような狂った女子高生はあまりいない。

 そこまでして神に等しい力というものが欲しいのか。そこまでして自分一人が生き残りたいのか。考えたところで、殺人衝動のない舞那は到底理解できなかった。


(このリストにある人、覚えておいた方がいいよね)


 プレイヤーと遭遇した時の事を考え、舞那はリストに記載されたプレイヤーの暗記を始めた。遭遇したプレイヤーが安全かそうでないかを見極めるためにも、リストの暗記はしておいた方がいい。

 ただし、要注意人物として指定されているプレイヤー以外にも、人を殺すプレイヤーがいる可能性は十分にある。

 そのため舞那はリストを過信せず、参考として暗記することにした。

 1ページ目に記載されているプレイヤーは2名であるが、1人は舞那であるため閲覧を省き、2人目の青のプレイヤーである「オカノ アヤネ」の閲覧を開始。

 オカノアヤネは要注意人物に指定されているが、顔写真を見る限り人を殺すようには見えない。

 しかしオカノアヤネの概要には、「他人が自己と同じ才能を持ち、それを比べられることを最も嫌う。過去にその性格が災いし、学校内で暴れたことがある。プレイヤーとしての力を自己の才能として認識いるとすれば、自己同一性の思考により敵対プレイヤーの殺害を実行する可能性がある」と書かれており、プレイヤー云々以前に相当な変わり者であることが分かる。

 舞那はオカノアヤネが要注意人物指定されていることに納得しながら、2ページ目へ進むためにページを捲った。

 そんな矢先、


(っ! 来たかぁ……)


 プロキシー出現の反応により、舞那は現場へと向かうことになった。

 リストは邪魔になるため家に置き、アクセサリーだけを持って外出。

 目的地は徒歩15分程の位置にある空き地。周囲には廃工場や廃墟など、人が住んでいない建物が並んでいるため、変身前後を見られるリスクは少ない。


(要注意人物と出会いませんように!)


 今の舞那はプロキシーよりも、要注意人物指定されたプレイヤーの方が怖いと感じている。

 そして余程嫌なのか、舞那は要注意人物と遭遇しないことを祈りながら走った。


 夏休みに入ってからというもの、毎日のようにプロキシーが出現している。1日に複数回出現することもある。その度に舞那は出現場所まで走る。

 持久走やランニングとは違い人の命が関わっているため、走る時は常に全力疾走。到着する頃には息が上がる。

 しかしそれが連続したためか、いつしか舞那の疲労は軽減されていた。最初の頃は嘔吐しそうになる程疲れていたが、今では少し息が上がるだけで体調には問題がない。

 気付いた時には走り方が変化し、呼吸も変化した。このまま全力疾走を続ければ、いつかはアスリートのようになるのだろうか。そんなことを考えているうちに、舞那は目的地に到着した。


「っ!」「……」


 到着したのはいいのだが、別ルートから走ってきた別の高校の生徒と遭遇した。

 このタイミングでプロキシーのいる場所まで走ってくるのは、ほぼ間違いなくプレイヤーの1人。

 舞那とその女子生徒は目が合い、同時に黙った。しかし目の前にプロキシーがいることを改めて理解し、停止しかけていた脳を再び動かした。


「とりあえずこいつ倒そう! 話はそれから!」

「……だね」


 女子生徒はアクセサリーを取り出し、一部にオレンジの塗装が施されたナイフへと変化させた。

 それと同時に舞那もアクセサリーを変化させ、2人は戦闘準備を整えた。


「変身!」「変身!」


 変身後、黒に近い茶色だった女子生徒の髪はオレンジ色に変化し、目を覆うほどの長い前髪は眉毛の上まで縮んだ。

 下半身はオレンジのミニスカートと黒いハイソックス、上半身はオレンジの法被とグレーのタンクトップを着用。舞那や雪希同様に奇抜な服装である。


(この人……要注意人物じゃん!)


 橙の要注意人物、風見心葵かざみかなた

 写真は変身後の姿だけだったが、舞那はその姿を記憶していたため、今現在真横にいるプレイヤーが要注意人物であることに気付いた。


オレンジの能力、知ってる?」

「まだ知らない」

「……よかったら合わせてくれる? 橙の能力はあまり戦闘向けじゃないから」


 橙の能力はあまり戦闘向けではない。

 それを聞いた舞那は、動体視力向上のような「勝利を決するものではない」能力なのではないかと予想した。

 龍華から貰ったリストには能力の概要が記載されているのだが、丁度そのページを閲覧しようとした直後にプロキシーが出現したため確認できていない。


「行くよ!」

「うん!」


 舞那は特に詮索することもなく、心葵に合わせてプロキシーへの攻撃を開始。

 今回出現したプロキシーの体色は緑色。能力を持たないため苦戦することはないと思われる。

 心葵がナイフで攻撃し、反撃をしてくると同時に舞那が前に出て盾で防ぐ。そして青の能力によりプロキシーは体力が低下し、生まれてくる隙を心葵は確実に突いていく。

 初対面とは思えないほど息のあった攻撃はプロキシーを翻弄する。対するプロキシーはダメージと疲労により戦闘意欲を喪失。逃走を謀った。


「逃がさない!」


 逃走を見抜いた心葵によりプロキシーは脚を切り落とされ、顔面から地面に転倒した。

 プロキシーにも痛覚があるため、脚を切断されたのならばもちろん、地面に顔面をぶつけた時でさえも痛いと感じる。それ故にプロキシーはその場で悶え、さながら死にかけの幼虫のような動きをしている。

 そんなプロキシーを憐れんだのか、舞那は無言のまま右手に光を集中させ、確実に死ねるように頭部を殴った。

 プロキシーの動きは止まり、少ししてから砂へと変化した。


「ふぅ、終わった……」


 プロキシー討伐で舞那は若干気が緩む。

 しかし今この場にはプレイヤーが2人。決して気を緩めてはいけない。舞那はそのことに気付いたが、既に遅かった。


「ごめんね、嘘ついて」


 舞那の首元にはナイフの刃。

 そして舞那の真後ろには、殺意を剥き出しにした心葵の顔があった。

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