《15》 写真
青いプロキシーは理央へと襲いかかるように、アパートから飛び降りた。
しかし飛び降りている最中に理央が2回狙撃。プロキシーは両膝を負傷し、バランスを崩した挙句脚力を失い、攻撃が理央に届くことなく地面に激突した。
「私、直接戦うの好きじゃないんだ。悪いけど、そのまま大人しく死んでくれる?」
理央の銃は一般的な銃声とは違い、特撮の玩具などで使用される特殊な音声に近い音が鳴っている。
そして一般的な銃とは違い、発砲時に銃弾を発していない。この銃から発せられているものは、黄色の光を集約させたもの。この光は他のプレイヤーも「武器や身体に纏わせる」という形で使用しているが、黄色のプレイヤーはその光を銃弾という形で使用している。
「じゃあね」
理央は頭部に2発、胴体に4発の銃弾を撃ち込み、プロキシーを駆除した。
あっさりと駆除が終わり、後方で待機していた舞那達は呆然としていた。
「さて、戻ろ……」
振り向きざまに理央は変身を解除し、元の姿へと戻った。その後理央はアクセサリーを服の中へ隠し、学校へ戻るため歩き始めた……のだが、ある程度歩いたところで立ち止まった。
理央の目線の先には舞那達が立っており、3人は自分達もプレイヤーであることを示すべく、アクセサリーを理央へと見せている。
「まさかうちの生徒でプレイヤーが……しかも3人もいるなんて。もしかしてやる気? 悪いけど、私プレイヤー同士の戦いには興味無いの」
「副会長、放課後空いてる?」
「空いてるよ……じゃあ、ホームルーム終わり次第、生徒会室まで来てくれる?」
「わかった……」
舞那達3人と理央の会話はここで終わり、舞那達は教室へと戻った。
◇◇◇
放課後、予定通り舞那達は生徒会室へとやって来た。3人は生徒会室に来るのは初めてであり、表に出さない程度に緊張している。
中に入ると理央が出迎え、部屋の中心に置かれた机へと案内された。
机の左右にはパイプ椅子が並べられており、舞那達は左側の椅子に、理央は右側の椅子に座った。
「さて、こうして集まった訳だけど、わざわざ放課後を指定してまで話したいことって何?」
「……副会長さっき、プレイヤー同士の戦いには興味無いって言ってたけど、本当?」
「本当。プレイヤー全員が神に等しい力を欲しがってる訳じゃない。それはそっちも分かってるでしょ」
理央の口から戦いの意思がないと確認できた舞那達は、生徒会室云々とはまた別に感じていた緊張を打ち消すことができた。
「じゃあさ……私達と手を組まない? 黒の私、白の日向子、青の舞那、そこに黄の副会長が加われば」
「いいよ。組んであげる」
沙織のセリフを最後まで聞かず、沙織の案を飲んだ理央。一切迷いのない回答に若干戸惑ったが、理央が案を飲んでくれたことに沙織は素直に喜んだ。
「けど、条件がある」
「条件?」
「……私の事、名前で呼んで欲しい。学校の中でも外でも、他の人からは副会長としか呼ばれない。もういい加減うんざりしてたの。私の事名前で呼んでくれる?」
副会長である理央と、生徒会長である3年生の生徒は、友人や教師以外からは名前で呼ばれていない。
一応、全校生徒が理央達の立場を理解した上で呼んでいるため、呼ばれる側としては悪い気はしていない。
しかし理央に関しては、どちらかというと名前で呼ばれたいと考えているため、交友関係が広がる度に呼び方の矯正を行っている。
「もちろん。じゃあこれからよろしく、理央」
「うん。ところで、仲間のプレイヤーって他にはいないの? いるんだったら実際に会ってみたいんだけど」
「一応いるよ。それも私達と同じ学年。アクセサリーの色は赤で、名前は廣瀬雪希」
「廣瀬雪希……連絡先交換とかしてる?」
「してるよ。でも多分呼んでも来ないよ?」
「あー……じゃあ私の事言っておいて。それと……」
◇◇◇
舞那達が生徒会室で話をしている頃、特に予定のない雪希は帰宅中だった。
プロキシー云々のことなど考えず、今日これからのことだけを考えていた雪希だが、ポケットのスマートフォンが振動して思考は一旦止まった。
(画像?)
画面には「まいなが画像を送信しました」という通知が表示されている。
相手が舞那であるため、雪希は何の警戒もせずにトーク画面を開いた。
(え、何この写真……)
トーク画面には画像と、「新しく仲間になった理央だよ」というメッセージが届いていた。しかし雪希はメッセージよりも画像に衝撃を受けている。
舞那から送られてきた写真には、舞那が自撮りをする形で4人全員が写っている。ただ、舞那達はブラが見えない程度にシャツのボタンを開け、日向子以外の3人は胸の谷間を強調している。谷間を見せる3人は照れ顔だが、日向子に関しては殺意剥き出しの顔である。
どういう意図がありこのような写真を送ってきたのか、敢えて雪希は考えようとしない。しかし、雪希は写真を見て僅かに微笑んでいた。
(……なんか、懐かしい気がするな)
4人が写るふざけた写真は、雪希の中にある"誰も知らない記憶"を刺激し、記憶の中の舞那達をフラッシュバックさせた。
(けどまさか、理央までプレイヤーになるなんて)
雪希は写真を保存した後、「写真のことは敢えて触れないとして、これからよろしくって副会長に伝えておいて」と返信。
(やっぱり、運命には抗えないのかな……)
写真を見た雪希の脳内に"かつての自分達"の姿が蘇る。
雪希は追憶の中の風景を懐かしむが、同時に自分達の運命を悟り、少し顔を伏せた。
◇◇◇
雪希からの返答を確認した理央は、期待通りの反応ではなかったため若干落胆気味である。
「さて、早く帰ってあげないと、同居人が寂しさのあまりオナニー始めちゃうから、私はそろそろ帰るね」
「オナ……まあいいや。同居人ってことは寮生活でもしてるの?」
五百雀高校から歩いて2分の場所には、部活生や他県から来た生徒が住んでいる寮が存在している。
舞那達は地元の人間であるため、寮ではなく自宅から通学している。
「いや、普通の一軒家。私はその一軒家に住み着く居候なんだ」
「い、居候?」
「そ。あ~そうだ。帰る前に連絡先交換しとこ」
流すように連絡先交換へと移った理央はスマートフォンを取り出し、交換を促すようにスマートフォンを軽く振った。
「じゃあ気をつけて帰りなよ。そんじゃあね」
理央は生徒会室を出た直後に走り始め、ミニスカートが多少めくれ上がることも惜しまず全力疾走を続けた。
「……早く帰りたいならそう言えばいいのに」
◇◇◇
「ただいま杏樹! ごめん遅くなった!」
玄関を通過し、靴を脱いで居間に駆け込んだ理央。
リビングでは杏樹が机に伏せており、理央が帰ってきたことに気付いてから顔を上げた。
「遅い。何やってたの?」
「新しい仲間ができた!」
「……どんな子?」
理央は舞那達のことを、知っている限り具体的に説明をした。
しかし説明を受けている杏樹の表情は優れず、理央が説明を続けるにつれて段々と苦い表情になっていった。
「……そんなこんなで、仲間増えた!」
「……なんか機嫌良さそうだね。可愛い子?」
「写真あるよー」
理央はスマートフォンを取り出し、4人で撮った写真(舞那に送ってもらった)を杏樹に見せた。
「……言っておくけど、理央には私がいるんだから、他の子に手ぇ出したら怒るからね」
「大丈夫大丈夫。多少イチャつくことはあっても……」
理央と杏樹は会話の最中でキスをした。
そしてそのまま理央は杏樹を床に倒し、杏樹に覆い被さる形で数秒間キスを続けた。先程までの表情はどこへ行ったのか、杏樹は恍惚とした表情で舌を絡ませている。
キスが終わると、2人の舌の間には唾液が糸を引いていた。最早どちらから分泌された唾液が判断できない。
「私の本命は杏樹だから……」
「……安心した」
再び、2人はキスを続行。
2人にはお互いの息と声、舌が絡み合う音以外は聞こえておらず、静かな空間でこうしている時間を幸せに感じていた。
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