惹かれ合うプレイヤー達

《14》 副会長

「ん……んん」

「んっ……」


 生徒会室のソファに座り、卑猥な音と艶かしい声を発しながらキスをする2人の少女。重ねた唇の柔らかさで2人の興奮度は高まり、無意識に舌を絡めている。

 生徒会室の廊下側の窓は透明度が低いため、廊下を歩く生徒から見られることは無い。

 とは言えここは学校であり、本来であればこのような行為を行う場所ではない。それを分かっていながらキスを続けるという背徳的な行為から生まれる緊張は、2人の劣情を刺激して興奮をさらに高めた。


「んぐっ、はぁ……もう、学校ではなるべく我慢してっていつも言ってるじゃん」


 頬を僅かに赤く染めながらも説教をしている、癖のある茶髪をツインテールにした少女の名は久我くが杏樹あんじゅ

 一応舞那と同じ年齢ではあるが、舞那よりも背が低く童顔であるが故、よく子供扱いされている。


「杏樹がキスしてほしそうな顔してたからじゃない。それに、怒ってる割にはいい顔してるじゃん」


 杏樹よりも僅かに明るい茶髪をセミロングにした少女の名は笹部ささべ理央りお。杏樹とは同じクラスである。

 理央は雪希と同等かそれ以上に容姿端麗であり、非の打ち所のない完璧な女子高生だと生徒達からは言われている。基本的に、低身長で貧乳である杏樹と行動を共にしているが、その体型の違いは歴然としている。特に胸に関しては、杏樹が軽く嫉妬する程である。


「全く……生徒会の仕事があるからって授業抜け出したのに、これじゃ授業サボったこのになるよ」

「いいのいいの。言うでしょ? バレなきゃ犯罪じゃないって。まあ、杏樹はバラしたりしないよね」

「当たり前でしょ。というか言えるはずないし。早く戻ろ、あんまり長居すると怪しまれちゃう」


 ◇◇◇


 3時間目が終わり、10分間の休憩時間に入った生徒達。

 あと数日で学校は一旦終わり、夏休みがやってくる。それだけで生徒達は「今日」を頑張れていると言っても過言ではない。そして夏休みを目前に控えた生徒達は、有り余る期待を放出しながら騒いでいた。


「雪希~、ちょっといい~?」


 教室の出入口付近にいた女子生徒が、日向子、沙織と話していた舞那に声をかけた。

 舞那がその生徒の方を見ると、出入口付近で雪希が舞那を待っていた。


「廣瀬さん……?」


 ◇◇◇


 場所を移動し、舞那と雪希はプレイヤー云々についての話をしていた。その会話の中で、沙織と日向子についての説明も入り、どのようなことを教示されたかなども話した。


「松浦さんと西条さんもプレイヤーだったなんて……」

「もしかしたら私達の他にも、この学校の生徒でプレイヤーがいるかもしれないね。好戦的な人じゃなかったらいいんだけど」


 最大で27人存在するプレイヤーのうち、4人が五百雀高校の生徒である。

 そこで、舞那はあることを疑問に思った。その疑問は一見初歩的な疑問だが、自己解決できないような疑問でもある。


「そういえば、プロキシーってこの近辺にしか出現しないの? もし世界中にいるんなら、絶対アクセサリー足りてないよね」

「……それは私も疑問に思った。一応メラーフに聞いたけど、なんか漠然とした返答だったから信憑性は薄いかな」

「んー……メラーフってもしかして、敢えて説明を不十分にして、私達には重要なことを教えないようにしてるのかな?」


 核心に触れたような舞那の発言で、2人の会話に数秒の沈黙が生まれた。


「まあ……神のみぞ知るって言葉もあるしね。けど、いつかは全部話してもらうつもりだよ」


 雪希は自身の考えていることを悟られぬよう、何食わぬ顔で話題を終わらせた。


「それじゃあ、松浦さんと西条さんに私のこと説明しておいて。ついでに、2人とは戦う気が無いってこともね」

「わかった……っと、休み時間終わっちゃうから戻ろ」


 休み時間が終わるまで残り2分。2人はそれぞれの教室に向かい歩き始めた。


(はぁ……ま、言えるはずないよね)


 廊下を歩く最中、雪希は舞那に対して罪悪感を抱いていた。しかしそのことは表に出さず、雪希は平然としていた。


 ◇◇◇


 4時間目。舞那のクラスは本来授業の予定だったのだが、担当教員の都合により自習になった。

 束の間の平和に生徒達は歓喜。しかしそれと同時に、担当教員の都合というものが気になっていた。普段自習に変更する際は、具体的な理由が伝えられるのだが、今回は明確な説明が無く、舞那を含めた生徒達は少しだけ不審に感じている。


「昨日は普通だったよね。どうしたんだろ?」

「事故……何か事件に巻き込まれたとか?」

「まさか……でも、そう考えたら納得できるかも」


 生徒達はその教師についての話をしているが、代理でやって来た教師は一切触れようとしていない。

 その時、


(っ! 嘘……学校に居る時に……)


 プロキシー出現の反応により、舞那の脳内に出現場所がイメージされた。

 舞那は沙織、日向子とアイコンタクトで確認し合い、プロキシー討伐に向かうために教室を抜け出した。


「学校にいる時に来るとか……空気読みなさいよね!」

「もしかして……先生が来てないのって!」

「まさか……」


 出現場所は学校のすぐ近くにあるアパート。全部屋中半分に住民が存在しているが、恐らく到着する頃には住民全員が喰われている。

 しかし舞那達はそれどころではなく、例の教師はプロキシーに喰われたのではないかと考えていた。教師の出勤時間に反応は無かったが、反応範囲外だと反応がないため、喰われていたとしても不思議ではない。

 ただ単純に、プロキシーが関係していない完全に別件で欠勤している可能性もある。どちらにせよ、他の教師が明言していないため、その教師に何かがあったことは間違いない。


「っ! ちょっと待って!」


 出現場所に近付いた時、戦闘を走っていた沙織が急停止。後ろを走っていた舞那と日向子を止めた。


「あれ見て」

「あれは……副会長?」


 沙織の指さす先にはアパートがあり、アパートの前に制服を着た少女が立っている。

 少女は五百雀高校の生徒会副会長。その正体は、3時間目に生徒会室でキスをしていた理央。そして理央はアパートの前で右手を振り、突如として銃を出現させた。


「まさか……副会長も!?」


 理央の持つ銃は黄色一色で、おそらく実在しないであろう見た目をしている。


「変身」


 理央は黄色の光に包まれ、光が弾けると同時に変身を完了させた。

 セミロングの茶髪は黄色のロングヘアへと変化し、表情も変化しているようにも感じられる。一応、これはプレイヤー共通であるが、顔自体は変化していない。

 制服は黄色のロングスカートと、白と黄色のトップスへと変化している。他の色のプレイヤーはミニスカートやショートパンツなど、比較的動きやすい服装だが、黄色の服は動きにくそうな服装である。


「さて……やろっか」


 理央は銃を構え、僅かに見えるプロキシーの身体の一部を撃った。

 プロキシーは撃たれた箇所から血を噴出させ、奇声を上げながらアパートから飛び出した。

 プロキシーの体色は青。原色のプロキシーはプレイヤーと同じ能力を使用するため、プレイヤーは能力に注意しながら戦う必要がある。


「青のプロキシーってことは……舞那と同じ能力だね。場合によっては加勢することになるかも。いい?」


 沙織の問いに無言で頷く舞那と日向子。3人はそれぞれアクセサリーを取り出し、いつでも変身できる状態になった。

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