《11》 カツアゲ
テスト最終日。
数日間に渡り続いた地獄を乗り切った生徒達は、解放の喜びに浸り上機嫌のまま下校時間を迎えた。
しかし生徒達は、テスト終了と同時に訪れるもう一つの地獄「テスト返却」から目を背けている。
そして教師達は生徒の答案したテスト用紙の答え合わせを開始。生徒一人一人のテストに目を通すうちに幾度かゲシュタルト崩壊を起こしかけたが、テストの点数に絶望する生徒達の顔を思い浮かべてどうにか答え合わせを続行できた。
教師達が悪魔のような表情で答え合わせをしているとも知らずに、生徒達は解放の喜びを分かち合うためにカラオケや友人宅で騒いでいた。無論、舞那達も例外ではない。
「テストが終わったことを祝して……」
「「「乾杯!」」」
放課後、日向子の家で乾杯をする舞那、日向子、沙織の3人。日向子の家は一軒家であり、今の時間は家族が誰もいないため、3人は誰にも気を使うことなく騒ぐことができる。
ただ、3人のコップには果汁10%の味が濃いグレープジュースが入っており、もしもこぼした時には大事になる。そのため乾杯の際には細心の注意を払いながら、なるべくコップを揺らさぬように行われた。
「期末テストが終わったということは、もう少しで終業式。そして終業式の先にあるものは、待ちに待った夏休み! ということで、これを期にみんなでどこか遠出しない?」
「いいけど……どこ行く? 私的にはなるべく海は避けたいんだけど」
「なんで?」
「……あんまり水着姿で外歩きたくないし、その……ちょっと太ったから」
「あ?」
舞那の「太った」という発言に対し、つい先程まで機嫌よく話していた日向子の表情が暗くなり、本来ならばプロキシーに向けるであろう殺意を露わにした。
「舞那……あんたは太ったって言ったけど……それ、本気で言ってる?」
「本当のことだし……この前だって太ったせいでブラのホックが外れ」
「あぁ? 舞那ぁ、それ私に対する暴言? 貧乳である私に対する侮辱?」
舞那自身は太っていると思っている。
対して、日向子を含めた舞那の友人知人のほぼ全員が、舞那は「太っている」訳ではなく「低身長グラマラスボディ」だと思っている。
さらに、舞那の友人には日向子を筆頭に貧乳に悩まされている者がいる。お互いに友人であるとは思っているのだが、貧乳の友人達は舞那の身体を妬ましく思っている。そのため、舞那が自身の身体について何か発言すれば、貧乳の友人達の機嫌は一瞬で悪くなる。
「私なんかブラのホック外れたことないんだけど? いいよね舞那は。そんなエロい身体してて……ねえ、その身体私にくれない? ねぇ? ねぇ!?」
「やめな日向子。舞那だって悪気がある訳じゃないんだし」
今にも変身して舞那に攻撃しそうな日向子を見て、沙織が呆れたような表情で静止。
せめ寄られる舞那は、日向子に対してプロキシー同等の恐怖を感じたが、沙織の制止により安堵のため息を吐いた。
「ちっ! まあいいや。じゃあ海は却下。他は?」
その後、会話の中で幾度が候補は上がった。しかし誰かが案を出せば誰かがそれを拒否。
結論、決まらなかった。
◇◇◇
無駄な時間を過ごし終えた3人は解散し、舞那と沙織は帰宅中。
(結構話したと思ったけど、まだこんな時間か……)
雑談などもかなり混じえて話していたが、日向子宅に到着してから現時点まででおよそ2時間しか経過していない。帰ったところで特にやることはない舞那だが、他にやりたいこともないため、そのまま家に向かって歩いた。
「ねぇ、そこのメガネちゃん」
帰宅途中、後方から声をかけられた舞那は振り返った。その先には、舞那の通う高校の近隣に存在する水瀬高校の女子生徒3人が立っている。
水瀬高校は昨年度まで女子校だったが、今年度からは共学になっている。しかし水瀬高校の評判は少々悪く、共学化が発表されてからも入学希望者の数は減少していた。
そんな高校の生徒数人から声をかけられるということは、間違いなく自身には一切得のないような会話をすることになる。
「悪いんだけどお金貸してくれない?」
「嫌です」
舞那の予想通り、水瀬高校の生徒は金銭を要求。当然断った舞那だが、相手もそう簡単に引き下がるような輩ではない。
「えー? いいじゃん貸してよー!」
「だから嫌です。どうせ返さないんでしょ?」
「うーわ、ムカつく~。けど、私等優しいからさぁ、お金くれるんなら大人しく解放してあげる」
「その身体つかってキモいオッサンら金巻き上げてるんでしょ? どうせオッサン捕まえればまた金入るし、いいでしょ」
服の上からでも分かる舞那の巨乳を見た生徒達は、舞那は自らの身体を武器に援助交際をしていると誤解。
実際、舞那は何度か援助交際を求められたことがあるが、毎回拒否した後に警察へ通報している。
「そっちこそ、その辺の人捕まえればそれなりにお金くれるよ。あ、それとも……知らない人で処女失うの、嫌?」
「~っ! あんたなんなの!? 折角優しく接してるってのにさぁ!」
「あれ、図星突かれて焦った?」
舞那は低身長であり童顔であるが故、気弱そうに見られがちである。しかし舞那の性格はその真逆であり、今回のような状況になると相手を挑発するような発言をしてしまう。
そんな舞那の発言により、大概の相手は頭に血を上らせる。
「……あんたさぁ、ちょっと痛い目見ないとその口閉じれないの?」
「さっきから思ってたけど、今どきそんなベタなカツアゲする人いるんだね」
「っ……殺す!」
1人の生徒が舞那の胸ぐらを掴み、力を込めた拳で舞那を殴ろうとした。しかし、
「あんた達、何やってんの?」
突如現れた第三者の介入により、生徒の拳は止まった。
言葉で生徒を制止したのは水瀬高校の制服を着た女子生徒。髪は茶色く、雪希よりも少々背が高い。そして何よりも、この場にいる誰よりも美しい。
「い……犬飼さん……」
「あんた達みたいな腐った生徒のお陰で、うちの学校の評判は悪くなる一方。だからさ……今日で学校辞めてくんない?」
犬飼と呼ばれるその女子生徒は突如走り出し、舞那を囲んでいた生徒のうち1人の腹部を殴った。嘔吐はしなかったものの、殴られた生徒は肺の中の空気を全て吐き出しながらその場に倒れた。
続いて身体を回転させ、別の生徒の側頭部に回し蹴りをくらわせた。その生徒は地面に倒れる前に気を失ってしまった。
最後に、舞那の胸ぐらを掴んでいた生徒の首を掴み、首を通る血管を塞ぐように指を食い込ませた。そして左手の指を首に食い込ませたまま、犬飼は右手で生徒の顔の中心を殴った。殴られた生徒は鼻血を噴出させながら地面に倒れ、折れた鼻を抑えながら声にならない悲鳴を上げた。
「いい? あんた達は今日で退学。二度と私の前にその汚い面見せないで」
生徒達は涙を流しながらその場から去り、その後ろ姿を見ながら犬飼はため息を吐いた。
「はぁ……ごめんね、うちのバカ達が。まあ今日でうちの生徒じゃなくなったけど。じゃあ、気をつけて帰ってね」
「あ、あの!」
舞那は歩き始めた犬飼を呼び止め、
「その、ありがとうございます。私、
「……
他校の生徒との関係を築けた舞那は機嫌がよくなり、軽い足取りで再び家に向かって歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます