《7》 殺し合い
雪希の説明は続く。
「プレイヤーはアクセサリーを武器に変えると、さっきの私みたいに変身できる。けどそれには条件があって、アクセサリーを所持したプレイヤーに戦う意思が無いと変身できない。そもそも戦う意思が無いとプロキシーも倒せないしね」
「でもなんでわざわざ見た目変えるの?」
アクセサリー自体に能力が備わっているため、変身しなくとも能力の使用自体は可能。しかし、雪希を含めたプレイヤー達が変身するのにはちゃんとした理由がある。
むしろ理由がなければ変身はしない。
「変身すれば身体能力が上がって、プロキシーとまともに戦うことができるの。それと、万が一知り合いとかに見られても、正体バレないしね」
「なるほど……でも、もし私がアクセサリー持ってない状態で、さっきの状況をたまたま生き延びてたらどうしてたの?」
正体判明を避ける役割も果たしている変身だが、今回の舞那の様に一部始終を目撃していれば正体はバレてしまう。
「それなら大丈夫。仮にあの場でプロキシーを見た人がいても、プロキシーが死ねばそのプロキシーに関する記憶は消える。つまり、もし木場さんがアクセサリー持ってなかったら、今頃木場さんの脳内にはプロキシーの記憶は残ってない」
「そうか……だからお父さんは……」
以前、墓参りの帰りにプロキシーと遭遇した際、誠一はプロキシーのことを覚えておらず、気絶したことも覚えていなかった。しかし舞那は覚えている。これはアクセサリーを所持しているか否かで決まり、プロキシー云々のことを理解していなくとも、アクセサリーを所持したプレイヤーであれば記憶は残る。
対して、アクセサリーを持たない一般人がプロキシーを目撃すれば、そのプロキシーが生きている限りその人間の脳内にプロキシーの記憶が残る。しかしそのプロキシーがプレイヤーの手により殺されれば、その人間の脳内からはプロキシーに関する記憶が完全に消え去る。
仮にあらゆる手で記憶を再生させようとしても、絶対にプロキシーのことを思い出すことは無い。仮に直接脳に聞いたとしても、脳は知らないと答える。
言ってしまえば、これは忘却ではなく記憶の消滅。脳がそもそも記憶していない……と脳が錯覚する。故に1人の人間が複数回プロキシーを目撃しても、プロキシーが死ぬ度に記憶が消滅するため、出会う度に「初めて見るもの」として脳に記憶する。
「そういえば、なんで私達はプロキシーと戦わなくちゃいけないの? というか、そもそもプロキシーって何?」
「……生憎、プロキシーに関することは私も知らない。だから戦う理由だけ話すよ」
雪希や他のプレイヤーは、プロキシーがそもそもどういった存在なのかということは知らされていない。それ以前に、プロキシーやアクセサリー、メラーフのことなどの根本を知らされていない。
「私達は第1に、全プロキシーの駆除を行う。メラーフの情報が正しければ、プロキシーの数は全部で700体前後」
「700体……」
「そう。とりあえず私達はプロキシーを殺して、プロキシーの被害を抑えるためにたたかってるんだけど……」
雪希は目線を逸らし、先程までよりも若干表情が険しくなった。
「ただ、それと同時に、私達プレイヤーは互いに殺し合う必要があるの」
雪希達が行う必要があるもの。それは、プレイヤー同士の殺し合い。
プレイヤーはプロキシーから人々を守るために戦っている。しかしなぜそのプレイヤー同士が殺し合いをしなければならないのか、プレイヤーになりたての舞那には理解できなかった。
「な、なんで? プロキシーを全員殺せばそれでいいんじゃないの?」
「プロキシーを全員殺しても、私達にはこれといった謝礼はない。けど、唯一メラーフかや謝礼を受け取る方法がある。その方法は至って簡単、自分一人だけが生き残ればいい」
「んー……因みにその謝礼って、何を貰えるの?」
「プレイヤーが1人だけ生き残ったら、メラーフから『神に等しい力』を貰える。一応、メラーフからはそう聞いてる」
現在雪希が話していることは、全てメラーフの口から教わったこと。そのため、全てが真実とは限らない。
しかし雪希を含めたプレイヤー達は、アクセサリーやプロキシーといった非現実的なものを既に見ているため、信じられない話でも信じきれなくなっている。
仮に、神に等しい力を授けられるというとがメラーフの嘘であったとしても、プレイヤー達はその嘘を信じ続けて戦い続ける。一見するとただの愚行だが、プレイヤー達にはその愚行を続ける理由が各々存在する。
「神と等しい力を得ることができれば、自分の思い描く通りに世界を変えることができるらしいの。だからプレイヤーはその力を求めて戦ってる……って訳」
雪希を含め、殆どプレイヤーには叶えたい願いがある。しかしどれも自力で叶えられる願いの範疇を超えているものばかりで、メラーフから与えられる予定の神に等しい力を使わなければその願いは叶えられない。
故にプレイヤー達は神に等しい力を求め、死と隣り合わせの人生を歩むことを決意した。無論、雪希もその1人である。
「私的には、できることならプレイヤーを殺さずに終わりたいんだけど……人間やっぱり欲には勝てないみたい。叶えたい願いはあるし、誰かが私を殺して神と等しい力を得るんだと思えば……いっそそいつを殺して私が生き残ってやろうって思えてくる」
雪希の話を聞いた雪希はあることを疑った。
既に雪希はプレイヤーを何人か殺めているのではないのか。そして自分も雪希の殺害対象に入っているのではないのか。
そんな疑いを抱きつつも、舞那はそれを口に出さず、疑心を押し殺して雪希の話を聞き続けた。
「まあプレイヤーを殺さなくても、持ってるアクセサリーさえ壊せばそのプレイヤーを退場させることができるんだけどね……」
「そうなの?」
「……ただ、アクセサリー自体の耐久性が高くて、1人の力で破壊するのは正直難しい。プレイヤーさえ死ねば、後はアクセサリーを回収するか破壊すれば済む話だし」
アクセサリーそのものの耐久性は、ごく一般的なシルバーアクセサリーと同等。しかしプレイヤー同士が戦うともなれば、当然アクセサリーは武器へと変化する。武器へと変化したアクセサリーの耐久性は異常であり、人の手では破壊できないと言っても過言ではない。
武器へと変化したアクセサリーとアクセサリーがぶつかればお互いに消耗し、いつかはどちらかが破壊される。
加えて、アクセサリーはプロキシーの攻撃で破壊される。そのため、自分の命にばかり気を取られていればアクセサリーを破壊され、プレイヤーでいられなくなる。
武器状態のアクセサリーの消耗やダメージは戦闘が続くにつれ蓄積されるが、一度アクセサリーへと戻せばその消耗やダメージはリセットされる。仮に舞那の盾に多少ヒビが入ったとしても、砕ける前にアクセサリーへと戻せばヒビは癒える。
しかし、アクセサリーへと戻すということは、変身を解いて生身に戻るということ。戦闘の最中にアクセサリーへと戻すのはかなり危険な行為であることを雪希達は理解しているため、1つの戦闘が終わるまでは決してアクセサリーへと戻したりはしない。
「これで必要最低限のことは教えたはず。悪いけど、今日はこれから用事あるから、分かんないことあったら学校……は良くないから、とりあえず連絡先交換して、気になったら連絡するようにしよう」
「う、うん」
舞那と雪希はスマートフォンを取り出し、お互いの連絡先の交換を開始。
人を殺めているかもしれない相手と連絡先の交換をするのは少々気が引けるが、この先のことを考えた上で連絡先を知っておくのは損ではないと踏んだ舞那は連絡先交換を快諾。
「じゃあ私は帰るね」
「あ、玄関まで送るね」
雪希は舞那の後を着いて歩き、玄関で靴を履きながら注意事項を話し始めた。
「ああそうだ、連絡するのは夜の10時までにしてね。私10時には寝るようにしてるから、そこだけ気を付けてね。あーそれと、アクセサリーとかプロキシーのことは他言しちゃダメだよ。あ、さっきの紅茶美味しかったよ。ごちそうさま」
最後に紅茶の感想を述べ、雪希は玄関のドアを開けて出ていった。
(紅茶美味しかった、か……もしかしたらいい人かも……)
先程まで抱いていた筈の疑心は少々緩和され、舞那の緊張は若干ほぐれた。
しかし疑心は残っており、完全に雪希を信用している訳では無い。そんなことを考えながら、舞那は玄関の鍵を閉めた。
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