《6》 説明不足
「さて、そろそろ時間を動かすから、分からないことは廣瀬雪希に聞いて頂戴」
「え、ちょっ!」
突然の時間停止解除を告げられた舞那は戸惑い、まだ完全に現実を受け入れきれていない状態で再びプロキシーと対峙した。
先程まで停止していた全ての時間が動き始め、舞那へと向けられたプロキシーの手も動き始めた。
眼球目掛けて突き出されたプロキシーの手は、舞那の盾に阻まれ止まった。舞那はプロキシーの動きに反応できていなかったが、舞那の脳が考えるよりも先に身体が動き、舞那の意志に関係なくプロキシーの攻撃を防いでいた。
「すごい……本当に身体が勝手に……」
「まさか……木場さんも!?」
今までの舞那の反応を見た限り、舞那はアクセサリーを所持する人間ではないと雪希は予想していた。そしてプロキシーを目の前にして戦わないところを見て、雪希の予想は確信に変わった。
しかし、舞那の危機に自らが手を伸ばした直後、何の前触れもなく舞那の腕に盾が装着された。さらに舞那は自身の腕に盾が装着されたことに対して驚きの色を示していない。
以上の事を踏まえ、雪希は「メラーフが現れて舞那にアクセサリーを使わせたのだ」と理解した。むしろそうとしか考えられなかった。
「ごめん木場さん! あと20秒だけ耐えて!」
「え!? わ、分かった!」
「はああ……!」
刀を地面に突き刺した雪希は、柄を強く握って脚に力を集中させた。
5秒程力んでいると、姿が変わる際に発していた赤い光が脚に集約。
自らの脚に光が貯まったことを感じた雪希は、目の前にいる白いプロキシーを殺すために一旦刀から手を離した。
「てぇやあああ!」
雪希は斜め上へと飛び上がり、白いプロキシーの頭部目がけて全力の飛び蹴りを披露。
足裏がプロキシーに当たる直前に光は右足へと移り、左脚を曲げて右脚だけで飛び蹴りを喰らわせた。
「グチュ」と「ゴリ」が混じった音を立て、白いプロキシーの首と身体は分裂。頭部はそのまま雪希に踏み潰され、脳に似た臓器と凹んだ眼球を周囲に散らせた。
白いプロキシーの身体全体にヒビが入り、以前舞那が遭遇したプロキシーのように砂となってその場に崩れ落ちた。
同時に、雪希に踏み潰されていた頭部、及び撒き散らされた臓器も砂へと変化し、白いプロキシーは死を迎えた。
「ごめん待たせた!」
雪希は白いプロキシーが死んだことを確認し、地面に突き刺した刀を回収しながら舞那のところへと加速。
攻撃を防いでいた舞那を避け、雪希は刀を振ってプロキシーへと斬りかかった。赤いプロキシーは白いプロキシーより防御力が劣るため、雪希の斬撃を受けて左腕が切断された。
「はあああ!」
そして雪希は相手に反撃の余裕も与えず、次の攻撃に移行。
赤いプロキシーの真上から、僅かな偏りもなく真っ直ぐ下に刀を振り下ろした雪希。振り下ろされた刃は赤い残像を残しながら、減速することなくプロキシーを切り裂いた。
攻撃を受けた直後、赤いプロキシーの目は焦点がずれ、切り口から血を吹き出しながらその場に倒れた。
赤いプロキシーも白いプロキシー同様、吹き出した血液を含めて完全に砂へと変化し死を迎えた。
「ふぅ……木場さん大丈夫?」
「大丈夫……だと思う。それより、その……色々と聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「いいよ。けど、あんまりは時間無いから全部は話せないよ。それとここで話すのもあれだし、どこか別の場所で話さない?」
「あ、じゃあ私の家は? ここから近いし、今は家に誰もいないし」
◇◇◇
10分程歩き、舞那と雪希は木場家に到着。
舞那の父親である誠一は現在、担当編集者と共に打ち合わせを行っているため不在。プロキシーなどの、一般人には話せないような話も気兼ねなく話せる。
舞那は紅茶を用意し、自室に招いて本題を始めた。
「さて……じゃあまず私達について。私と木場さんみたいに、アクセサリーを使ってプロキシーと戦う人達はプレイヤーって呼ばれてる」
「プレイヤー? もしかしてプロキシー云々って、ゲーム感覚でやってるの?」
「さあね……呼び始めたのがメラーフだから、これに関してはよく分からない。で、プレイヤーはそれぞれアクセサリーを持ってる。アクセサリーは全部で9種類で、それぞれの色のアクセサリーは固有の能力がある」
プレイヤーの持つアクセサリーはそれぞれが武器を模しており、舞那の盾や雪希の刀の様に武器へと変化させることができる。
アクセサリーは赤、青、黄の原色。橙、紫、緑の二次色。白、黒、灰の無彩色。以上の9つに分類される。それぞれの色に違った能力があり、戦闘時にそれらの能力を活かすことができる。
「私のアクセサリーは赤。能力は身体能力の向上。で、木場さんのアクセサリーは青。ただ生憎、全部の能力を把握してる訳じゃないから、実践で確認するかメラーフに聞くかでもしないと分からない」
「能力……そういえば、廣瀬さんはアクセサリーを掴んだら見た目が変わってたけど、何で私は変わらなかったの?」
「……もしかしてメラーフ説明してなかった?」
「してない……と思う」
メラーフの説明不足に呆れてため息を吐いた雪希。
実際、メラーフの説明はかなり不十分。もしも雪希がいなければ、未だに舞那は現状を理解しきれていないだろう。
ただ、メラーフはいつもこのように不十分な説明しかしていない訳ではなく、今回は雪希が近くにいたため説明を省き、詳しい説明を雪希に押し付けた。雪希からすれば迷惑な話である。
しかし雪希は嫌な顔一つせず、諸々の説明を続けた。
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