《8》 鎌と槍

 本日も舞那達はテスト。シャーペンの芯がテスト用紙に当たる音と、刻々とテスト終了に向かう秒針の音がよく聞こえる。時折悲鳴をあげながら廊下を疾走する生徒が見られたが、テストに集中する舞那達は見向きもしなかった。

 いつもならば学年によりその日のテストの数は異なるが、この日は全学年全学科のテスト数が一致。さらにテスト中は部活動が禁止されているため、テストが終わり次第殆どの生徒が一斉に帰宅し始めた。


「……とりあえずここまで来たわけだけど、この後どうする?」

「んー……どうしよ」


 テストを終えた舞那、沙織、日向子の3人は、今日は全員の予定が空いていたため、どこかへ遊びに行こうという話になっていた……のだが、一先ずは昼食を済ませるため学校から離れたところにあるハンバーガーショップに来ている。

 特に何の予定もなくやって来たため、舞那達はハンバーガーを食べながらこれからの予定を決めていく。

 しかし、これといっていい案は思い付かず、気付いた時には全員昼食を終えていた。


「……マジでどうする? もう食べ終わったよ」

「とりあえず……街をブラブラする、とか?」

「いいんじゃない? 歩いてたらそのうちなんか見つかるでしょ」

「だね。じゃあ舞那の意見を採用して、とりあえず歩こうか」


 幸い、この近辺には様々な店が建ち並んでいる。特に予定は無くとも、ひたすら歩けば何かしらの楽しみは得られる可能性がある。

 舞那達はハンバーガーショップを出て、有り余る時間を有意義に過ごすために歩き始めた。

 しかし数分程歩いた時、舞那の有意義な時間は無情にも奪い去られた。


「っ!」


 舞那の脳内で、突如別の場所の風景がイメージされた。場所自体は分からないが、その場所がどこにあるのかは直感で理解できた。


(あの時と同じ……ってことはもしかして!)


 舞那がプロキシーやアクセサリーについて理解した日、舞那の脳内に突如別の場所のイメージが投影された。そしてその場所に行けば、食事中のプロキシーに遭遇。

 雪希からもメラーフからも教えられていないため、その現象に対する考えが真実だという確信は得られなかった。しかしあの日と同じ現象が起きた以上、それが真実であると自らの目で確認しなければならない。舞那はそう考え、その場所へと向かうために日向子と沙織から一旦離れることにした。


「ごめん舞那、私達ちょっと急用ができたから、適当にブラブラしてて。終わったら連絡する」

「え? あ、うん。丁度私も急用ができたから、私は私で終わり次第連絡するね」


 急用ができたと嘘をつき、イメージされた場所へと向かおうとした雪希だったが、日向子に先を越されてしまった。

 しかし日向子と沙織から離れていくのならばむしろ好都合。特に違和感を与えることなくこの場から離れることができる。


「ごめん! じゃあちょっと行ってくる!」

「私も行かないと!」


 日向子と沙織、雪希はそれぞれの用事を済ますために走り始めた……のだが、走る方向は偶然にも同じ。3人は進行方向が同じであることに驚いたが、すぐに分かれると思い特に気にしなかった。

 しかしいつまで経っても3人が分かれることはなく、それぞれの目的地へ近付くにつれて3人の嫌な予感は大きくなっていった。


「日向子、沙織、その……この先は治安が悪いから行かない方がいいんじゃない?」

「舞那こそ。むしろ舞那が一番危ないと思うよ」

「確かに。その身体は薄汚い野郎共に狙われちゃうよ」

「……私そんなにスタイル良いほうじゃないよ?」


 関係ない日向子と沙織を、イメージされた場所の方へは行かせたくないと舞那は思っていたが、いつの間にかそんな考えは消えてしまっていた。その理由として、仮に日向子と沙織にプロキシーを見られたとしても、そのプロキシーを殺せば全て忘れてしまう。そのことを思い出したためである。

 そして結局3人は分かれることなく、舞那がイメージした場所に到着してしまった。さらに3人ともその場所で停止したため、3人の目的地が共通していたことを舞那達は理解した。


「舞那……その、急用って何?」

「えっと、その……沙織こそ何?」

「「……」」


 互いに質問をするも、互いに回答はしない。

 舞那は薄々感じていたものの、ただの思い込みだと自分に言い聞かせてその思考を押し殺した。しかしそれは沙織、日向子も同じである。

 3人は、3人の急用が共通していることを理解したのだが、それが真実であることを認めたくなかったのか、ただ沈黙が続いた。

 そして生まれた沈黙を突き破るかのように、すぐ目の前に建っている古い建物から何かが飛び出してきた。


「っ! やっぱり……!」


 飛び出したのは、薄く濁った橙色のプロキシー。そのプロキシーの身体は大量の血が付着しており、既に食事を終えてしまっていることが分かる。


「舞那! 持ってるんでしょ、アクセサリー」

「……持ってる。その言い方、沙織も持ってるんだよね。それで、その沙織と一緒にここまできた日向子も……」

「勿論、持ってる。まさか舞那がプレイヤーだったとは……思いもよらなかった」

「それはこっちのセリフ。ただ私の場合、プレイヤーになったのは昨日なんだけどね」


 舞那の予想は正しく、日向子と沙織は共にプレイヤー。それぞれ違う色のアクセサリーを所持しており、基本的に2人で戦っている。

 日向子と沙織も、舞那とほぼ同じタイミングで3人全員がプレイヤーだと気付いていたが、なかなか言い出すことはできなかった。


「ってことは、まだあんまり理解できてない……よね?」

「その通り。まだ変身すらしたことない」

「おっけー。じゃあ今日のところは私と沙織に任せて、舞那は私達の戦いを見てて」


 沙織と日向子はそれぞれ制服の内ポケットからアクセサリーを取り出し、腕を振ると同時に武器へと変化させた。

 沙織は身の丈程の黒い大鎌を、日向子は大鎌よりもさらに長い白い薙刀を手に持ち、舞那の前に立って橙色のプロキシーと向かい合った。


「いくよ、沙織」

「いこう、日向子」

「「変身!」」


 沙織は黒い光に、日向子は白い光に包まれ、戦うための姿へと変身した。

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