第2話

 それから彼は、たまに私の奥に誰かを見るようになった。

 そんなことしなくたって、そんな顔するくらいなら会いにいけばいいのに。

 そしたら、私は彼に八つ当たりすることができる。

 このむしゃくしゃした気持ちをどうにかしたい。結婚した相手が自分を見てないだなんて物語ではよくある話だけれど。

 主人公は皆、こんな気持ちだったのかと胸が痛む。

 そんな綺麗な笑顔で微笑むくらいならいっそのこと突き放してほしい。


 こんな自然な形で距離を置くこともなく、ただ切なそうに私に何故か彼女を無理に重ねて愛そうとする貴方を見ていると、全て私が悪かったことのように思えた。

(貴方がいなければ)

 そう、瞳が語っていたわけではないけれど。


 そこで

(私がいなければ)

 と思ってしまう私は、善人なのだろうか?

 でもそう、嫉妬して怒り狂っても許されるのに。突き止めて意地悪をすることもできるの。それをどちらもせずに私は今日も黙って彼に愛想よく笑う。

 彼女をもし傷つけてしまったら、そんなことしてばれた最後には、彼に嫌われる運命が待っているだろう。

 それにそもそも攻略結婚だ。愛だのなんだのばからしいじゃない。


 ……辛くないといえば嘘になるわね


 ー


 貴族として、領主として仮面を被った仲のいい夫婦は当然のごとく続いた。

 私の元に嫁いできた彼は、すっかり領地に馴染んで、時々視察と評して街に出かけたり、私を連れて王都の劇場にも連れてってくださった。

 夜会では楽しそうにクルクルと回る私達がいて、それはそれは平和な日々だった。


 彼女が突入してくるまでは。

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