エピローグ

エピローグ 1



 翌日——


 ユキはS駅にいた。

 猛の見送りだ。


「帰っちゃうんだね」

「調査は終わったからね」

「また会える?」


 猛は無言だ。

 端正なおもてに、あの笑みが浮かぶ。

 ユキがリヒトとまちがえた、さみしそうな笑顔。


「……いや、会わない」


 胸が痛い。

 心臓が、ギュッとしめつけられる。


「どうして?」

「君には言っとくべきだろうな」


 そう言って、猛はホームのベンチにすわる。ユキも、となりにすわった。


 猛は静かに話しだす。


「おれも、呪われてるからさ。何百年か前の先祖が、その呪いをかけられたらしい。家族が、みんな、早死にするんだ。二、三代に一人だけ長生きする男子がいる。それ以外の家族は、親兄弟、配偶者、孫子。みんな、若くして死んでしまう。おれも、すでに弟が一人、残ってるだけだ。おれか弟のどちらかが、もうじき死ぬ。たぶん、おれが念写できるのも、その呪いと関係してる」


「そんなこと——」

「信じられないかな? あれほどのことを体験しても」


 そう言われると、何も言えない。

 猛は続ける。


「だから、おれと、かかわらないほうがいい」

「わたしは……大丈夫。きっと」


 猛は笑う。

 大丈夫じゃないことを、経験則で知っている。


 だから、この人の笑顔は物悲しいのだ。

 今までも、これからも、大切な人との死別の上に、猛の人生は成り立ってる。


「さよなら。元気で。ユキさん」


 ほんとは別れたくない。でも、ひきとめることはできないだろう。

 猛の目を見て確信した。


「……好きだったのに」

「ありがとう。でも、だからこそ……」

「うん。そういうことなんだね」


 恋人や配偶者は、死の対象だから……。


 新幹線がホームに入ってきた。

 猛は立ちあがり、ボストンバッグを肩にかける。


 列車に乗りこむ姿を、ユキは見送った。

 列車が走りだし、遠くなっても。


(さよなら。探偵さん)


 ふしぎと涙はこぼれなかった。

 せつないけれど、どこか、あたたかい。

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