四章 3—3

 *


 アユムはS市内の救急病院に搬送された。ヨウタの勤める大学病院だ。傷口の縫合手術を受けたあと、病室に運ばれた。


 麻酔が切れて目覚めたのが、何時ごろだったのか。病室に時計がないから、わからない。アユムの腕時計はこわれていた。


 変に目がさえて、眠れない。

 ユキのことが気がかりだ。


(あいつが、おれのこと見てないのはわかってたけど……やっぱ、しんどいよな。目の前で見てると)


 ユキが『リヒト』に惹かれてるのは、ひとめでわかる。そいつは怪しい、危険だと言ったところで、ユキの気持ちは変わらないだろう。


(あーあ。バカらしい。最後はこんなもんか。幼なじみなんて、損だよなあ)


 涙が出るのは、麻酔が切れたせいだ。絶対、失恋なんかのせいじゃないと、自分に言いきかせる。


 雨の音がありがたかった。

 これなら誰にも泣き声は聞こえない。


 すると、そのとき、病室のドアが、すっと、ひらいた。白衣を着た医師が入ってくる。よく見れば、ヨウタだ。心配して来てくれたのか。


 アユムは、あわてて涙をぬぐった。


「なんだよ? ヨウタ。おまえ、仕事中なんだろ。このとおり、たいしたケガじゃないよ」


 ヨウタは答えない。ようすが変だ。


「ヨウタ?」


 ヨウタは背後をふりかえる。

 つられて、アユムも見た。

 ドアのかげに、もう一人いる。

 最初は誰だか、わからなかった。

 だが、気づいた瞬間、アユムは凍りついた。


「そんな……なんで、おまえ……」


 おまえは死んだはずじゃ……。


 アユムは、ぼうぜんと、その人を見つめた。

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