二章 2—1

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 ユキは、しゃがみこんだ。腰がぬけたのだ。動けないでいると、何者かが廊下を近づいてくる。


 ユキはパニックを起こしそうになった。浴室のガラスドアのほうに、あとずさりする。


 印が現れたから、もうユキの番なのか?


 すると、外から母の声がした。

「ユキ。ハルナちゃん、来たわよ。あんたの部屋に上がってもらったから」


 ユキは安堵で、いっきに脱力する。別の意味で泣きそうだ。


「うん……今、行くよ」


 ふるえがおさまるのを待って、服を着る。


「ハルナ。どうしたの?」


 ハルナはユキの部屋のなかで、立ちつくしていた。ようすが、ふつうじゃない。顔色も悪いし、放心状態だ。


「どうしたの?」

「ユキ……」と言ったまま、ハルナは泣きだした。


 ユキはハルナの手をとり、ベッドに腰かけさせた。自分も、そのとなりにすわる。

 さっまで、ユキも、こんなふうだった。でも、うろたえているハルナを見ると、自分が、しっかりしなきゃと思う。


「何があったの?」


 ハルナは答えられない。

 でも、そのあいだも、ずっと肩をおさえていることに、ユキは気づいた。


「もしかして、ハルナにも、あったの?」


 ユキはTシャツのそでをめくる。さっきの見間違いで、消えてればいいと思った。が、やはり、そのアザは、そこにあった。

 それを見て、ハルナの泣き声は激しくなった。


「ユキ。あたしたちも、殺されるの?」

「ハルナのとこにも来たのね。アイツが」

「今朝、夢で…すごく怖い夢。まっくらなところで、人みたいな動物みたいな……かまれたの」

「見せてくれる?」


 ハルナの襟元から、のぞく。たしかに、あった。赤い血のシミみたいな歯形が。


「さっき気づいたんでしょ?」


 ハルナは無言で、うなずく。


「わたしと同じだ。わたしも、今朝、夢で……」

「わたしたち、死んじゃうの?」

「なんとかしよう。F村に行って、なんで、こんなことになるのか、調べる」


「わたしも行く」と、ハルナは言った。

「さっきは怖くて……できれば行きたくなかったけど。どこにいても同じなら……」

「わかったよ。行こう。かならず、この呪いを解こう」


 ハルナがおびえてるので、その夜はユキの部屋に泊めた。


 なかなか寝つけなかった。

 今夜も、あの夢を見るのかと思って。結果的には見なかったが。


 その夜、アイツは別の人物のもとへ行ったから……。




 *


 翌朝。車で迎えにきたアユムが言った。


「アイツ。来た。おれんとこ」


 アユムの右腕に、はっきりと呪いの印が刻まれていた。

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