10/22 偶然で無圭角な計画⑤

「……え、えっ? どういうこと?」


灯絵はまだ状況が飲み込めていないようだった。


「つまり、夕星と咲ちゃんは、最初からこの誕生日サプライズを計画してたんだよ」

「今日、このお店に僕らを連れて来るのは、予定してたってこと」


もしかしたら、予約していたのかもしれない。

いや、定食屋に予約というシステムはないか?

だけど少なくとも、前もって話は通してあったんだろう。

でなければ『例の二番』なんて言い方で、店員が一度も聞き返すことなく対応できるはずがない。


「灯絵がご飯に行こうって言い出さなかったら、夕星が提案するつもりだったんだろ?」


「ああ、その通りだ」


僕の推測を夕星が肯定する。


「だけど、正直どう声をかけようかって悩んでたんだ」

「バレないように自然な流れで飯に誘うにはどうすればいいか、って」

「計斗は変な所で勘が鋭いからな」

「理由もなく突然誘ったりしたら、バレる可能性がある」

「それで悩んでたところを——灯絵ちゃんが先に提案してくれたってわけだ」

「この機会を逃す手はない、ってな」


そう言った後、夕星は肘で僕を軽く小突いた。


「にしても、計斗が講義に来なかった時は、内心焦ったぞ」

「本人が来ないんじゃ、計画は全部チャラだからな」

「全く、こんな日に限って寝坊なんかするなよな」


「う。その件については……悪いと思っております」


「はは、本気で謝るなって。冗談に決まってるだろ」

「それに、計斗が寝坊してくれたおかげで、灯絵ちゃんが飯に行こうって言い出してくれたわけだから」

「こっちとしても結果オーライだったしな」


そこまで言うと、夕星は、半ば放心状態の灯絵の方を向いた。


「まあ、そんなわけだ」

「灯絵ちゃん、便乗させてもらって悪かったな」


穏やかに笑いながら謝る夕星。

灯絵はまだ呆然としているものの、話しかけられたことで少し思考が戻ってきたのか、だんだん目の焦点が合ってくる。


「……え? 誕生日? サプライズ?」


「ああ、そうだ」

「プレゼントも用意してるぞ」


「私もです」


二人は揃って鞄に手をやり、それぞれ若干サイズの違うプレゼントを取り出す。

夕星はモノトーンを基調としたチェックのラッピングシート。

咲ちゃんは無地のライトグレーに青いリボンのついたラッピングシートだ。

これだけで二人の性格が窺えるプレゼントの包装を、灯絵はしげしげと眺めた後——

ギギギ、という音が聞こえそうなほどぎこちなく、衣典の方を振り向いた。


「もしかして……衣典も、この計画に、一枚、噛んでるの?」


何故かカタコトで問い質す灯絵。

衣典は手をぶんぶん振って否定した。


「いや、僕は知らないぞ」

「そもそも、二人とはほぼ面識もないしな」


「そ、そうだよね」


「……ただ、それとは別に」


どこか安心したような灯絵の表情を窺いながら、衣典は少しきまりが悪そうに頬を掻いた。

そして、先ほどの夕星達と同様に、鞄をゴソゴソと漁りながら呟く。


「僕は僕で、プレゼントを持ってきてる」

「軽いものだし、どこかで会ったら渡そうって、持ち歩いてたんだ」


取り出したのは、どこか優しさを感じるセピア色のラッピングシートに包まれたプレゼントだった。

それを見た灯絵は、悲鳴に近い声を上げる。


「ええーっ!?」

「じゃあ、今日はあたし以外、みんな誕生日プレゼントを持ってきたってこと!?」


「どうも、そういうことみたいだな」


それは夕星の計画の範囲外だったらしい。

突然開かれることになった食事会で、知らない者同士がそれぞれ誕生日プレゼントを持ち寄った。

あまりのタイミングの良さに、驚いてしまう。


「でも、まあ……なんか、こういう偶然って、良いよな」

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