第48話 この攻略対象、ラスボス感が半端ないです
ウナトゥーラ所有敷地内 離れ内部
物思い終了。情報をまとめながら避難したのは、離れにある建物の中だった。
普段はあまり使われていない場所なのだが、ちょっとした宴を開く時や、人が集まる時の為に用意した建物だ。
扉をしっかり閉めて、戦える者達……つまり攻略対象達がその近くに陣取っている。
窓の近くも危ないという事で、自然と部屋の中央に固まるような形になった。
離れに避難したお父様達は、難しい顔をしながらお母様と話し合っている最中だ。自分の屋敷に邪神がいた件について頭を痛くしているようだ。今は話しかけない方がいいだろう。
離れの内部にいる者達の顔を確かめながら見回していくが、やはり数が少ない。
急な事だったから、屋敷にまだ取り残された者達がいるだろう。
心配でしょうがなかったが、今ここを出て行こうとすれば止められてしまうに決まっていた。
だがこの筋書きは、まだ大まかに一周目をなぞっている状態。ゲームでも一周目でも無事だったのだから、おそらくは大丈夫のはずと思い直す。
邪神は他の者など見向きもせずに、まっすぐにこちらに向かってくるはずなのだから。
「お嬢、大丈夫?」
「お嬢様……」
心配するアリオとトールの声に「大丈夫」だと言いながらその時を待っていれば、やはり向こうからやって来た。
あらかじめ入り口近くに陣取っていたので、他の者達が建物の奥に下がれば、戦闘になった場合でもしばらくは大丈夫。
本音を言えば他の人の安全の為に離れから出たかったが、そう言ったらやはり周囲の者からきつく止められた。
「……来たわね」
扉を近くにある大時計が、時刻を知らせるための鐘を鳴らす。
ちょうど夕食にぴったりの時間だ。
大体このタイミングで、前回も邪神はやってきた。
戦闘音が聞こえて来て、少しした後に離れの扉が勢いよく開かれる。
お兄様たちは黒猫に振り切られたのだろうか。
姿はまだ見えなかった。
だが、生きているだろう。
彼らはそう簡単にやられたりはしない。
直接見た事はないが一周目も、こちらが死ぬまでは大丈夫だったのだ。
私は二人の実力を信頼していた。
黒猫はおそらく二人に手をかけずに、振り切ってここまできた。
殺してからこちらを追う事も出来ただろうが、邪神はそうしなかったのだ。
きっとその方が確実だったにも拘らずに。
そこに状況を打開するヒントがある。
外から扉が破壊される。
轟音が響いた。
外れてひしゃげた扉の上に、立つ影が一つ。
影自身は小さなものだ。
外見はただの猫なのだから。
けれど中身はそうではない。
神話にあるあの邪神が猫になっていた、……など普通は分からないだろう。
しかし今の姿には片鱗がある。
まがまがしい黒色のオーラを体に纏わせた猫の姿は、やはりどこからどう見ても普通の動物には見えなかった。
「シャーッ!」
威嚇するような動作を見せ、こちらに近づいてくる。
「お嬢様!」
「お嬢!」
トールやアリオが私の前に出たが、心配は無用だった。
「アリシャ!」
「アリシャ殿!」
お兄様とウルベス様が、駆けつけてきたのが黒猫の向こうに見えた。
彼等もこちらの方を心配そうにみている。
「扉から離れて奥へ逃げろ!」
お兄様がそう言うのだが、私はそれを拒否した。
私はその場を動かずに大きく息を吸って、人生でそうそう出した事のない大声を上げ、周囲の者達へ呼びかける。
「皆その場を動かないで!」
私は正面にいる黒猫……邪神ミュートレスへと向き直った。
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