第35話 この使用人の罰が怖すぎる
胸の内に何とも形容しがたいもやもやを抱えながら、順番に使用人達に聞き込みをしていくこと一時間。
あの物置に、思い出の品が紛れ込んでしまった理由が判明した。
屋敷の廊下の隅でトールが、とある男性使用人をにらみつけている。
「まさか、お前が原因だったとはな」
「す、すまん。うっかりしてたんだ……」
相手は申し訳なさそうに頭を書いている。
どこかアリオに似た雰囲気のその使用人は、少々楽観的すぎるところがある。
だから、たまに普段の仕事でもミスをしていたのだが。
人の贈り物を行方不明にしてしまうと生え思わなかっただろう。
トールがこちらを見るが、私としては特に言う事はない。
贈り物は渡した時点でトールのものなのだから、私が何かを言うのは違うだろう。
「トールが好きにするといいわ」
「分かりました。ありがとうございますお嬢様。とびきりの罰を考えますね」
笑顔が返ってきたのになんか怖かった。
「えっと、やりすぎはよくないわよ?」
考え込むトールを眺めながら、私は判明した事実を思い返す。
贈り物紛失が起きた原因。
それは、数年前にトールが働き過ぎで倒れた時、同僚の使用人が身の回りの世話をしたためだった。
寝込んだトールに色々と世話を焼いてあげたその人物は、室内を掃除した時に私の筆跡のあった似顔絵を見つけて回収し、私に尋ねて確認を取ろうとしたらしい。
比較的新しく入ったその使用人は、トールと私の関係性が分からなかった。
なので、それが贈り物なのか盗まれた物なのか、またはうっかりで部屋に置いてあるのか区別がつかなかったのだろう。
だから直接私に確かめようとしたのだ。
しかし、しばらくした後に他の用事を思い出したその使用人は、そちらを優先して似顔絵を放置。
思い出した頃には無くなっていたため(おそらく通りかかった人に物置にしまわれてしまい見つけられなかったのだろう)、今日まで黙っていた……という事らしい。
肝心のその使用人が、今目の前にいる男性だ。
そんな彼にはトールから罰を二つ言いつけられた。
一つは「当番でなくとも毎日清掃活動をするように」、というもの。
そして二つ目は「一か月間夜の見回りの罰」。その際には花を生けた花瓶と自分の写真を持って、屋敷を歩くというものだった。
そして他にもある。
見回りの終わった後には必ず、屋敷のホールの近くにある巨大な姿見を見ながら念仏を唱えなければならない……というものが。
地味に精神に来る罰だ。
ひょっとして遠回しに、亡くなってほしいとか思っているのではないだろうか。
そうだとすれば怖すぎる。
そんな風に思った疑問をそれとなく彼に聞いてみれば、
「すこし、厳しすぎないかしら?」
「これでも手心を加えたぐらいです。お嬢様が諫めて下さらなかったら、私はもっと彼を泣かせて、自ら人の靴をなめたくなるようなお仕置きをするつもりでしたから」
とのお言葉を聞かせてもらった。
一体最初はどんな罰を言い渡すつもりだったのか、知りたいような知りたくないような。
ともあれ、そんな似顔絵盗難疑惑は、トールのイベントであっていたようだ。
数日後彼のメインイベントが問題なく起こった事で証明されたからだ。
ただ、その時の私は紛れもなくピンチになっているので、その事件の渦中にいた数日前の私に言ってやりたい。
「もっとトールとよく話しあって」と……。
トールのイベントは他の者達のそれとは比べ物にならない程、バッドエンド遭遇率が高い。
シナリオ的な落とし穴も多数あるので、できる事は前もってやってほしかった。
だが、その時の私にはそれが出来なかった。
私はもやもやを残したまま、彼の……トール・ゼルティアスのメインイベントに臨まなければならない事になった。
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