第20話 幼なじみと再会しました
楽団の演奏が終わった後、人がはけていったのを見計らって移動。
建物の中を歩いて行った先で、関係者各位に事情を話し、目当ての部屋に通してもらった。
これが他の一般市民であれば別だが、貴族である事はこういう時に役にたった。
他のファン達には申し訳ないが、こちらにも事情というものがある。
少々の横着は、目をつむってもらいたいところだ。
「お嬢! お嬢じゃない!? 久しぶりだね、元気してた!?」
控室の部屋を開けて、入室すると朗らかな声が聞こえてきた。
部屋に入るなリすぐに飛びついてきたのは楽団のメンバーの一人、アリオ・フレイスだ。
「アリオも元気そうね、久しぶり」
私は近寄ってきた彼を受け止め、部屋にいる他の楽団員に会釈。
彼等は、楽器の手入れと片付けの途中らしい。
「うん、元気だよ。病気もしてないし。お嬢はこの間大変だったんだよね。大丈夫?」
「もう治ったし、平気よ」
「えへへ」と人懐っこい笑みで喜ぶ男性。
目の前にいる彼、アリオは無邪気な顔で私との再会を喜んでくれている。
彼は、獣人であるがウルベスと違って迫害などは経験していない。
獣人族は、陽気で明るい性格の者が多いという事もあって、人間にも昔から友好的だった。
視線を移動させれば、そんな種族を示す特徴が。
彼の頭部にはもふもふとした犬耳、お尻には尻尾がある。
それらはアリオの気分によって、よく動く。
見た目でかなり得をしている攻略対象だ。
プラスに働いている点はそれだけではない。
輝く様な金の髪に燃える炎を灯した様な赤い瞳は、みるものに明るい印象を与えるだろう。
こちらのものと同じかやや高いくらいの平均的な身長をした彼は、人懐っこそうな笑みを浮かべながらこちらに抱き着き続ける
すると近くにいた使用人のトールが、声を震わせながらアリオを叱り飛ばした。
「いい加減にしなさいアリオ、いくらお嬢様の幼なじみでそこそこ成り上がった身と言えど、この方に安易に近づくな。平民の貴方が気安く触れて良い身分の方ではないのだぞ!」
発言してから一秒も待たずトールは、私に飛びついてきたアリオを引きはがしにかかる。
過保護なところのあるこの使用人は、そういう馴れ馴れしい態度をとるアリオの事を、昔から毛嫌いしていた。
「何だよ、これくらい良いじゃん。お嬢だって全然嫌そうじゃないし。迷惑だって言われたらやめるけど」
「迷惑なんかじゃないわよ、アリオ。でも今の私には婚約者がいるから、さすがに抱き着くのはやめてほしわ」
「えー」
「返事は?」
「はーい、分かったよ」
不満そうにするものの、こちらがにこりと笑いながら圧力をかければ、アリオはうなだれてすぐに折れてくれた。
しかし、陽気な性格の彼は立ち直りが早い。
「でも、来てくれて嬉しいよ。お嬢と会うの久々だよね、この地方にはしばらく来なかったから。今回も見に来てくれて嬉しいな」
「アリオは頑張ってるもの。音楽の才能に溺れず努力してここまで来たんだから、そんな友達を応援しないわけにはいかないわ」
「お嬢は相変わらず優しいね」
それからはしばらく二人で世間話をしたり互いの近況を報告し合ったりした。
トールは不満そうだったが、下手に口を挟んで話を長引かせるのも嫌だったらしく、最初以降はすっかり大人しくなって部屋の隅に控えていた。
この際に例の相談事を説明する為にアリオとひそひそ話をしたら、トールに後でしつこく聞かれるかれる事になったり、他に部屋にいる楽団員に冷やかされる事になったが。
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