第19話 貴族令嬢の休日



 リエンティーラの町 ホール内


 その日は世間では休日にあたる日だった。

 元の世界の中世時代と似ているが、この世界と文明が同じかどうかは分からない。


 一応説明するが、この世界では市民には「仕事をしない日」がちゃんと決められていて、その日は休みをとって自由な時間を過ごして良い事になっている。


 だが反対に貴族の場合は明確な休みがない。仕事が入って来た時に入ってきた分だけこなさなければならなかったので、私達には休日と平日の様な……きっちりとしたオンオフの区別は無かった。


 それでも……、何かおめでたい事があったという歴史的な日や祝い日などは、貴族も仕事を休む傾向があるため、そういった日には好きに過ごしている。


 こんな説明をすればもうお分かりになるだろう。

 つまり今日は、市民と貴族ものそんな休日が重なっている日だったのだ。


 私はそんな日に、護衛と使用人と共に人の多い音楽ホールを歩く。


 父の後を継ぐのは兄であるため、私が仕事をするような事は無いのだが、それでもたまに手伝いのような事をするので、大々的に息を抜いて良いと言われると少し嬉しくなる。(ちなみに兄は、建前上では箔を付けるため騎士団に入団しているのだが、評判からして本気具合も少しずつ見え始めている。将来のもしもの可能性を考えて私も少しずつ、父の手伝いをする事にしていた)


「ここに来るのは何度目だったかしら」

「五度目ですね。彼らが来るたびにお嬢様はここへ足をお運びになられますから」

「そうね」


 ひっそりと疑問を口にすれば、トールからそんな応え。

 建物内を手の込んだ造りの煌びやかな装飾のあるホールから、個別の客席へ向かった。

 私達はその上の方にある、特別にしきられた席に着き、舞台上から流れてくる楽団の音楽演奏を堪能。


 目的は、音の芸術品と呼ばれ、世に名前が広く知れわたっている「清龍せいりゅう楽団」の演奏だ。


 水のように透き通った音色と旋律で、多くの人を魅了していくその実力は本物で、数年前まで無名だったのが嘘のように、最近はあちこちで講演の依頼が頼まれ引っ張りだことなっているらしい。


 拍手と共に始まった演奏が、小一時間程かけて終わった後は、また盛大な拍手が沸き起こる。

 鳴りやまぬ拍手の一つに加わった後、私は楽団の控室を訪ねる事にした。


 そこに彼がいるのだから、行かないなどという選択肢はないだろう。


 私の幼なじみの獣人の少年。

 アリオ・フレイス。


 思いやりがあって、明るくて、つい最近見た過去の夢の中で私と約束してくれた、長い縁のある少年だ。


 そうだ、彼に例の事をそれとなく相談してもいいかもしれない。

 アリオにしか相談できない事があった。


 ウルベス様はちょっと頭が固い所があるので信じてもらえないだろう。

 身近にいるトールは別の意味でその話をすると危ないので、論外。


 けれど、これから会う彼なら現実的過ぎずに、かつ距離的に私に近すぎもしない。きっとあの話を冷静に考えて信じてくれるはずだ。


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