第二章 アリオ・フレイス

第18話 指切りの思い出



 脳裏に再生されるもの。

 それは過去の回想の話で、現在の時間の出来事ではなかった。

 見えるのは、額縁の外から眺める様な、リアリティのない光景だ。

 近づきすぎもせず、かといって遠すぎもしない。


 それは私にゲームの知識があるせいだろう。


 ともあれ長々とした説明は今はどうでもいい。


 私にある最後の記憶はベッドに入った所まで。


 だから多分これは、夢を見ているのだ。

 眠ってる時くらい攻略対象の事に知恵を割きたくはなかったので、早々に細かな思考を放棄して、ただの映像視聴人と化す事にした。






 屋敷の中の私の私室に二人の人物がいる。 


『あはは、お嬢だっせぇ。そんなのが似顔絵なの!?』

『もうっ、うるさい。頑張って描いたのに。アリオはひどい!』

『ごめんごめん、お嬢。怒らないでよ』


 目の前にいるのは……。

 画用紙を取られてふくれっ面をしている子供だった頃の私と、幼なじみである獣人の子供アリオ・フレイスという男の子だ。


 私はおそらくその時、屋敷に勤めてばかりのトールに似顔絵を描いて渡そうとしたと思うのだが、出来栄えが不安だった為にアリオに感想を聞いたのだろう。


『でもだって、おかしいよ。真ん丸って、顔が真ん丸って。お嬢、髪は乗っかるものじゃなくて生えるものだよ。トールってカツラなの?』

『そんなわけない、笑うなんてひどい。アリオの……アリオのばかぁっ!』

『ええっ、お嬢!?』


 そうだ。

 作品のあまりの出来栄えにアリオのからかいがとまらなかったから、泣き出してしまったのだった。


『お嬢、泣かないでよ。ごめんね。言い過ぎたよ』


 頬を膨らませながら泣くという器用な真似をしている私。そんなしっちゃかめっちゃかな女の子の頭を、アリオが精一杯撫でて慰めてくれていた。


『しばらく会えないのに、意地悪なんかするアリオは嫌い』


 けれど、それでも私の気持ちは収まらなくて、幼なじみの少年にそんな事を言ってしまうのだ。

 確かこの時は、アリオと会えなくなる事が分かった直後だったので、私なりにその時間を大切にしようと思っていたのだったか。

 それなのに笑われたから、すねてしまったのだろう。


『お嬢、本当にごめんね。あ、そうだ』


 アリオは良い事を思い付いたという風に、私の指に自分の指をからめる。


『約束するよ、お嬢。しばらく会えなくなるけど、必ず一番の楽団作って驚かせてあげる。お嬢がどんなに泣いててもすぐ笑顔になっちゃうような、そんな凄いのにするから。だから楽しみにしてて、絶対約束する!』


 その話はケンカを解決するものでは無く、ただ話題をそらしただけのものだったのだが、アリオの思いやりを感じた私は渋々応じたのだった。


『分かった、待ってるから』

『うん、約束だよ。絶対だからね、すぐだからね』


 そんな風に指切りが交わされるところで、過去の回想は終わっていく。


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