第2話 乙女ゲーム「ラブ・クライシス」について
ウナトゥーラ邸 私室
そんなあれやこれやがあって、一週目もいたヤンデレ攻略対象だらけの「ラブ・クライシス」の世界で、二周目がスタート。
転生待機室なる場所から移動した私は、目が覚めると自室のベッドで横になっていた。
部屋の中には、(華美でない程度の装飾が付いた)質の良い家具がいくつも置いてある。そのため、辺りを見まわせばそこが身分のある人間の……貴族の私室という事がよく分かった。
間違いなくここは、一周目の世界でお世話になった自分の部屋だ。
この世界の私からすれば、前の周の記憶を思い出したという状態だろう。
それともこの周回の私が、この世界で生きていた前の私を上書きしてしまったのか。
だんだん怖くなってきたので、考えない事にした。
神様にもそこら辺の細かい仕組みについては気にしない方が良いと言っていたし、横にでも置いとこう。
とにかく無事に転生したようだった。
まずは、あの神様が「転生手続き」を雑にこなしていないかどうか、チェックしよう。
初めにやるべきは、私自身の情報の整理だ。
私の名前は、アリシャ・ウナトゥーラ。
女性で、歳は十五歳。
貴族の娘であり、父親マクギリス・ウナトューラと、母親リオナ・ウナトューラの娘である。
後、三つ上の兄イシュタル・ウナトューラがいる。
「ふぅ、前回の知識はある……わね」
記憶の欠落などはないようだった。前世の記憶もある。
次に一周目にした事の確認。
この場所と時期は、おそらく私が一周目に前世の記憶を思い出したのと同じところだ。
手元近くに置かれた手帳には、昨日の日付までの予定が消化されている事が確認できる。
過去に消化した予定は変わっていないし、未来こなすべき事も変わっていないようだ。
うっかり別の世界に紛れ込んだりしていなくてほっとした。
話を変えて、一周目の事だ。
「ラブ・クライシス」の猛烈なファンだった私は前世の知識がある事で、調子に乗っていた。
乙女ゲーム「ラブ・クライシス」それはヤンデレ男性を攻略するという、結構バイオレンスなゲームだ。
このゲームでは、普通のゲームならまずありえないエンディング(選択肢を間違えすぎるとバッドエンドになって、攻略対象にやられて死亡)になってしまうという事が起きる。
だが一周目の私は、好きだったゲームの世界に転生で来た事で浮かれていて、ゲームの知識があるからとヤンデレ攻略対象にガンガン攻め入り、とある人物の怒りにふれ殺害されてしまった。
「さすがにあれは、まずかったわよね」
通常の攻略対象はなんとかなったものの、隠しキャラが出現して雲行きが怪しくなり、刺殺となってしまったのだ。
「はぁ……」
私はその時の事を思い出しながら、ため息をつく。
どてっ腹等に風穴が開いた時のあの違和感は一生忘れられないだろう。
「確かになれなれしくてうっとおしかったかもしれないけど、乙女のお腹に凶器を突き立てて刺殺、そして高笑いだなんて、攻略対象として間違ってますわね」
まあ、だからこそのヤンデレなのだろうが。
血がドバドバ出てて意識が朦朧としていたあの時の事は、まだ記憶に新しい。
普通の乙女であれば、確実にトラウマものの光景なのだが、私は冷静にその時の事を思い出せていた。
もしかしたらと思い、私は自室の棚から刺繍セットをとりだす。
針を手にして指先にぷすりとやってみれば、赤い血玉ができ、指先を伝って足元の絨毯へすいこまれていった。
他の人間が見たら、頭がおかしくなったと思われるかもしれないが、これは必要な確認作業。
軽い神様の軽い転生処理で、大切なところが変わっていたりはしなかったようだ。
「ほんとう、私が痛みを感じない特殊体質で良かったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます