第6話
女生徒の日記
母親と父親に解ってほしいという願いがそうさせたのでしょうか。昨日のわたしは側から見ればある種滑稽なほど取り乱して泣き喚いていました。
わたしは赤ン坊は惰性で泣くことがあると知っています。
自分の嗚咽にそれが当てはまることを恥ずかしく思う客観的な自分が警鐘を鳴らすにもかかわらず、それでもなお一晩中泣いていました。
将来への不安感。妬み、苦しみ。
分かっています。
その苦しみを独り占めしているかのような振る舞いは間違っていると。
みな形は違くても同じような悩みを持ってぐるぐる同じところを回っているのです。
なぜそんなちっぽけなことで悩めるのでしょうか。わたしは衣食住を保障された安寧の中にいます。だからそんなことで悩めるのです。傲慢です。贅沢なことです。肉体が健康な証拠です。
進路のことを考えると悲しみや焦りよりも先に、必ず怒りが湧いてきて、戸惑っています。
行き場のないフラストレーションが爆発しそうになるのです。いや、ただの駄々っ子なのです。その表現の方が正しい。
なにへの怒りなのでしょうか。不甲斐ない自分?進み出したみんな?それとも父母?怒りながらも冷静な自分がいて、壁を傷つけないようにボールを壁に当てながら、その遊びとも取れる動作と抱いている感情の齟齬にどうしようもなく疲れた気分になりました。
絞り出した一文に贅肉がぶよぶよと付いているような気がしてため息が出るほど悲しい
矢が図星をずばりとつくような、引き締まったダンサーのような、やむにやまれないもの、無駄のない研ぎ澄まされた一文に憧れます
ああ、強い人になりたい。父母の言い争いに耐えられるような、大人の矛盾を受け流せるような、女としての自分を受け入れられるような。そんな人。
女にはなんとも言えない嫌らしさがあります。月経のナプキン、脇の下、うなじ、乳房、妊娠、ほの暗い秘密の教室。肉割れのできた不格好に太い太もも。洗っても洗っても青魚を触った後のようにべたりとついてはなれない、なまぐさい匂い。その卑しさ。そしてそれを纏うということ。わたしは初経の時に泣きました。ついに女の世界に足を踏み入れてしまったと。薄々感づいていたことをわからせられてしまったと。悲しかった。苦しかった。2歳下のいとこの清純な青白い少女の太ももが憎らしいほど羨ましかった。
あの日には言葉にはなりませんでしたけれど。
今年の生物の時間に固定という操作を習いました。薬液を使って被験体を新鮮なまま殺し、そのまま状況を固定する。わたしはあの頃、固定をして欲しかったのかもしれません。
あの日あふれる涙の詳細は小5の夏休み中だったわたしにはぼんやりとしか分からなくて、祖母の家の水色のソファーで、涙があとから後から出てくることに自分で驚いていました。
自分では操ることのできない何者かがそうさせることだけを知っていました。苦しい思いをした潔癖的な彼女の気持ちに寄り添いたくてこの文を書いているのかもしれません。でも、それも余計なお世話かもしれないし、的外れなことを言っているかもしれません。
過去のわたしは「未来のわたしに書き換えられるのが怖い」と発言したことがありました。なんて可愛らしいわたし。頭を撫でてあげたくなります。「余裕、ないのね。」と。
まあ世の中解釈と憶測でできているものです。それを知ってますます寂しくて。でも、そんなものなのです。仕方ない。
なんでもいいから書いていないと落ち着きません焦りで脈拍が早くなるほど心配になって早く、早くと思ってしまいます。
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