第20話「ブートキャンプ 中」

 まずは、元の世界でもよくある火薬使用の回転式拳銃、武器αで訓練である。


 現在の武器αは、3インチ回転式拳銃の形態を取っている。

 日本の警察官が所持する、銃身の短い拳銃のイメージだ。

 もっともこれは、357マグナム弾と38スペシャル弾が撃てる拳銃である。

 なかなかの威力の持ち主なのだ。


「シングルアクションで3発、ダブルアクションで3発射撃を50セット」

「照星を照門の中に入れるんだよ、門の中心に星の中心が重なる様に」

「両手持ち、片手持ちで10m先の的のバイタルに中ててみて」


 何が何だか分からないがとにかく、たん・たん・たんと撃つ撃つ撃つ。

 フォームを修正され、弾丸の再装填で早くしろと言われ、大わらわである。

 淡々とオーダーを出してくるサティアが、どこぞの軍の教官に見えてきた。

 某映画の軍曹の様な無茶苦茶さは無かったのが、せめてもの救いだった。


 次は、武器βである。

 射撃訓練自体は、構造の違いと操作から握り方までの違いを教わった。

 しかし特筆すべきは。

 あらかじめ魔力を充てんした弾倉を用いるということ。


 弾倉から供給される魔力を、武器βの射出構造内で銃弾化して。

 魔力弾ともいえるそれの薬莢部分で、射出用の魔法を行使。

 射出された弾頭の魔法が、目標に到達して効力を発揮するという。

 いわば、魔導銃とも言える機構。

 そしてそれを使用する上での、銃の特性の差異であった。


 武器βは、元の世界でも有名な、某欧州国製のマシンピストルと酷似している。

 現状、再装填時は、弾倉を入れ替える必要があるとのこと。

 そこをみっちりと練習させられて、いよいよ射撃である。


 勢い良く、サティアのオーダーが下った。


「目標、20メートル先のマンターゲットA!

 単発1回、3連バースト1回、残弾全てフルオートで射撃!

 弾頭の設定は無属性衝撃弾! 効果範囲は弾着点から半径1メートル!

 ステンバーイ、ステンバーイ… 構え、狙え、撃てっ!」


 きしゅん。

 きしゅしゅしゅん。

 きしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅん。


 これは。


「そう。

 お察しの通り、発砲音と射撃反動が、ほぼ無いんだよ。

 火薬をガスに変えているんじゃなくて、呪文を書き込んだ薬莢で魔法を行使して、

 効力設定済みの魔法弾を射出しているからね。

 拳銃型の魔法射出装置…と思ってもらえばいいかな」


 ほう。


「薬室への魔力装填については、遊底を動作させて排莢後に行われるよ。

 射出魔法行使後の薬莢は、しばらくの間は固体化するから。

 それを自然に昇華するのを待つと、連射時には間に合わないのは分かるよね。

 排莢した方が早いから、遊底は薬莢の残魔力でスライドさせてるんだ。

 けど、反動無いでしょ」


 うん。


「衝撃吸収機構が、ほぼ完全に衝撃を緩和するからね。

 まあ、ちゃんと保持してれば、照準もブレないよ。

 それでいて単発と3点バースト、フルオート切替え可能だからお得だよね~

 頑張ったんだよ~♪」


 よくわからないが、お得というなら、お得なんだろう。

 というか。 

 台詞、めちゃくちゃ長くないかお前。


 目の色を変えて、武器βの機構の説明を続けるサティアの熱の入りよう。

 この武器はお前が作ったのかと聞けば、うんと全力で首肯すると来た。

 セラスがスイートルームマニアなら、サティアはガンスミスだったということだ。

 竜ってのは、尖った趣味をたしなむのがしゅうせ…努めなのかね。


「さて、それじゃ単発全弾射撃を30セットから始めようか。さくさく行くよー」


 俺はまた、射撃訓練に汗を流すことになった。


 チートというなら、俺の体に注ぎ込んで欲しいものだが。

 げにジャンキ…もとい、管理者のご家族の思考の方向は、理解しがたい。

 よもや、俺に銃を持たせたのは趣味優先や職権乱用じゃないよな。

 どこかしら楽しげな口調のオーダーを飛ばすサティアに、そう問いたいところだ。


「はい再装填。ハリーハリーハリー!」

「うおぉぉぉ!」


 何にせよ。

 兄としての威厳を示すには、まだまだ訓練が足りないようであった。


 次の訓練は、擬態戦闘服Ⅰ型である。

 この服の恐ろしい所は、擬態というだけあって。

 いろいろな服に、様相を変えられるというものだ。

 やろうと思えば、紋付き袴にも変わってしまうから驚いた。


 これも口頭、または思考命令により。

 設定されている服から視認した服まで、色々と着替える事が出来る。

 もちろん寸法はお任せで最適化される。


「靴のサイズが合わなくて、苦労した刑事さんいたでしょ」

「やっぱり第一作目が最高だよな!」


 そんな会話がなされたことはさておき、擬態戦闘服Ⅰ型の能力は。

 ・熱光学迷彩

 ・物理及び魔法吸収能力

 ・空間収納機能

 ・自律修繕

 ・耐候能力

 ・成長機能保有 

 とまあ、着ているだけでも大した恩恵なのであるが。


「身体強化とかヒール効果とか無いのか?」

「それは、また別のお話なんだよ」

「?」

「今はまだいいんだ。物理と魔法の吸収が出来れば、即死はないよ」

「…」


即死という言葉が、さらりと出てくる。

いかん、気を引き締めないと。

ここは、元の世界の様な安全な場所じゃないんだ。

俺は弱いのだから、これだけの装備を貰っても何かの拍子に…はあり得る。

ぶるっとひと震えした身体が、調子に乗ってたら死ぬぞと警告していた。


ひと通りの能力を見せてもらったが、その辺をこまごまと説明してもな。

素人が初心者狩りにあっても大丈夫…な程の装備と思ってもらえればよいそうだ。


ちなみに空間収納のおかげで、武装はすべて服の中に収納できた。

逆に、一般的な武器を使うのだとカモフラージュする必要すら現れた。

シアリーズの剣と剣帯、そして鞘を腰にまとわせて対応した。

街中で銃を見られて、その武器は何だと問われるのも困るからな。

主武器はこれだと、対外的に見せておかなければならないのだよ。


剣に合わせて、服の一部が剣帯や鞘に変形してくれたのは助かる。

何せ元の鞘は、剣を抜いたと同時に、鯉口の辺りがすっぱりと切れてしまったのだ。

抜き方が悪いという説もあるが、気にしても始まらない。


「超音波振動剣だからね。

 抜刀や納刀時には、鞘が切れないように調整しておくよ」


そういったサティアの気遣いもあり。

俺の、いわばチートとも呼べる装備についての訓練が終了したのであった。


「剣については、慌てずに。

 ゆっくり振り回せば、そのうち慣れるよ。安全装置も付けたしね。

 さあ、シアリーズお姉ちゃんの前で、試し斬りと行こうじゃないか」


ん?

ああ、そうだな。

そういうところは、きっちりと礼節を押さえてくれるじゃないか。

嬉しい気の廻し方だった。


真っ白なタオルで汗を拭く。

そして、俺たちはシアリーズと合流すべく、建物の方へ向かったのである。

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