第二十一話 ドクターのデート

 夕方でも引かない人の波をかいくぐり、濡れたタイル張りの通路を進んで、市場の奥の魚屋に辿り着く。氷が敷き詰められたショーケースの中からワイルドサーモンの切り身を選んで、店主に包んでもらう。


 ショーケース越しに商品とキャッシュを交換するのは彼女には少し遠そうだったので、私が代わりに買って出た。


「ドクター、今日は私が……」


 私が支払いを済ませてしまった事をクリスティーナは心配したようだ。サーモンの包みが入ったビニール袋を受け取った私に、彼女は少し言いづらそうに声を掛けてきた。


「いや、良いんだ。作ってもらえるだけで十分だよ。」


 本心である。考えてみれば他人の作った料理を食べるなど、人の社会で暮らし始めてからは外食を除けば初めてかも知れない。どうしたって申し訳ない気持ちが先に立つ。


 別に彼女の前でいい格好をしたい訳では無かった。あの匂いに操られている訳でも無い。断じて。


「でも……」



 唐突に、ざわめきの中何かを絞り出すような細く高い音が耳に届いた。



 その音に遮られるように、クリスティーナは言葉を止めてしまう。


 不思議に思って見ていると、両手で腹を抑えて俯いてしまった。サラサラの絹糸のような間髪から覗く耳が、随分赤い。



 これはもしや……



「あー……ええと……」


 私は咄嗟に周りを見渡した。


 通路の奥の、上の階に向かう狭い階段の入り口に、「ピロシキ」と言う文字を見つける。


 これだ。


「その、私はランチを食べていなくてね。」


 私の言葉に、クリスティーナはおずおずと顔を上げた。嘘は言っていない。今日は休みなので、食べたのはブランチだけだ。


「提案なんだけど、せっかくのディナーをゆっくり待ちたいから、軽くスナックでも摘ませて貰っても良いかな?あれはここで有名な物なのだろう?」


 言いながら、階段の入り口にかかる看板を指差す。二階にあるはずの売店が売る、揚げた惣菜パンがここの名物なのだと、いつだったか同僚の話で聞いて覚えていた。


 クリスティーナは何とも言えない表情で私を見ると、一度きゅっと口を結んでから、顎を上げて言った。


「いいですよ。但し、これは私が払いますからね!!」


 クリスティーナはまた私の袖を掴んで、何処か憤然と私を上階へと誘導して行った。


 ◇◇◇



 揚げたての香ばしい匂いがするパンの中には、スパイスを効かせたハンバーグのようなどっしりとした餡が入っていた。キツネ色に揚がったパンを齧れば、外はカリッと、中はふっくらとしたパンと、じゅわりと肉汁滴る餡の食感と風味が楽しめる。


 紙に挟んで渡された一つをあっという間に平らげてしまったクリスティーナに、私は3分の1ほど食べた自分の揚げパンを差し出した。


「僕には少し辛すぎたみたいだ。捨ててしまうのも勿体無いから、貰ってくれるかい?」


 クリスティーナの頬に、さっと朱が射した。


「じ、じゃあ頂きます。」

「ありがとう。」

「こちらこそ……」


 その半分も、彼女は私達が一階に戻る前に平らげてしまった。彼女の仕事の話はまだ聞いていないが、肉体的に負担の大きい仕事なのだろうか。随分と食欲旺盛に見える。


 しかし食べ応えあるパンがみるみるうちに彼女の口の中に消えていくのを見るのは、何故だかよく分からない満足感を湧き起こす。作ってもらうより、この際私が食べさせて……


「ドクターは食べられないものはありますか?」


 今朝採れたばかりの有機野菜が並ぶブースの前でクリスティーナが言い、私は我に帰った。


「いや、特には無いよ。強いて言えば、強いスパイスは苦手かな。唐辛子とかニンニクとか。」


 陳列棚の一角で存在感を主張する、私の手のひらほどもあるニンニクを見て私は言った。食用ではなく観賞用なのかもしれないが、威圧感たっぷりだった。食べられなくは無いが、好きで食べようとは思わない食べ物である。


「パセリとレモンはどうですか?」

「問題無いよ。」

「乳製品は?」

「大丈夫。」


 クリスティーナはスマホの画面で何やら確認をしてから、新鮮なパセリとケール、玉ねぎ、そして隣のブースでゴツゴツとしたレモンと色濃く熟れた葡萄を購入した。


 先程からのやり取りが、なんだかこそばゆい。誰かと並んで他愛の無い会話をしながら歩くなんて、一人で生きる決意をする前でもあっただろうか。


 彼女はいつのまにか私の腕を組んでいた。細く柔らかい感触が腕に感じられて落ち着かない。彼女の距離感は随分近いような気がするが、これは普通なのか?これではまるで……




 別のブースで、クリスティーナは随分と高そうなバターとチーズを少量購入した。続いて複雑に織り込んで焼いたパンで飾られたブースで、バゲットをまるごと一本。


「これで完了です!」


 大きなバゲットを抱えて、私を見上げて嬉しそうに言う。私は、思わず釣られて笑ってしまった。


 待ち合わせていたマーケットの入り口に戻り、駐車場に向かう。彼女も自分の車でやって来たのだと聞いて、私は心底安堵した。あの香りを、車のような密室で嗅いでしまったらどうなってしまうか正直不安だったのだ。


 マーケットを出ようとして、あの牛の銅像の横で私は足を止めた。


「ドクター?」


 クリスティーナが何事かと声を上げる。




 彼女を待っていた間も、購入しようかずっと迷っていた。




 それは、マーケット入り口の右手の布壁を飾る色とりどりの花だった。


 瑞々しい緑のベースに鮮やかな色彩の花が織り込まれた、冬に玄関に飾るリースほどのサイズに作られた花輪。それらは壁を埋めるように、いくつもが紐で吊るされている。こんもりと半円型に纏められたいくつもの花束も、テーブルの上に所狭しと並べられていた。その後ろでは沢山のバケツに囲まれて、商人が次の花束を作り続けている。


 その華やかさはまるで、全ての来場者を歓迎するかのようである。これもここの名物に違いない。


 私は、別の花売りのブースを通り過ぎた時にクリスティーナの目が輝いたのを見逃しはしなかった。我ながら目敏いとは思う。しかしそれで決心がついた。


 私は、何も言わずにブースに近づいた。クリスティーナは腕を組んだまま付いてくる。


 好きな色を聞きたいが、野暮だろうか。彼女なら、どんな色でも似合いそうだ。明るい色がいい。彼女のように若々しくて……


 思うままに手を伸ばし、眩しい大きなピンク色の花を中心に、橙色や黄色など様々な種類の花が纏められた花束を指差した。店主から、白い紙で覆ってもらったそれを受け取ってキャッシュを渡す。


「これを君に。」


 クリスティーナの胸元にそれを差し出して、私は言った。彼女の顔が、さっきよりももっと赤くなる。




 ふと、それに噛り付いてしまいたいと願う自分の欲求に気がついた。


 そしてそれが、吸血欲求とは別のものであることにも。




「わぁ……素敵!……有難う御座いますっ。」


 受け取った花と私とを代わり番こに何度も見て、彼女は微笑んだ。


 私はそれを見て、今度は胸が締め付けられるような気持ちになったのだった。


 ◇◇◇



 彼女を駐車場まで送り届け、住所を聞き、念の為に電話番号を交換する。彼女が出発するのを見送ってから、私は自分の駐車場へと急いだ。


 彼女の自宅が私の家に随分近い事にとても驚いたが、考えてみれば私は彼女が私の家の近所を歩いている時に出会ったのである。車社会の世の中でそんな事になったのだから、至極当然であった。


 そして自分の車に着いて、乗り込んで……私はまた、盛大な溜息をついた。




 ––––––何をやっているんだ私は……




 花束を贈るだって?一体何を考えているんだ?この先一緒にいる未来などあり得ない相手に、私は何をしているのだろう。


 私は、浮かれているのだろうか。


 そうだ、そうに違いない。年若い、親子ほども年の離れた美人と腕を組んで、街の観光名所を歩いた。それはきっと、私のような枯れかけた中年オヤジには舞い上がるに十分な刺激だったに違いない。それに加えて、時折ふわりと濃く香ったあの香りがあったのだから、彼女に好意を持つなという方が無理なのだ。


 私はシートベルトを締めると、なるべくゆっくり来てくれと言ったクリスティーナに従って、のんびりとダウンタウンの一方通行の道路に車を走らせた。


 おそらくそう遠くない背後を、あの二人の警官が付いてきているのだろうな、と思いながら。


 ◇◇◇



 彼女の家は、車で走れば私の家から5分ほどしか離れていないであろう住宅街にあった。スマホの地図とそれらしい建物を見比べて、目的地を確認する。


 辿り着いた場所は、小ぢんまりとした一戸建だ。同じようなデザインの建物が立ち並ぶうちの一つ。半地下の一階がガレージになっており、玄関は階段を登った先にある。居住部分は二階建てだ。隣の家との距離は狭くて、手を伸ばせば窓から届いてしまいそうだ。裏には小さな庭があるに違いない。


 夕陽を浴びてオレンジ色に見える外壁の建物の開いたままのガレージに、先ほど見たクリスティーナの車が停まっているのを見つけて確信を得る。車を停めて、階段を上がった。




 誰かの家のドアベルを鳴らすのも、慣れない事だった。誰かの家を訪ねた事など数える程しか思い出せない。汗ばんだような気がする手を何度か握ったり開いたりしてから、私は意を決して、ドアの隣にある小さなボタンを押した。


 ビーッとブザー音のような呼び鈴が鳴って、パタパタという足音が近づいてきた。勢いよく扉が開く。


「お帰りなさい!!」


 飛び出すようにクリスティーナが現れて……そして、そのまま固まってしまった。


 満面の笑顔も、不自然に凍り付く。


「……ご、ごめんなさい……つい……」


 口元を覆って、また顔を赤らめた。呆気にとられていた私も、やっと彼女が何に恥じているのかに気が付く。微笑ましい気分で声をかけた。


「いや、気にしなくていいよ。それだけ歓迎してもらえているということかな?嬉しいよ。」


 何処かで私たちを見張っているかもしれない警官二人の言葉を思い出せば、彼女は施設にいる祖母以外には家族がいないということだった。家に久し振りに誰かが訪れるのが、それほど嬉しいのかもしれない。


 ––––––それとも、私はもういない父親の代わりだろうか––––––


 そう考えた瞬間、身体の何処かがちくりと痛んだ気がした。




 まだ少し俯いて上目遣いのまま、それでもクリスティーナは私を招き入れてくれた。


 しかし扉を潜ると、今度は私が凍り付く番だった。


 家は思った以上に狭い。そしてここは彼女の家だ。




 当然、そこは彼女の濃密な匂いで満たされていた。





 ゴクリと、知らず喉が鳴る。


 クラクラするような強い甘い匂い。舌の付け根が痛い。唾液が溢れて止まらなかった。鼓動と呼吸が速くなる。




「––––––?……ドクター?」


 何度目かに彼女に呼ばれて、私はやっと彼女が私に何か話しかけていたことに気がついた。


「あ、いや、すまない。少しぼーっとして……か、可愛らしい家だね。」


 狼狽ぶりを誤魔化そうと、私は見た光景の率直な感想を述べた。家の中には手作りであろうキルトやレースが沢山飾られており、暖かく賑やかな雰囲気に包まれている。


「お、お婆ちゃんの趣味で……古臭くてちょっと恥ずかしいんですけど……」

「そんな事は無いよ……」


 じわじわと私を苛んでいく吸血欲求だったが、彼女を前にして私の痩せ我慢も程度が大きかった。出掛ける前にポケットにハンカチを忍ばせた自分を壮大に褒めながら、私はそれで額に滲んだ汗を拭う。


 ––––––耐えられるだろうか……


 弱気な言葉が脳裏に浮かび、途端に私の意識はここを去る言い訳を考え始めた。


 急用ができたから。体調が良く無いから……そうだ、それならあながち嘘でも無いし……


「––––––か?ドクター?」

「え?」


 私が振り向くと、すぐ側でマグカップを持ったクリスティーナが私を見上げていた。にっこりと微笑んで。むわりと、甘い芳香が鼻をつく。


「コーヒー、飲まれますか?夕食が準備出来るまで、少しかかりますし。」

「あ、ああ、頂くよ……」


 仰け反って、それだけ何とか絞り出すように答える。至近距離で香る彼女の匂いをなるべく吸わないようにと、呼吸を止めるのに必死だった。


「?……じゃあ、お淹れしますね。」


 彼女は私の明らかに不自然な様子に怪訝そうだったが、そう言ってキッチンの方へ戻って行った。私は、大きく息をつく。強い芳香が、ふわりと香って消えた。




 クリスティーナはシンク下のキャビネットからホーロー製のやかんを取り出し、水を汲んだ。それをカウンターの奥にある、渦を巻く古い型の電子コンロにかけてスイッチを入れる。


 私はふらふらと彼女の後を追うように歩いて、ダイニングテーブルの椅子に座った。膝をテーブルについて、組んだ手に口元を隠す。キャビネットから新しいコーヒーのパックを取り出して開き、満足そうにその匂いを楽しむ彼女の姿をじっと見つめた。


「私、あまりコーヒーを飲んだことないんです。おばあちゃんもお母さんも、紅茶の方が好きで。」


 言いながらクリスティーナはカウンターの横に置かれていたコンパクトな電子ミルを取った。備え付けの引き出しから計量スプーンを取り出して、大さじ二杯のコーヒー豆をそれに入れる。


「でも今日はドクターの為に、評判のコーヒーを用意したんですよ。ツンドラで見つけて––––––」


 有名なネット通販サイトで買ったのだと説明する彼女の言葉は、スイッチを入れた電子ミルの騒音で掻き消されてしまう。彼女自身も、その音に驚いたようだった。




 彼女は小鳥のようによく喋った。手元は作業を進めながら、時折私の方を見る。何がそんなに楽しいのか、始終笑顔のままだった。私はただ、相槌を打ちながらその様子を眺めていた。


 いや、眺めていたのではない。凝視していた。


 掴んだり握ったり、忙しく動くすらりとした彼女の手。半袖のシャツから伸びる腕に、彼女が力を入れる度に張る筋肉。彼女が口を動かす度にひくひくと動く首元の腱。絹糸のような髪がくすぐる、滑らかな肌。それは、シャツの下にも伸びているはずで……


 そう夢想する私は、はたから見れば、病院で彼女を困らせていたあの老人と同じ表情だったのかも知れない。




「はいっ、どうぞっ。」


 カウンターを回ってきたクリスティーナが、淹れたてのコーヒーの入ったマグを私の目の前に置いた。やはり笑顔のままで。


 また、一段の濃い芳香が私を包む。コーヒーではなく、あの甘い甘い匂い。


「有難う……」


 ほとんど呆然としてその笑顔を見つめたまま、私は呟いた。クリスティーナは満足そうに微笑んでから、くるりと踵を返す。




 気がつけば、私は手を伸ばしてその手を取っていた。




「……ドクター?」




 引き止められて、クリスティーナは不思議そうにこちらを見た。掴んだ滑らかな手は、しっとりと暖かい。


 その距離を詰めたくて、私は立ち上がる。


 私を見上げる大きな赤味の強い茶色の瞳は、混乱に揺れていた。


 ––––––止めろ。


 頭の後ろの方で、そう誰かが囁く。


 ––––––止めろ。何をしているんだ。


 彼女に近づきたい欲求にはその言葉は届かなくて、いつのまにか私は彼女の手を引き寄せ、二人を遮るのは今や身に纏った衣服だけだった。じわりと、温もりが伝わる。


「あの、ドクター?」


 クリスティーナは手を振り払おうとも、私の身体を押し返そうともしない。どうしてこんなに無防備なのだろう。殆ど知らない人間を家に招き入れて、甲斐甲斐しく世話を焼いて。嬉しそうに私に纏わりつく様は、まるで子犬だ。




 私は不安げに揺れる左右の瞳から、何か言いたげに薄っすらと開いた唇に視線を移した。


 皮下の血流の色が浮き上がるその膨らみの隙間から、つるりとした白い歯が微かに覗いている。


 クリスティーナの手を握っていない方の手が、自然とその柔軟に動く皮膚の元に伸びた。


 親指を下唇にそっと添えて、柔らかいそれをとてもゆっくりと撫でる。


「っ……」


 彼女の肩がピクリと震え、目と唇はきゅうと閉じられてしまった。それでも彼女は抵抗しようとはしない。眉をハの字に下げたまま目を開いて、困ったように私を見ている。


 息がかかるほど近づいて、額と鼻先が触れた。


 私の脳味噌は、もう完全にあの匂いに侵されている。ああ、もう……




「何が欲しいんだ?」




 私の口を突いて出たのは、私が一番聞きたかった本音だった。クリスティーナの目が大きく見開かれる。



「君は、私に何を望んでいる?」



 私に近づいて、家に侵入して、ハニーを攫って……甘美な匂いで私を惑わせて、自宅にまで連れ込んで。君は一体、何を企んでいるんだ?ああ、でも、それよりも……




「君は、一体誰なんだ?」




 びくりと、彼女の肩が跳ねた。驚いたように息を飲んで、それから初めて私から離れようと身をよじった。


 私が、それを許す訳は無かったが。


 両腕をぐっと掴んで距離を詰めなおした私に、クリスティーナは訴えるように叫んだ。


「ドクター!!私は––––––」




 ––––––ピリリリリッ。




 彼女の言葉は、また遮られてしまった。ただし、今度の妨害音は私のポケットからだ。


 スマホの着信音と振動音が、引っ切り無しに耳に届く。


 外の世界からの侵略のお陰で、私はやっと我に帰った。


「っ……すまないっ。」


 彼女を半ば突き放すように開放して、彼女とダイニングテーブルから離れる。


 ––––––何をしようとしていた?しっかりしろルイス!!


 自分を頭の中で罵りながら、私は慌ててポケットのスマホを取り出した。番号を確認せずに、縋るように電話を取る。まるで、それがこの場から助け出してくれる相手であるかのように。


「もしもし。」

『ヴィットーさん?』


 一瞬、その場違いな幼い声に私は困惑した。男の子だ。声変わりを控えた、傷つきやすそうな。


「ええと……?」

『ミッチだよ。ねぇ、犬の事なんだけど。』


 犬、という言葉で、私は全てを思い出した。


 そうだ、ハニーの世話を頼んでおいた近所の子供だ。遅くなるから、夕食をやっておいてくれと……


『今、ヴィットーさん犬と一緒にいる?』

「……なんだって?」


 ざわ、と、嫌な予感が全身に走った。




『いないよ。ヴィットーさんの犬。』




 私は、言葉を返す事が出来なかった。


 私が状況を受け止めきれないうちに、ミッチはまた繰り返した。


『何処にも居ないんだよ。犬。家の中にも庭にも。ねぇ、今一緒に居るんじゃないの?』

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