第40話。神との対話
都民街、大通りから1本外れた道にある教会。白い石造りでなんとも神々しい雰囲気を放つ大きな建物。
神魔国城の中庭にあった教会とは大違いだ。
中は正面奥に女神シューメクリアの神像があって、左右それぞれに長椅子が置かれている。これは神魔国城の教会とほぼ同じ造りだな。
神父1人の前に赤子を抱いた数人の列が出来ており、複数のシスターが聖水を配っていた。多分神父は子供のステータスを開いてあげてるんだと思う。
椅子に座って勝手に祈ってもいいのだろうか? わからないけど、忙しそうなシスター達に聞くのも申し訳ない。俺はなるべく神像に近い椅子に座り、祈りの手を組んで目を閉じた。
「チーッス、起きてるっすか?」
物凄く軽い声に目を開けてみると、教会の正面奥にあった女神像が動き回っていた。その女神像がまるで生身であるかのように、滑らかに口を動かして俺に話しかけている。予想外の状況にポカンと口を開けてしまった。
「な〜に固まってるんすか。別に声出しても大丈夫っすよ。この教会だけ時を止めたっすから」
「時を……止めた!?」
辺りを見渡してみると、みんな微動だにしていなかった。どうやら本当のようだ。
「そうっすよ。仮にも神なんだからそれぐらい朝飯前っす。あ、褒めても良いっすよ?」
これが、神? 女神シューメクリア? 神像通りなら清廉な美女なのだが……[っす]という語尾はなんだ? 全っ然似合わない。
「君、思ってたより失礼っすね。ウチ自身この像とは似ても似つかないからまぁ、良しとするっす。ところで、なんの用があって呼んだんっすか?」
そういえば神はこっちの心を読めるんだった。気をつけないと。
「地球の母の様子が気になって。今どうしているのかとか見せてもらったり出来ますか」
「それは難しいっすね。ウチはシュメフィールの神だからアースガルドに直接干渉できないんっすよ。それが見たいならアーシュリムに頼むっす」
この世界の神は、他の世界である地球に干渉できないのか。だが、地球の世界アースガルドの神であるアーシュリムなら可能らしい。
けれど彼がここに居ないということは、今忙しかったりするんだろう。
「忙しいっていうか、アーシュリムはウチより神気が強いから土地の力が足りないんっすよ。神が降りるにはその神気に耐えうる大地が必要なんっす。無理に降りれば世界崩壊だってありうるから、もっと土地が強い場所……教会の総本山にでも行くといいっすね」
「総本山ということは……神魔国ですか」
神魔国が神魔国と呼ばれる所以。魔族が住む土地に世界中の教会の総本山、シューメクリア大聖堂があるからだ。そして教皇は代々天族。まさに神と魔の国である。
今まで行ったことのない場所だが、夏の長期休暇で神魔国に一度帰る予定だし行ってみよう。
「あと、神の呪縛について聞きたいんですけど」
「それは言えないっす。先代がやったことだから神の規則で喋れないんっすよ。それに、ウチの方が弱いから簡単に解くことも出来ないっす」
「先代? 神も代替わりするんですね」
「まぁ、そんなところっす。先代達はちょっとやりすぎたんで最高神に消されたんっすよ」
やりすぎて最高神に消された。一体何をしたんだ。というか最高神なんて居たのか……。
「ゲームっすよ、ゲーム。アイツに誑かされてあいつら……」
そう呟いた石の神像は、美しい顔を盛大に歪めて憎しみの浮かんだ表情をしている。神気……なのだろうか? 凄まじい波動が伝わってきて背筋が冷えた。
身震いした俺に気づいたシューメクリアが慌ててそれを引っ込めるまで、生きた心地がしなかった。
「す、すまなかったっす……。あの頃を思い出してつい。あぁ、最高神っていうのは、それぞれの世界の管理神を統括する神。全世界に存在する神で最も強い力を持ってるっす」
「大丈夫、です……。最高神って凄い方なんですね。最後にひとつ聞きたいんですが……」
「なんだね? 言ってみるがいいっすよ!」
何故か腕を組んでドヤ顔をしたシューメクリアに、最後の質問をぶつける。
「古の勇者アドル。あどう るいについてです」
「
「彼の日記をとある人に見せてもらったので」
「そうっすか。でも答えはNOっす。彼のことは彼から聞くといいっすね。ウチは彼のことについて語る資格がないっすから」
話せないとかじゃなく、資格がない? そう言った女神シューメクリアは下唇を噛み締め、今にも泣きそうな顔で俯いている。
「ウチは、彼に酷い選択をさせてしまったっす。せめて君がそうならないことを願うしかないっすね」
詳しくはわからないけど、シューメクリアとアドルの間には何か深い事情があるんだろう。
「なんの選択かわかりませんが、俺は誰かが悲しむような選択はしたくないっす」
「ぷっ……ウチの口調が移ったっすね」
ずっと[っす]を聞いていて語尾が変になった俺を見て吹き出した彼女は、噛んでいた唇を緩めて微笑んだ。なんだか俺もちょっと面白くなって2人で笑ってしまった。
「そろそろ時間っすね。時を動かすけど、慣れてないと目が回るから座ったままの方がいいっすよ」
「わかりました。色々教えてくれてありがとうございます」
「こっちこそ、息抜きが出来たからありがとうっす。また呼んで欲しいっすね。さぁ、目を閉じるっすよ!」
目が回るのに備えて椅子に深く座り、目を閉じる。
次の瞬間には耳に複数人の声が届いた。同時に異様な気持ち悪さと眼球がグルグルしているような感覚が襲ってきたため、目を開けずにじっと耐える。
数分で治まったので教会を後にし、学園のある学商街へ向かって歩を進めた。
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