第35話。授業選択
「ルーシィは何選ぶ?」
「エミルはどれ選ぶのよ?」
質問に質問で返されてしまった。
「魔道具学と槍と格闘が気になってるかな」
「ふーん、まあ妥当よね。あたしはまだ幻覚魔法以外使えないし、魔法理論をやってみたいわ」
それを聞き付けたアリスが、驚いた顔をして話に参加してくる。
「ルーシィ魔法使えるの? でも君獣人だよね?」
「あー、えっと。ちょっと生まれつきなのよ」
「へー! 凄い、ちょっと見せてよ!」
ミシェルも興味津々のようで元気にお願いしてくるが、流石に授業中はまずいだろう。
「今は授業中だし、先に選択決めちゃわない? 俺は魔道具学、槍、格闘を取ろうと思ってるんだけど皆はどうする?」
「あたしは魔法理論はほぼ確定だけど、武芸は悩むわね。格闘でナイフとか小型武器を使うならやってみたい気もするけど」
「あ、それなら兄様がやるって言ってたよ! 僕は礼儀作法とロッドをとろうかな。得意だもん!」
「
「僕は魔法理論と斧かなぁ。斧はいつも使ってるし、冒険者志望だから魔法理論は知ってた方がいいかも」
座学はともかく、武芸は見事に別れたな。武芸は2個までと書いてあるからひとつでもいいのか。
皆やりたいものが決まっているなら無理に合わせる必要もないだろう。
「じゃあ魔道具学は俺とサラシャ……さん。魔法理論はルーシィとアリスが一緒だね」
「なんか僕だけ一緒の子が居ない〜!」
仲間はずれみたいになったミシェルがいじける一幕もあったけど、割愛しようか。それより俺はずっと気になっていたことがある。
「アリスとサラシャさんは、昨日の結果発表ではどうしてたの? 居なかったみたいだけど」
「あー、それはね。僕が着いたの結構ギリギリでさ。そしたら門の外にサラシャが立ってたんだ。入らないのか聞いてみたら、目立つから恥ずかしくて入れなかったって言ってた」
「ちがっ……いえ、違くはないのですけれど」
結構ハキハキ話すタイプに見えるサラシャが、どっちつかずの言葉を発する。どういうことだろうか? なんだか俯いてしまったので詳しく聞くのもはばかられる。
「そろそろ決まったかー。集めるぞ」
リカルド先生、ナイスタイミング! 微妙な雰囲気になりかけたところで救世主のごとく声を飛ばしてきてくれた。
急いでプリントに希望選択授業を記入し、提出。
「よし、そんじゃ簡単にこの学園のルールについて説明していくぞ。苗字を名乗るのは原則禁止。生徒同士のトラブルは決闘で済ませろ。生徒会と風紀委員会の指示はよく聞くこと」
苗字の件は学園長も言っていたな。
この学園、決闘が認められているのか。試験の時にあった、気絶したら自動的に移動する魔道具を思い出す。あれがあれば、ある程度安全性は保たれるから差程危険ではないのかもしれない。
生徒会の存在はユーリスの挨拶で知っていたが、風紀委員会は初耳だ。
「寮の門限は19時。その時間以降の外出は禁止。ただし、週末2日間と長期休暇中と事前に届出をした場合は問題ない。その他は常識的な行動をしてれば大丈夫だ。以上、質問はあるか?」
門限、早いな。学園内とはいえ警備上仕方のないことか。例外は寮生活で家族に会えない子供が帰宅する場合の為の措置だろう。
「はーい、先生! 寮の他の階には行ってもいいんですかっ?」
「あー、ミシェルか。問題ないが、21時以降は寝始める生徒もいるからあんまり遅くまでは居るなよ」
リカルドは手に持ったボードで、多分名前を確認してから返答した。ミシェルはきっと兄に会いたいんだろうな。俺も兄様に早く会いたいけど、まだ手紙の返事が来ていない。
「他は居るか? …………居ないようだな。そんじゃ今日は必須項目の教科書配ったら終わりだ。そこの棚に置いてあるから各自持っていけ。明日は普通に授業があるから予習でもしておけよ」
そう言って、リカルドはどこかへ行ってしまった。
なんとなく感じてはいたけど、リカルドってちょっと面倒くさがりなようだ。そっちの方がバリバリ教師より親しみを感じるのでいいんだけど。
教科書をそれぞれ取り、隣のB組の教室へ。クラスが別れてしまったラウラを迎えに行くのだ。
「ラウラ、ラウラ。あ、居た! ラウラこっちよー!」
ルーシィが呼びかけるとすぐに気づいたようで、小走りで来た。無事に合流出来たので寮に向かう。
「迎えに……来てくれたの?」
「そうよ。選択授業は何を選んだの?」
「魔法理論と、弓……。得意だから」
「じゃあルーシィとアリスと一緒だね。弓は別れちゃったけど」
完璧に武芸が別れたな。近接格闘は俺とルーシィで被ったが、冒険者体験の時にこのメンツでパーティでも組めばかなりバランス良くなりそうだ。
「ラウラさん、B組の担任はどなたでしたの?」
「担任はね、丁寧な男の人……クロード先生」
実技試験で剣を担当していた試験官だろうか? 常に敬語で話していたし、几帳面そうな顔をしていた。
その後は他愛ない話で盛り上がって寮の前でそれぞれ別れる。ミシェルはそのまま兄のところまで行くようで、3階まで上がっていってしまった為、俺は1人で寮室に戻った。
「っはぁ〜〜、まさかサラシャ嬢がカイン学園に入学してるんて思わなかったよ。でもなんでわざわざ外国の学園まで来てたんだろ」
机の上に教科書を広げながら独り言を呟く。少しくらい明日の予習をしておこうと思ったけど、室内に突然現れた気配を察知した。
振り返ってその姿を確認し、発言の許可を出す。
「許す」
「第一殿下と第二妃殿下から、お手紙のお返事にございます」
やっと来たか。待ちに待った、兄様からの手紙。
忍び装束の情報部隊構成員から2通の便箋を受け取ったその時。目の前の彼が、一瞬ドアに目線を向け姿を消した。普通なら何も言わず勝手に下がるなどありえない。誰か来たか。
「エミル〜〜、兄様居なかったよぅ」
「まだ授業中なんじゃないかな? 俺達は初等部だけど、お兄さんは高等部だから遅いのかも」
来たのはミシェルだったようだ。別れた時は気づかなかったが、初等部が先に授業が終わってる可能性もあるし、彼は生徒会長。忙しいだろう。
早く手紙をみたい気持ちもあるが、ミシェルの前で確認して、もし中身を見られてしまったら面倒なことになる。
「そっかぁ、そうだよね……。ねぇねぇ、お腹空かない? 食堂行こうよ!」
「もうお昼だもんね。俺もお腹減ってきちゃった」
「じゃあ決まりだね!」
ミシェルに手を引かれ、食堂に向かう。前探検に来た時は時間的な問題で誰もいなかったが、今は数人食事をしていた。
注文は紙に書かれたメニューを見て決めるようだ。そこにシュメフィールで初めて見る料理名を見て、思わず声に出してしまった。
「ハンバーグ……」
この世界にハンバーグなんてあったのか。勇者アドルが作っていたならもっと広く知られていてもおかしくない。神の呪縛とやらのせいで伝わっていないのなら、尚更ここにあるのはおかしい。
もしかして、俺の他にも転生者が居るのか?
これは、すぐに確認せねばなるまい。厨房には寮母のジェンナが居るだろう。彼女に詳しく聞くため、厨房に駆けてしまった。ミシェルを置いてけぼりにしてしまったが、そんなことに構っていられない。
「ジェンナさん、聞きたいことが!」
そこに居たのはジェンナさんではなく、黒髪黒目の男性だった。
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