第34話。入学式

 


 お茶を勧められて是非飲みたい気持ちもあるが、邪魔してしまった申し訳なさの方が勝る。


「急にお邪魔しちゃってすみま――――」


「兄様ーー!!!」


 隣に居たミシェルが、高貴そうな雰囲気を纏った少年を兄と呼んで抱きつきに行った。


「ミシェル、無事に合格できたみたいで嬉しいよ。彼はお友達かい?」


「同じ部屋の子なの。 エミルって言うんだ!」


「そうかそうか、仲良くするんだよ。エミル君、初めまして。私はミシェルの兄、ユーリス。弟を宜しく頼むよ」


 ミシェルとユーリスの兄弟は、色の薄い金髪に青い瞳をしており、西洋人形のように美しい。ミシェルは現在可愛い系だが、ユーリスは可愛さを若干残した綺麗系。女装させたらご婦人方が真っ青になるだろう。


「俺はセドリックだ。ここの寮長をしてる」


 セドリックは焦げ茶の髪に鳶色の瞳で、結構背が高い。もし腰に剣を下げていたら騎士団にいてもおかしくないような雰囲気をしている。


「初めまして。ユーリス先輩、セドリック先輩。少し寮の中を探検していたらこの部屋を見つけてしまって。失礼しました」


「ふふ、探検ってことは犯人はミシェルだね。全く、お友達を巻き込んではいけないよ。すまなかったね、エミル君。お詫びとしてお茶菓子も出そう」


 あれよあれよという間にお茶菓子も出され、4人分のお茶も注がれてしまった。ここまでしてもらって断るのは逆に失礼になってしまう。

 椅子に座り、有難くご馳走になった。


「美味しいです、この紅茶。ヒシュリム産ですか?」


「口にあったようで嬉しいよ。私の領地で採れた茶葉を使っているんだ。お茶菓子の材料も同じだね」


 私の領地。既に家督を継いでいる貴族か、王族として王家領地の管理を任されているのか。貴族ならこのクラスの雰囲気を持つのは最低でも侯爵だろう。


「そうなんですね! どこの領地ですか?」


「カインの北、アインツバッハ。冬はとても寒いけど夏は避暑地としても人気なんだよ」


 アインツバッハは確か公爵家の領地だ。王族の避暑地として別荘もあったはず。

 その後はのんびりと他愛ない話をしながらお茶して、部屋に戻った。








 翌日。

 昨日受け取った手提げ袋から制服に袖を通した俺は、2台の机の間に設置された鏡でおかしな所がないかチェックした。

 カイン学園の制服は黒を基調としており、所々に白が入っている。ネクタイは赤白黒のチェック柄で、なかなかかっこいいデザインだ。


 入学式25分前にミシェルと部屋を出た俺は、ルーシィを迎えに行った。女子の制服も男子と似たようなものだったが、ズボンも黒い男子とは違い、スカートが白い。

 ルーシィも同室の子と来ていたようで、自己紹介をしあった。


「えと、その……ラウラ、です」


 ラウラは見るからに引っ込み思案そうだ。耳が俺よりピンと尖っているので、純血かそれに近いエルフだろう。整った顔をしてはいるが、エルフの中では多分平均くらいだ。


 4人で地図と睨めっこしながら入学式会場へ。

 そこには既に250近い人数が集まっており、俺達はかなり最後の方に来てしまったようだ。

 そして、初等部1年生の列に白く目立つ翼と、その隣に見覚えのある褐色が見えた。


「凄い、天族なんて初めて見たわ! 綺麗な翼があるつて本当だったのね。あ! アリス!」


「ルーシィとエミル! 昨日は――――」


「エミル!?」


 ルーシィに声をかけられたアリスは、振り返って俺たちの名前を呼び、何か言いかけていたがその隣に居た天族の子が遮った。


 白に近い金髪に、青い瞳。背中で揺れる大きな翼。見紛うはずもない。2年ぶりに会う彼女の名は……。


「サラシャ、嬢……」


「お久しぶりですわ。第二……いいえ、エミル様」


 合格発表ボードでその名前を見かけてからもしかしてとは思っていたけど、本当にあのサラシャだったのか。神魔国の学園に行っていると思っていたので、てっきり同名の別人かと思っていた。


「様って、エミル、まさか……」


 察したようなので、ルーシィに小声で返答する。


「うん、神魔国の令嬢だよ。2年前に俺の誕生式であったことがあるんだ」


「強敵ね」


 なにやら物騒な単語が聞こえたが、突っ込まない方が身のためだろう。


「静粛に。これよりカイン学園入学式を始める」


 俺達が来たのは結構ギリギリな時間だったようで、到着してから差程時間が経っていないのに式が始まってしまった。


「まずは新入生の諸君、入学おめでとう。わしは学園長のオーガスタスじゃ。知っておろうが、この学園は身分を振りかざす輩を認めておらん。基本的にファミリーネームを名乗ることも控えるのじゃ」


 そういえば、合格発表ボードには名前しか書かれていなかったな。そういう事だったのか。


「とても厳しい試験を乗り越えた若き芽よ、期待しておるぞ。長話は皆好かんじゃろう、これにてわしの話はしまいじゃ」


 長く白い髭の学園長が壇上を去り、入れ違いでミシェルの兄ユーリスが上がった。


「新しき後輩を歓迎するよ。私はカイン学園生徒会長ユーリス。入学したてでわからない事も多いだろうけれど、初めは皆同じ。遠慮なく先輩達に聞くといい」


 ユーリスは生徒会長だったのか。まぁ、それも頷ける風格はあったけど。


 その後は特に重要と思える情報もなく、粛々と式が進んだ。

 式終了後にクラス発表がされ、俺、ルーシィ、アリス、ミシェル、サラシャ全員が同じクラス。どうやら試験結果の点数順で分けられているようで、ルーシィはA組の最後の方に呼ばれた。筆記で山が当たったとはいえ、それだけでカバーするのは難しかったのだろう。


「A組の担任は俺、リカルドだ。教室行くからついて来い」


 試験官だったリカルドに案内され、1階1年A組の教室へ。合格者30人を2クラスに分けたので15人しかいないが、結構広い。


「テキトーに席につけ。選択授業のプリント配るぞ。同室と一緒にするも良し、得意なものをやるのもよし、好きに選べ。ただし、1年間変更出来ないからよく考えろよ」


 定番の自己紹介はしないようだ。

 5人で固まって近くの席に座り、配られたプリントを確認する。


 必須項目として算術、魔物学、魔力操作などがあった。座学選択は魔法理論、礼儀作法、魔道具学から一つ選ぶ。武芸選択は剣、槍、弓、斧、ロッド、近接格闘から2つまで選べるらしい。


 俺はちょっと魔道具学が気になってる。武芸だと剣と弓は必要ないし、やるなら槍と近接格闘だな。どうせやるなら知り合いとやりたいし、他の皆は何を選ぶんだろう?

 早速ルーシィに聞いてみることにした。


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