第22話。十層ボスと強烈な腐臭








 スープを飲んで人心地着いた俺達は、ボス部屋に挑まんと立ち上がった。


「開けるよ、準備はいい?」


「えぇ、もちろんよ!」


 その返事を聞いた俺は、5m程の大きな鉄製で重い扉を、ゆっくりと開けた。

 俺達がボス部屋に入り込むと、ダンジョンの力なのか、壁際の燭台の蝋燭にポポポポッと火が灯る。


「なんとも都合のいい……これ、急に消えたりしないよね? 大丈夫かなぁ? ちょっと不安なんだけど、明かりの魔法消しちゃおうかな」


「大丈夫なんじゃないの? それより、見て! 骨だらけだわ!」


 前方に目を向けると、そこには山になって置かれている、大量の骨が。


「ルーシィ……凄い嫌な予感がするんだけど。俺だけかな?」


「奇遇ね、あたしもよ」


 ――――カタカタ――カラカラカラ――


 どうやら、同じことを考えていた俺達。

 その予想と寸分違わず、大量の骨が組み合わさって、10mくらいある巨大なスケルトンになった。最後に骨の下に埋もれていた、これまた大きな剣を取り、横一文字に振り払う。

 戦闘、開始だ。


「ルーシィ! 俺が頭を狙う! 君は足を崩して!」


「わかったわ!」


 俺は魔力で、ルーシィは氣で、身体強化をする。

 まずルーシィが突っ込み、手に氣を集めて巨大スケルトンの足元に滑り込み、右足の踵を砕く。途中、大きな剣で切りかかられたが、大きい分攻撃が遅い為、難なく躱していた。


 片足の踵を無くして、バランスを保てなくなった巨大スケルトンが、後ろに倒れ始める。

 それを見た俺が駆け、丁度良い高さに倒れてきた頭蓋骨を粉砕。首以下も頭を潰されたことで魔力を失い、バラバラと崩れ、やがて粉になった。


「終わったね。剣が残ったけど、こんなに大きかったら使えないや」


「そうね、置いていきましょ!」


 粉と大きな剣を後ろに、俺達は先へ進んだのだが。


「行き止まり、だね」


「行き止まり、よね?」


 そう、下層へ続く階段が無いのである。あるのは、ショートソードの形にへこんだ、謎の壁だけ。人が入れそうなくらいの大きさのところで、開きそうな溝があるのだが、肝心の開け方がわからない。一応、普通のスケルトンソルジャーから入手した剣を、合わせてみたのだが……型に合わなかった。


「どうしようか。近くに階段はないし、へこみに合う剣を探してみる? まだ行ってない道もあったし」


「そうね。面倒だけど、しかた――――」


 この部屋で階段を探すのを諦めて、入口に戻ろうとしたその時、突然大きな剣が光り出した。


「なんだ!?……ってあれ? 剣が、小さくなってる?」


 輝く大きな剣が、縮小しながら光りを弱めていく。完全に光りが消えてから駆け寄り、確認する。


「ルーシィ! この剣、あの壁に嵌りそうじゃない? 形的にも、サイズ的にもピッタリだよ!」


「ホントね! やってみましょ!」


 早速、ショートソードサイズに縮んだ大きかった剣を、壁のへこみに入れ込む俺。

 パチン、と軽く音を立てて嵌った剣が、再び光りだしたが、すぐに弱まる。


 ――ガガガガ――ガッコン――


 溝の部分が上にスライドし、一緒にショートソードも持ち上げられてしまう。


「あ〜ぁ……」


「どうしたのよ?」


「あのショートソード、今のスケルトンソルジャーの剣より、魔力伝導が良さそうだったから、欲しかったんだけど」


「なら取ればいいじゃない? 取ってあげるわよ」


「あ、まっ――」


 ――――ドッガガン――――!!!


 ジャンプして剣を壁から外そうとしたルーシィを、止めようとしたのだが間に合わず、剣を外された壁が落下した。


「ルーシィ。取り敢えず、その剣を戻そうか」


「ごめんなさい……」


 そして、再び上がる扉。


「はぁ、剣は惜しいけど降りようか。次は11層だし、何か違う材質の剣が入手できるかもしれない。まぁ、一緒に新しい魔物が出てくるだろうけど」


「次は何が出てくるのかしら! 楽しみね!」


「そうだね。スケルトンの次だし、ゾンビだったりして! もしそうなら燃やせるから楽だな〜」









 そうして、十一層へ。

 一〜十層と違い、広めの通路が続く階層ではなく、広い空間が、短く細い通路で繋がっている。完全に光源がなく真っ暗だったので、光玉をだしている。

 そして、何よりも伝えたい、この強烈な腐臭。


「うっ、臭い……これ、臭いだけで気絶しちゃいそうだよ……はっ! ルーシィは大丈夫!?」


「臭いけど大丈夫……」


「あれ、獣人は五感が鋭いと思ってたんだけど、そうでもないの?」


「エミルの基準がどこにあるのか知らないけど、鋭いと思うわよ。普通じゃ感じない臭いだってわかるし。音を聞いて、その音の発生源を特定することだってできるわ。」


「じゃあ、なんでそんなに平気なの? 臭くない?」


「あのねぇ……どれだけ臭いが薄れていても、嗅ぎ分けられるってだけで、人間の何倍も強く臭いを感じるわけじゃないのよ?」


 それは初耳である。てっきり、嗅覚が鋭ければ何倍も強く臭いを感じるのだと思っていた。


「えっ、そーなの!? 全っ然知らなかったよ! じゃあ、耳もそんな感じなの?」


「そうね。嗅覚より、聴覚の方がいいかしら? 物凄く遠くの音だってわかるわよ」


「へぇ! ん? じゃあもしかして、俺が気配察知で敵が来たの教えなくても、ルーシィ気づいてたの?」


「それは、そうなんだけど……」


 俺から目を逸らし、語尾が小さくなるルーシィ。


「なんで言ってくれなかったのさぁ……俺、超恥ずかしいよ」


「だって……エミルがダンジョンに入ってから、なんか張り切ってるから。黙っておこうかなって」


 ――――んな、ばかな。


「え、嘘、俺全然普通だよ?」


「なんというか、そうよ! いつもより口数が多いわ! それに、バンバンあたしに指示してきてたし!」


「あー、そうかもしれない。ごめん、嫌だった?」


「嫌じゃないわ! むしろ……」


「むしろ? むしろ、なに?」


「その……ちょっと、かっこよかった、わ……」


 言葉が尻すぼみになっていて、[ちょっと]から後が全然聞こえない。


「え、なに? 聞こえなかったんだけど」


「聞かなかったことにしてちょうだい!」


 何故か顔を真っ赤にしたルーシィが、先に進んでしまう。慌てて追いかける俺。

 何か気に触ることを言ってしまったのだろうか? 不安になって、ルーシィに聞こうとしたが、それは叶わなかった。


「ひどい臭いだ……ルーシィ、来るよ」


「くぅ……わかってるわ」


 短い通路から広い部屋に入った途端、視界に入った8体のゾンビソルジャー。確定だ。階層が下がるごとに、一度に出現する数が増えている。一体、何階層あるのかわからないが、最下層はどれだけ同時に出てくるのだろうか? 考えただけで面倒である。


 十一階層で遭遇した、ゾンビソルジャー。スケルトンソルジャーよりは手応えがありそうだ。




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