第21話。ダンジョン突入







「暗いわね……」


「明かり出すから、ちょっと待ってて。こういう時に、光魔法ってホントに便利だよね」


 20段ほどの階段を降りてきた俺達。ダンジョンの広めの通路は薄暗く、壁がほんのり光っている程度の光源しかない。

 視界確保の為、光属性魔法の魔力玉を2つ出した。1つは俺達の近く。もう1つは道の先に。俺は魔法剣士なので、距離が離れれば、離れるほど魔力消費が増えていくが、この程度なら全く問題はない。


「これでどうかな? だいぶ明るくなったと思うんだけど、もっといる?」


「いい感じよ! これだけ明るいならいらないわね」


 光源を確保し、何度か曲がって先へ進んでいく。すると、早速このダンジョン初遭遇の魔物が。


「ア……? アァ、ア……」


「きゃーーーーーー!!!」


「っうわ!? 耳元で叫ばないでよ! ビックリしたぁぁ……って、ルーシィ。まさか……」


「な、ななな、なんで最初からスケルトンソルジャーなんて出てくるのよぉ……!」


 俺達の前に現れたのは、スケルトンソルジャー。魔力によって骨だけで動き、剣で切り付けてくる魔物だ。中には骨に、乾いた筋肉の欠片が、こびり付いていたりするやつもいる。今回のはソレだ。正直グロい。というか、怖い。

 ルーシィはお化け系統が苦手なようで、ブルブル震えている。俺も得意ではない為、勝手に足が動き、後ろに進み始めてしまった。別に苦手な訳でもないのだが、恐怖というのは伝染するものだ。


 だが、ここはダンジョン。下層に行くにつれ、どんどん魔物が強くなる。こんな序盤で立ち止まってなどいられない。

 下がった足を引き戻し、一歩前に出る。


「ルーシィ。俺が仕掛ける。何かあったらフォローして!土刃どじん砕破さいは―!」


 ――――バッコーン――


「え? 案外あっけないな。なんでこんなのが、さっきまで怖かったんだろ」


 破壊力……つまり、打ち壊す特性を持った土刃で、左下から右上へ、解体ナイフで切り払ったのだが。スケルトンソルジャーが脆いのか、土刃の相性がいいのか、簡単に倒せてしまった。砕けたスケルトンソルジャーは粉になり、その場には彼? 彼女? が所持していた、所々錆の浮いた剣が残る。


「エミル、怖くないの?」


「うーん、なんだろ? あんな禍々しい雰囲気出してて、骨に筋肉ついてて、変な呻き声出してたら、誰でも怖いと思うよ。けど、倒せちゃうならあんまり怖くないよね……みたいな?」


「な〜にそれ。はぁ、なんかあたしも大丈夫な気がしてきたわ」


 左腰に左手を当てて、右手をフラフラさせるルーシィ。本当にもう恐怖はないようだ。

 俺は床に落ちた剣に歩み寄り、拾う。


「鉄製か、微妙だなぁ。まぁ、第一層なんて序盤中の序盤だし、仕方ないか」


 鉄は魔力伝導が悪い。が、贅沢も言っていられないだろう。剣を装備しているだけで、剣技スキルの補正が入るし、ナイフで戦闘するよりマシだ。


「鞘はないし、無限収納イベントリに入れると咄嗟に使えないから、やっぱり手持ちだよね」


無限収納イベントリ!? エミルそんなの持ってたの!?」


「駅の街で、食糧の買い込みした時に使ってたよ? あ、ルーシィは買い食いに夢中だったね、そういえば」


「悪かったわね!」


 というか、買った食材がどこに消えているのか、今まで疑問を持たなかったのだろうか? 案外、ルーシィってどこか抜けてるのかもしれない。


「よし、先に進もうか」


「そうね」


 それから歩く事5分。今度は2体同時に出てきた。


「今度は、あたしがやるわ」


「1人で大丈夫? 1体俺がやろうか?」


「大丈夫よ! 任せときなさい!」


 目を閉じて集中し、全身にを漲らせるルーシィ。襲いかかってくる、スケルトンソルジャー。


 剣がルーシィに届かんとしたとき、ルーシィが目を開いた。手前に来た方に掌底を叩き込み、1体目を撃沈。少し遅れてやってきた2体目には、回し蹴りをお見舞いして、通路の壁に叩きつけた。

 実に鮮やかな手並みだ。


「ルーシィって、強いんだね! ……あれ? なんでこんなに強いのに、誘拐犯に捕まってたの?」


「あぁそれは、ずっと逃げ……な、なんでもない!」


「ごめん、聞いちゃダメだった?」


「別にいいわ。で? 剣は取り替えるの?」


 床に落ちている剣に目を向けるが、今持っている剣と変わらず錆が浮いており、取り替えても余り変わらないだろう。


「性能的には変わらなそうだし、そのままでいいかなぁ。変えるとしたら、次の層に降りてからかも」


「そ。じゃあ、ガンガン進むわよ〜!」


 ルーシィもスケルトンソルジャーを倒したことで、ちゃんと倒せることに安堵したのかもしれない。

 その足取りは軽く、少し弾んでいる。さっき、お化けを見た女の子みたいに震えていた彼女は、もうどこにもいない。









 その後も、順調に進んできた俺達。あれから合計30体程遭遇したが、やはりどれも似たような剣しか持っていなかった。ちなみに、人間とは会っていない。

 そして、下層に続く階段に辿り着く。


「これが、下層に続く階段みたいだね。俺が先に進むから、付いてきて。後方の警戒をお願い」


「わかったわ!」


 一層へ降りる階段と同じく、これまた20段ほどの階段を降りきったその時、右横から剣が飛び出てきた。

 常は半径5mとはいえ、気配察知を発動している俺に、不意打ちは効かない。落ち着いてその剣を弾き、土刃で骨を打ち砕く。


「エミル!? 大丈夫?」


「うん、全然平気だよ。一層はそんなことなかったけど、二層だからかな? 骨を砕く時の感触が、すこし硬かった」


「まぁ、当然よね。下層に行くにつれて、魔物は強くなるんだから。剣はどうなの?」


「あんまり変わらないけど、若干錆が薄いから変えておこうかな」


 剣を取り替えて、先へ進む。階段脇には1体のみだったが、今度は3体一気に来た。一層には同時出現は2体までだったので、やはり難易度が少し上がっている。


「ルーシィ、やる?」


「おまかせするわ」


「じゃあ、俺がやるね。3体だと、飛斬ひざん使った方が楽だけど……土刃どじん―飛斬―!」


 やはり剣の性能が悪く、少ししか攻撃に魔力を乗せられなかった。いつもより、ずっと小さくて細い飛斬が放たれ、スケルトンソルジャーに罅を入れたが、砕くには至らない。


「もう1回、飛斬!」


 罅の入った場所を狙って、寸分違わず飛斬を打ち込み、今度は破壊することに成功した。


「やったわね!」


「だね! けど、スケルトンソルジャー3体に、飛斬2回はちょっとアレだよね。でもまぁ、それももう少し下層へ行くまでの辛抱だけど」


「それじゃあ、いっそのこと走らない?」


「そうだね、ここら辺の魔物には苦戦しないし。気配察知を広げて、予め敵を見つけておけば、接敵即斬できるから」


「決まりね!」


 軽く走り出し数分進むと、今度は4体の反応が。


「ルーシィ! 次の角を曲がったら、4体いる! 俺が右の2体を引き受けるから、ルーシィは左の2体をお願い!」


「了解よ!」


 角を曲がり、それぞれ攻撃を加える。余り減速せず、すれ違いざまに砕いて通り過ぎた。







 どんどん進み、やがて十層のボス部屋前に到着。最後の方はなんかもう、競走みたいになってた〜〜なんて言えない……。

 なんとか錆び付いていない、鉄の剣も入手できた。


「予想はしてたけど。やっぱり十層にあるんだね、ボス部屋。さて、何が出るか……っと、その前に何か食べてから行く?」


「そうね、少しお腹がすいたかも」


「じゃあ食べよっか、無限収納イベントリの中身は時間が止まるわけじゃないから、もう冷めてるけど、スープでいいよね? 火属性魔法で温められるし」


「そうね、小腹に丁度いいわ」


 無限収納袋の口を開き、駅の街の露店で購入しておいた野菜スープを取り出し、火属性魔力玉を当てて、温める。湯気の出てきた頃合で、ルーシィに渡す。


「ありがと。ふぅー、ふぅー……あつっ!」


 「ごめん、温めすぎたかな。もしかして、狐なのに猫舌?」


 「なわけないでしょ! あー、美味しいわ!」


 「顔真っ赤だよ。ほら、貸して。少し冷ますから」


 「本当は大丈夫なのよ? けど、あなたがどうしてもって言うなら、冷まさせてあげるわ!」


 「はいはい、どうもありがとうございます〜。冷まさせてください〜」


 そういったあとに、初めて会った時も、こんな風にツンデレやり取りしたなぁ……と思い出して、口元に笑みが浮かんでしまった。


 「何笑ってるのよ?」


 「いや、ルーシィって最初会った時、凄いツンツンしてたでしょ? 今はちょっと優しくなったなぁ、と」


 思えば、俺が落ち込んだ時から、少し態度が軟化した気がする。


 「何言ってるのよ? 気のせいでしょ?」


 「そうかなぁ〜?」


 「何よ、その生暖かい目はーー!」


 「それこそ、気のせいじゃ、ない?……くくっ」


 「笑うんじゃない、わよ……ぷっ」


 そうして、ボス部屋前で、束の間の穏やかな時間は過ぎる――――。





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