第8話。冒険者登録
「まず、この街でハーフエルフが、立て続けに行方不明になってるのは知ってるか?」
「はい。この街に着いてすぐ聞きました。人攫いなんじゃないかって話してましたね」
「おう、その通りだ。現在までに、男女合わせて8人の行方がわからなくなってる。城の方でも問題になってて、調査隊が組まれたんだ。んで、なんとか下手人と行方不明者の居所が掴めたんだが、問題はその建物の構造でなぁ。下手に上でドンパチやると、崩れちまって地下にいるハーフエルフが、生き埋めになるかもしれねぇ」
「ということは、警邏隊が正面突破して下手人を逮捕。その後行方不明者の保護、の王道が使えませんね。それで? 俺に何を頼みたいんですか? 」
「そう、そこだ! 正面突破出来ねぇ、なら
「使えますよ。ハーフとはいえエルフですし」
「よし。なら合流後、土魔法で地下室の壁を作りかえて、地上まで脱出してきてくれ。その間、見張りや騒ぎを聞きつけた下手人共が来たら、同行した冒険者が対処する。お前は魔法の方に集中してくれ。何か質問はあるか?」
「どうして、警邏隊管轄の事件情報を貴方が持っているんですか?」
「あぁそりゃ、警邏隊隊長が俺の弟だからな。警邏隊だけじゃ解決できない事件があったりすると、俺に相談がくるんだ。」
「なるほど。では2つ目。ハーフエルフを捉えている牢ですよね? なら魔封じの石があるのでは? 」
魔封じの石とは。
周囲のマナ・魔素を含む魔力を吸収する石のことで、その石が近くにあると、魔法を使おうとしても、魔法現象が発生する前に吸い取られてしまう為、魔法が使えなくなる。完全に魔力が溜まりきって、もう魔力を吸収しなくなった魔封じの石は、強い衝撃を与えると激しく爆発するので、戦時中は爆弾として使用された歴史を持つ、れっきとした兵器なのだ。
これがあるのとないとでは、今回の作戦成功率が全く変わってくる。もしそんなものがあったりすれば、脱出なんて飛んだ無理ゲーである。
「建物周辺のマナを観測したが、吸収されている様子はなかった。安心していいだろう。」
「そうですか。ならば問題ありません。もし、何かトラブルがあっても多少なら、俺は素手でも戦えますから」
「すまねぇな、感謝する。同行する冒険者は、できる限り高ランクのやつを付けるから。頼んだぞ」
「はい。頑張ります」
「作戦は明日昼だ。しっかり心の準備をしておけ。
さて、この話は終わりだ。次は冒険者登録だな」
「すっかり忘れてました……」
色々ありすぎて完全に忘れていた。全く、もっとしっかりせねば。
「ははは、そうなんじゃねぇかと思ってたぜ。今日のうちに登録して、明日の件は正式にお前への依頼として扱う。そこそこ危険度が高ぇから、高ランク依頼並のポイントが入るはずだ。報酬も別途で払う。ポイントが何だとかは、受付嬢にでも聞いてくれ」
「わかりました。聞いてみます。それでは……あ、さっきは仲裁してくれてありがとうございました」
「なぁに、気にするな。仕事の内だ。まぁもうないとは思うが、気をつけろよ」
「はい」
しっかりと頷いてギルマスの部屋を出て、一階のカウンターに向かう。
ホントに気をつけないとなぁ。城では皆が守ってくれていたけど、ここでは俺の身を守れるのは俺だけ。
周囲の力はアテにできない。もしかしたら、完全に1人の時に囲まれるかもしれないんだし。
常に魔力を消費するので結構維持するのがツラいけど、気配察知を常時発動してみるか。範囲を俺を中心に10m程に絞れば、ギリギリ自然回復分の魔力消費になる。意外と気配察知って魔力消費多い……。
「すみません、冒険者登録お願いします」
「あ! 君さっきの子でしょ? 大丈夫だった? 助けてあげられなくてごめんね。それじゃあ、この紙に必要事項を書いてもらいたいんだけど、文字は書ける?」
「はい、書けます」
「あら、偉いわね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
1番上の項目、名前に[エミル]とだけ記入する。
ここでスカーレットだのシルフィだの書いたら上へ下への大騒ぎになるだろう。神魔国の王子を危険には晒せないと、先程受けた依頼も取りやめになるかもしれない。学園でも身分を気にせず、誰とでも仲良くしたいし、ここでバレるわけにはいかない。
2番目の項目、得意戦闘術には剣技・体術・魔法と記入する。これで終わりのようだ。
「書きました」
「ちょっと見せてね。あら、字が綺麗ね。あなたみたいな小さな子がここまで綺麗なのは、初めて見るわ。
ってエミル君、こんなに特技あるのっ? デーミンさんを一撃で気絶寸前にしてたから、こんなに小さいのに珍しく拳闘家なのかと思ったら……そういえば剣持ってるわね。それで魔法も使えるなんて、よっぽど才能があるのね」
「あはは……ありがとうございます」
うーん、これは失敗したかもしれない。体術と魔法だけにしとくべきだったか。あんまり変わんないかもしれないけど。
「期待してるから頑張ってね。 さて、これがギルドカードよ。これに魔力を流してもらえるかしら?」
「はい。これで大丈夫でしょうか?」
「ん、OKよ。ギルドカードは、1番最初に魔力を流した人の魔力波長を覚えるの。今後、身分証明が必要になったときは、これに魔力を流して見せるといいわ。登録された持ち主ならカードが光るから。世界中、基本的にどこでも入れるわよ。
それから、魔物を倒すと倒された魔物が持っていた魔力が、周囲に拡散するでしょ? それを感知して、何が何匹倒されたのか記録してくれるの。だから討伐証明にもなるのよ」
「へぇ、凄いんですね」
白色で丈夫な材質のカードは、多少の衝撃では壊れなそうだ。右上に小さく星が3つ並んでいる。
「登録は完了よ。冒険者ギルドカイン支部へようこそエミル君。頑張ってね。ギルドの利用法や注意事項は知ってるかしら?」
「ありがとうございます。いえ、教えて下さい」
「ん、了解よ。まず、あそこの依頼ボードからクリア出来そうな依頼書を剥がしたら、受付嬢に渡して、依頼を受理。無事にクリアして、カウンターで達成報告をすると、依頼書に記載された報酬を受け取れるわ。もし、依頼に失敗すると報酬の50%が違約金として徴収されるから気をつけて。討伐依頼で魔物素材が取れたら、1番左端のカウンターで買取をやってるわ。必ず解体済みで持ってきて頂戴ね。難しいようならギルドを出て左側の解体倉庫に持っていけば、解体してもらえるわ。」
依頼ボードの前には、時間的な問題なのか人が居らず、買取カウンターの方に少し並んでいた。
解体倉庫は、これから世話になりそうだ。
「ランクについて説明するわね。上からS、A、B、C、D。ギルドカードの色ですぐにわかるようになってるの。Sランクが黒、Aが金、Bが銀、Cが銅、Dが白。それに星の数が1つで1級、2つで2級、3つで3級。Sランクだけは星がないから、合計13の階級に別れているのよ。登録したばかりのエミル君は、一番下のDランク3級ね。
ランクは依頼を何度も受けると、少しずつポイントが溜まって、昇格試験を受けられるようになるの。幾ら強くても飛び級はないわ。地道にね」
なるほど、よくできている。わかりやすい。
ただの登録に試験がないのは、学園の授業とかでも登録が必要になったりするからだろうか。
「最後に、ギルドの禁止事項を伝えるわ。
1、冒険者同士の喧嘩。
2、依頼の横取り。
3、討伐した魔物の放置。
これだけよ。これを何度も破れば、ギルドのブラックリストに載るわ。絶対にやめておいた方がいいわね。説明は以上よ。質問はあるかしら?」
「魔物の放置禁止とは? 燃やせばいいんですか?」
「そうね。スライムとかスケルトンなんかは、討伐すると水になったり、粉になったりして無害だからいいんだけど、レッドベアやスピードラビットとか、肉体がある魔物は放置されても消えないし、腐ってしまうの。そうすると異臭や疫病が発生する可能性があるから、禁止されているのよ。まぁ、基本肉がある魔物は素材になったり、美味しかったりするから、放置なんて勿体ないこと誰も考えないでしょうけど」
「わかりました。詳しくありがとうございます」
「今後、何か聞きたいことが出来たりしたら、遠慮せず私や他の受付嬢に聞いてね。」
「はい、そうします。ではまた明日」
「そうだ、ちょっと待ってエミル君。今日の宿はもう決まってるのかしら?まだなら紹介するけど」
「いいんですか? 何から何まですみません。じゃあ、ご飯が美味しくて、ベッドが柔らかい宿ってありますか?」
王族生活で肥えた舌は、すっかり美味しいもの専用になってしまっていた。ベッドも同様である。
「それなら、星の海亭がいいわね。料理もベッドも最高だって評判なの。そこにするなら、ギルドを出て左側、武器屋の角を右に曲がってすぐよ」
「左行って、武器屋を右ですね。OKです。では今度こそ、また明日……」
「えぇ。また明日待ってるわ」
随分親切な受付嬢に別れを告げ、ギルドを出る。
武器屋を右、か。ちょっと寄ってみようかな。いずれは自分で魔物を解体出来るようになりたいし、それの専用ナイフが欲しい。城を出る時に持ってきた、潤沢な資金もあるし。因みにこれは、国民の血税ではない。俺が書類仕事を始めた去年から、地道に貯め続けていたお金であり、自分で稼いだものだ。
この国のお金について説明しておこうか。
単位は[イル]1イルは1円とほぼ同じ価値で、10毎に硬貨が変わる。1イルは石貨1枚。10イルは鉄貨1枚。100イルは銅貨1枚。1,000イルは銀貨1枚。10,000イルは金貨1枚。100,000イルは白金貨1枚。それ以上大きなお金は紙幣のように手形がやり取りされる。
日本円のように5単位ではないから、支払いが9イルとかだったりすると、石貨が9枚必要。もしくは、1つ上の鉄貨が1枚必要になる。ちょっとめんどくさい。
さて、武器屋に到着したようだ。ギルドとは比べるべくもないが、なかなかの店構えをしている。頑丈そうな木戸を押して、中に入った。
「おやおや、さっき会った可愛いお兄ちゃんじゃないか。剣は持ってるようだし、解体ナイフでも買いに来たのかい?」
そこには、カインについてすぐ冒険者ギルドの場所を尋ねた時の、優しそうなおばさんが居た。
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