第2話。5歳になりました
月日は流れ。俺、エミルは5歳の誕生日を迎えた。
貴族の子が5歳になると、身分の近しい貴族や親しい貴族を集めてお披露目されるが、王族である俺の誕生式は大々的に行われ、城のバルコニーからではあるが、国民にも見せられる。
とまぁ、つまり何が言いたいかと言うと、朝からそれの準備で大忙しなのである。侍女のメリーナを筆頭にしたメイド軍団に囲まれ、着せ替え人形になったり、最初にする挨拶の暗記確認などなど……。
準備が終わった昼過ぎにはぐったりである。
ようやく紅茶と茶菓子で一休みしていると、メリーナが話しかけてきた。
「エミル様も5歳。大きくなられましたね。幼き頃から努力を積み重ねてこられ、天上におわす神もきっとお喜びでしょう」
「そう? 兄様に比べたらまだまだだよ。でも、ありがとう」
努力、か。自分なりに頑張ったつもりだけど。
4年前、1歳の時にステータスが判明してから1年は普通の子供的な生活をしていたが、2歳になった日。専属の教育係が複数付けられた。
綺麗な言葉遣い、文字、マナー、その他教養をみっちり仕込まれ……必死に覚えていった日々。前世の記憶がある分、ぐずらなかったり覚えが早かったりなど教育係をたいそう驚かせた。
そして、何より重要かつ、心を躍らせたのが魔法! そして剣術稽古!
本来、魔法と剣術は5歳以降始めるのが一般的らしいが、俺の場合賢いので大丈夫では? 早いうちに扱い方を覚えさせた方がいい。などの意見があり3歳から始めていた。
最初の魔力測定で、非常に俺の魔力量が多い事がわかって、母様やメリーナが慌てて師匠に、魔力操作を覚えさせるよう指示したり。剣術稽古でフェイントを掛けて、本当に剣を持つのが初めてか疑われたり。
さて、この世界について説明しようと思う。
前世、地球があった世界はアースガルドと呼ばれていた。そこの管理神が、俺に転生の話をしてくれたアーシュリム神だ。
そして、今俺が生きているこの世界、シュメフィール。シュメールには地球と違い、大陸が1つしかない。角の丸い三角形の形に三大国。上部に人間の住む国……ヒシュリムがあり、左下にエルフの国……アルフヘイム。右下に魔族や天族の住むセルシウス神魔国があり、その周りにドワーフの国、小人の国、獣人の国など、比較的数の少ない種族がそれぞれ国を作って存在している。
妖精や精霊はどこにでもいるし、どこにもいない。素養のある物がそこに居る。と信じ込んで目を開けば姿を現すし、居ない思えば確かに存在しない。なんとも不思議な生命体である。
それぞれ種族特性があり、人間はバランスよく苦手なものがないが、得意なものもなく、多少他種族より科学技術が進んでいる程度だろうか。しかし、特に強い者はエルフほどの魔法を使ったり、獣人のように身体能力が高かったりする。
エルフや獣人は予想していた通りで、エルフは魔法が得意だが近接戦闘力が低く、唯一弓が使える程度。
獣人はその逆で魔力がない為魔法を使えないが、身体能力が非常に高く、近接戦に強い。
ドワーフは器用で、彼らの作る武器防具は、高名な冒険者なら誰しもが欲しがる。小人も同じく器用だが力が弱く、装飾品を作ったりレースを編んだりするのが得意だ。天族はその背に生えた翼で空を舞う。天族のみが扱える聖魔法は強力な癒し効果がある。
そして、魔族。魔族は非常に色々な一族がおり、俺と同じヴァンパイアや
種族ではない生物として、動物・魔物が存在する。
種族とは意思疎通、会話のできる生き物であり、動物や魔物は、その限りではない。
動物は猫や犬、危険度の低いものから、熊や虎など危険なものまで。魔物は動物に魔力が宿って変異したものや、ダンジョンで出現する突然変異ではないものもいる。
こんなところだろうか。
そして、気になるステータスを見ていこう。
ステータスオープンと呟くと、あのウィンドウが現れる。1歳のときは、どうやらそういうスキルを持つらしい神父に開いてもらったが、喋れるようになってからは自分で開いている。
☆名前
エミル・スカーレット・シルフィ
☆
セルシウス神魔国第二王子、魔法剣士
☆種族
ヴァンパイアとエルフのハーフ、不死エルフ
(種族特性)
他種族の血を飲むことで回復。精霊魔法が使える。
長寿。不死身。
☆スキル
剣技A
弓技B
身体強化D
全属性魔法B
精霊魔法F
魔力操作A
礼儀作法A
健康EX
☆
熟練速度上昇
アースガルド神の祝福
シュメフィール神の祝福
名前は文字通り名前だ。家から勘当されたり、貴族名を剥奪されたりすると消えてしまうらしい。
俺の場合、エミルが名前で、スカーレットがセルシウス王家の名。シルフィが母、アルフヘイムエルフ国王家の名だから、もし両方から勘当されたりすればただのエミルになる。
平民は一般的に苗字を持たない。
貴族は[名前]・[貴族名]・[領地名]と並ぶ。
これは生まれや、そのまんま職業であったり、槍術士や双剣士、魔法師などその人が得意とする戦闘法で決まる。盗賊や違法奴隷商人など、1発で犯罪者とわかるような職業まである。
魔法剣士とは、剣に属性魔法を纏わせて攻撃する珍しい職業だ。
まず、剣も魔法も才能ある人が殆どいないのだとか。剣自体も魔法で作り出せるが、非常に難易度が高くまだ使えない。
種族。
ヴァンパイアは魔力が尽きない限り、限りなく不死身に近いが、不死ではない。寿命では普通に死ぬ。ただし、体の大部分を損失したとかでなければ、吸血か魔力で回復することができる。
エルフはとても寿命が長い。普通のエルフでも、1000年生きる。母様はエルフはエルフでも、ハイエルフだから、更に長い2000年だ。だが、体が脆く、人間なら辛うじて命を繋げるような重傷でもあっさり死ぬ上に、長い一生で子供を1人か2人しか産まないから、純血エルフは減る一方なのだ。
近年は人間を中心に他種族とハーフエルフを作ることでその数を維持している。
2種族の子供である俺は、不死身エルフらしい。
そもそもエルフは人間を除き他種族との子供が極端に出来にくい。
どれくらいかと言うと、人間以外の全種族との間で1人できるまでの間に、人間とのハーフが500人はできる。それを知った時、俺の誕生は神が介入したんじゃなかろうか。いやきっとそうだろうと邪推してしまった。人間とのハーフは普通にハーフエルフと表記されるが、その他はそれぞれ違うようだ。
不死身エルフの俺は、見事に2種族のいいとこ取りをしていた。ヴァンパイアの不死身性=肉体強度と身体能力をもちつつ、エルフの寿命と、魔力量、魔法適正の高さ。エルフにしか使えない精霊魔法。ほぼ最優種といってもいいのではないだろうか。
種族としては一応ヴァンパイアだが、まだ吸血したことは無い。たまにジュース感覚で王家に献上品として贈られてきた貴族の血を飲んだくらいだ。
そこそこいるヴァンパイア一族だが、スカーレット家だけ、吸血行為に特殊な意味を持つ。それはまた今度話そう。
精霊魔法についてはまだやったことがない。相当な危険が伴うようで、精霊と契約すらしていない。もっと大人になったら教えてくれるらしい。
さて。スキルについてだが。
初めて見た時はA〜Fは付いてなかったと思う。このランクは、自分でウィンドウを開かねば見ることができない。何でそうなってるのかは謎だけど。
それぞれがどのくらいの熟練度なのかわかりやすくするとこんな感じだ。
F...初心者。取得したばかり。あまり上手くない
E...初級。そこそこ上手い
D..普通。普通に上手い。
C...中級。かなり上手い。
B...上級。とても上手い。
A...特級。見たものを感動させるくらい上手い。持っている人は割といるけど、決して多くはない。
S...ほぼいない。1つのスキルで世界中探しても、片手に収まる。取得者が特に多い身体強化でも、S持ちは確か4人だった筈だ。
王族として最優先で美しい礼儀作法を覚えるのは当然として、身体強化をあまり使わずに肉体自体を鍛え、剣技や魔力操作を磨いてきた。剣技のランクは高いが、体格差や筋力のことを考えると、Cランクの大人といい勝負だろうか。
身体強化は使う魔力量によって強化具合が変化するが、元々の肉体の強さも影響する。
例えば1の肉体に2の魔力で身体強化をしても2にしかならないのに対して、2の肉体に2の強化をすると4になるのだ。
つまり、足し算ではなく掛け算なので、鍛えた方がいい。身体強化のランクが上がると、2の強化に必要な魔力が減るので、勿論身体強化スキルも鍛えたいが、それはまた
魔力操作は一番最初に覚えさせられた。
魔力量が多い俺が、これを覚えずに魔法を使おうとすると、扱いきれない魔力が暴走して大変だからだ。
この魔力操作に、属性を加えたものが属性魔法。
人間だと2属性。多くて3属性らしいが、そこはエルフの血を引く俺である。火・水・風・土の基本属性に加え、闇と光も扱えた。
ただの魔力操作で使う無属性魔力に、属性を加えると格段に威力が上がる。
スキルについては隠すに越したことはないが、知られてもあまり問題はない。しかし、恩恵は別だ。
熟練度速度上昇。スキルの熟練速度大幅上昇。
アースガルド神の祝福。スキル獲得難度低下。
シュメフィール神の祝福。スキル成長限界解除。
このセットはやばい。ホントにやばい。
アースガルド神の祝福で真剣に練習すればすぐにスキル獲得ができ、熟練度上げに必要な時間が少なくなり、シュメフィール神の祝福でS以上に成長する。
見慣れたステータス画面を確認し終え、見ながら飲んでいた紅茶に手を伸ばすと、空になっていた。気付かぬうちに飲み干してしまっていたようだ。結構時間が経っていた様だし、もういい時間かな。
「エミル様。お時間です。会場に参りましょう」
子供メインのパーティーである今回は、夕方の少し前から始まり、あまり遅くなる前に解散となる。
「そうだね。では行こうか」
前世と今世合わせても、初めてのパーティー。
緊張で逸る心を深呼吸で落ち着かせながら自室を出て、会場控え室に向かう。
控え室はワインレッドの絨毯が敷かれた、会場に直接繋がった王族専用の部屋で、最高身分の王族がタイミング良く入場する待合室のようなものだ。
少し早めに出てきたので一番乗りかと思えば兄様が居た。
「こんにちは、ユー兄様。早いですね」
「あぁ、エミル。お誕生日おめでとう。1番におめでとうを言いたくて待っていた。今年も健やかであるように願っているよ」
「ありがとうございます。ユー兄様もどうか、健やかにお過ごしください」
兄の名前がユーレオンだから、ユー兄様。初めは兄様と呼んでいたが、ユー兄様本人の希望でこうなった。
それから、頻繁に会えるわけではない兄と暫く談笑を続けていると、母様と第一妃、父様もやってきた。
「エミル、お誕生日おめでとう。少し緊張しているのかしら? 表情が硬いわ。大丈夫よ。母様がついています」
「おめでとう、エミル。少し久しぶりに会うけど元気そうで良かったわ」
「エミルも、もう5歳になったか。早いものだな……おめでとう」
「母様、リュゼ様、父様、ありがとうございます!」
今年も例年と同じようにそれぞれからおめでとうを貰う。
前世は母にしか祝ってもらえなかったからな。
兄弟はおらず、父は俺を疎んでさっさと出ていってしまっていたし。
思わず瞳が潤みそうになるのを堪えて、自分に出来る最高の笑顔を、家族に向ける。
「陛下、皆様。会場の準備が整いました。お越しくださいませ」
執事の声を聞き、背筋を伸ばす。母様に手を握られて、礼儀作法Aのスキルを遺憾無く発揮しながら、会場へ向けて歩き出した。
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