第17話 「うちの妹がごめんなさい」
「もしかして……万が一、いや億が一にありえるかもしれないから聞いてあげるわ。その人、まさかあんたの彼女だったりする?」
彼女。
その言葉を聞いた瞬間、テーブルに足をぶつけた。
俺ではなく俺の向こう側に座っているつかさが。
何故に?
「つぅぅ……」
「何してん……」
ちょい待ち。
と言いたげに手で制止をかけられる。
泣きそうな顔で足を押さえているあたり、小指をジャストミートしてしまったのかもしれない。
「…………そろそろいいですか?」
「……おけ」
「何でお前が足ぶつけてんの?」
「そこ……気になっちゃう?」
気になると言えば気になるでしょ。
今の流れでそういうことするのは、普通はお前ではなく俺のはずなんだから。
「いやまあ、その何ていうか……やっぱりお姉さんとしては、無愛想オタクで定評のあるトウヤくんに彼女が出来たかもしれないなんて話が出ると気になりまして」
だから人のスマホを覗こうとしたと。
そしたら勢い余って足をぶつけてしまったと。
お前はそう言いたいんだな。
まったく……妹が妹なら姉も姉か。
堂々と人のスマホを見ようとするんじゃない。他人への思いやりとかプライバシーを守るって意識はないのか。あとさらっと侮辱するような発言をするんじゃありません。
まあ別に見られて困る内容じゃないけど。
部長とのやりとりだったら……場合によってはアウトだな。
あの人は自撮りとかじゃなくて現物を送ってきたりするし。どういう下着が好みだとか話してるあたりを見られたら誤解しか生まれん。
「つかさも気になってるみたいだし、さっさと答えなさいよ。その美人はあんたの彼女はなの? 彼女じゃないの?」
「彼女じゃない」
「……本当でしょうね?」
何故に疑う?
何故に俺は疑われる?
「何で嘘を吐く必要がある?」
「あたし達にからかわれたり、茶化されたくないから」
あー。
「でもそうね。あんたに彼女なんて出来るわけないだろうし、嘘は吐いてないんでしょう」
「信じてくれてありがとう」
でもそういう言い方はどうかと思う。
確かに俺はイケメンではないよ。女の子に言い寄られた経験もなければ、黄色い声援を浴びたこともありませんよ。
だけど、世の中には俺のことが好きな子だって存在するかもしれないじゃん。そんな物好きな子が居るかもしれないじゃん。
だからさ、そういう言い方をするのはやめよ。単純に俺だって慣れているとはいえ、微々たるものだけど心に亀裂出来るから。
「で、彼女でもないんならその人誰なの? あんたの何?」
そういう聞き方はやめてもらっていいですか。
俺の○○みたいな答え方にされると何か特別感出ちゃうから。
西森とはそういう関係じゃありません。
「ただの友達」
「友達?」
ただの友達がそんな自撮り送ったりする?
とでも言いたげな顔だ。いやまあその気持ちは分かる。分かるけど……でも仕方がないじゃないか。だって送り主が西森なんだもの。
「追加しても同級生や同じ部活動の仲間、オタ友くらいだ」
「…………」
怪しい。
みたいな目を向けるのやめて。
俺は本当のことしか言ってないから。西森とは今言った関係以上になった覚えはないから。
「同級生の友達でオタ……それに同じ部活動……もしかして」
つかさが自撮りを送って来た美人が西森という事実に気づいたようだぞ。
よし、これなら勝てる。フタバもつかさが肯定すれば信じてくれるはずだ。
「いやでも確証が持てない。トウヤくん、私にも画面見せて」
ふむ……プライバシーの侵害やん!
お前、もっともらしいこと言ってるけど本当は見たいだけだろ。そうなんだろ。そうじゃないと足ぶつけたりしないもんな。
「お前の想像で合ってる。自分を信じろ」
「いやいや、この世に絶対とかないから。ちゃんとこの目で確かめないと私は私を信じられない」
その目で確かめたら信じる信じないの話じゃなくなるでしょ。
でも……見せるまでは引き下がらない気がする。西森を友達だってフタバに認めさせるためには、現状ではつかさの協力が不可欠。
となると……
「……あれこれ見るなよ」
必然的にスマホをつかさに渡すことになるよね。
「分かってるって……トウヤくん、差し出したんなら潔く渡そうよ。その手を放して」
「絶対に見るなよ」
「それは逆にフリでは? というか、君は私が人の嫌がることをする人間だと思ってるの? だとしたらお姉さんショックなんだけど」
つかさが他人が本気で嫌がることをする人間だとは思わない。
だがしかし……この女に茶目っ気があるのも間違えようのない事実。
故にもしかしたら……、と思ってしまうのは仕方がないこと。
みんなもそう思わない? まあ粘るのもここまでにしますけど。
「………………………」
……どんだけ見てんの。
つかさの指の動きを見る限り、最新のやりとりしか見ていない。
つまりつかさが得ている情報は、西森が送ってきたいくつかの自撮りと文章のみのはず。
またつかさが俺のスマホを見ているのは、やりとりをしていたのが西森だということを確認するため。
だからこそ思う。
そんな食い入るように見る必要ある?
お前はいったい何を考えてんの?
「おい」
「……」
「つかさ」
「…………」
「つかささーん」
「………………」
ねぇ、お前のバカ姉がフリーズしたんだけど。直してくんない?
そうフタバさんに視線でお願いしたみたけど、プイっと顔を逸らされました。どことなく表情が面倒臭そうでした。
妹からも見放される姉ってどうなんだろうね。
ま、てめぇらの問題はてめぇらで解決しろ。そこにあたしを巻き込むな。
フタバさんの本音としてはこんな感じだろうけど。
「バカつかさ」
「……」
「おいこら、聞こえてんだろ」
「…………」
「こっち向けや片耳ピアス!」
いつまで人のスマホ見つめてんの?
それは俺の。俺のスマホなの。お前は西森を知ってんだからそのやりとり見ても何も思わないでしょ。いつも通りだって思うでしょ。いい加減スマホ返しなさい。
「へ……ちょ、トウ――っ!?」
……盛大にイスから落ちやがった。
何で落ちたのかは分からんけど。でも俺のスマホを守るようにして落ちたのだけは褒めてやろう。
「いつつ……」
「マジで何やってんのお前?」
「何って……君が急に人の顔を掴んで顔を寄せてくるからでしょ」
確かにつかさの顔は掴んだけど……こっちの顔を寄せた覚えはないな。
「というか、こういう時って優しく手を差し出して助けるのが男の子のやることじゃないのかな? まったく、これだからトウヤくんは……」
この姉妹って貶すって決めるととことん貶してくるよね。
確かに俺も悪かったのかもしれないよ。でもさ、元を辿ればつかさが悪いと思うんだ。こっちは何度も声を掛けたわけだし。
「……シノンさんとの距離感に慣れちゃって、普通の女の子との距離感忘れてるんじゃないの」
「……普通? お前が?」
どこが?
オタク云々を抜いて考えたとしてもお前がこれまでに俺の前でやってきたことは、普通の女の子なら絶対にやらないことばかりだよ。
「それ……どういう意味かな?」
ここで睨むってことは、言葉にしなくても理解出来てるってことだろ。
わざわざ言葉にしろだとかお前ってドMだったの? 言葉責めで興奮覚えちゃうタイプだったりするの?
「そういう意味だ。というか、いい加減俺のスマホ返せ」
「君はほんと失礼だな!」
痛いよ!
素直に返してくれるのは良いけど当たり前だけど。でもスマホは機械だよ固いんだよ。勢い良く手の平に叩きつけられたら痛いでしょうが。叩きつけられる方の気持ちも考えなさい。
「ねぇバカ」
「なにフタバ……って実の姉に向かってバカ? 面と向かってバカとか言っちゃう?」
「いやバカじゃん」
「……トウヤくんのせいでうちの妹まで口が悪く」
いや、お前の妹は俺に出会う前から口が悪かったと思うよ。
だって俺、今日に至るまでに散々悪口だとか言われてきたし。それに比べたらバカなんて些細な言葉じゃん。実際お前ってバカなところあるし。
だから恨めしそうな顔でこっち見んな。
「……まあいいや。で、フタバは私に何を聞きたいの?」
「あの美人がそいつにとって友達なのかどうか」
「あぁ……うん、友達だよ。登校してから下校するまで……最近は放課後や休日も一緒に過ごすことの多いただの友達」
おいこら片耳ピアス、何だその悪意のある言い方は。
言っていることは間違いないけど。でもそれだとただの友達って言葉が嘘のように聞こえるでしょ。友達以上の関係のように思われるでしょ!
「ふーん……ねぇメガネ」
「友達です。何と言われても友達としか言いません」
「あたしの質問に素直に答えたらあんたの言い分を信じてあげる」
マジで!?
どうしたのフタバさん?
熱でもあるの?お
腹でも痛いの?
いや何でも良い。今日のフタバさんマジ天使!
「さっきつかさがシノンだとか言ってたと思うけど……その人って西森シノンっていうガチオタなハーフの人?」
「そうだが……」
何でお前知ってんの?
もしかして接点あるとか? ゲーム仲間だったりする?
それともあいつのガチオタク度はお前の中学にまで広まってたりすんの?
「なるほど……どおりで」
ひとりで納得するフタバの視線が俺からずれていく。
それを追うとした矢先、ガシッと胸倉を掴まれた。
あの~フタバさん、あなたに何かしましたっけ?
「ねぇ」
「何でしょう?」
「あんた、実際のとこシノンさんって人のことどう思ってんの?」
実際も何もただの友達ってさっき言った……あぁこの顔はあれだ。
アニメでもよく見かける人の恋路が気になっちゃってる時の女の子の顔だわ。
つまりフタバさんは俺と恋バナをしたいんだね。
「どう、とは?」
「言わなくても分かってんでしょ。そういう意味よ」
「そうか、そういう意味か……」
マジで恋バナする流れなんだ。
フタバさんとそういう話なんて無理!
恥ずかしくて死んじゃう!
なんてことは思わないけど……胸倉を掴まれた状態で話すことではないって思うんだよな。
まあフタバさんがある程度満足するまで、少なくとも今の問いに答えるまではこのままだとも思うけど。
というわけで、ちゃっちゃと答えちゃいましょう。
「残念ながらお前が思ってるよう」
「いやいや、そんなわけないでしょ」
せめて最後まで言わせてくんないかな。
「金髪碧眼の美人でおっぱい大きくて背も高くてオタク。そんで前に耳にした話が嘘じゃないならこの人とても気さくな性格してるんでしょ? あんたみたいな奴からすれば理想じゃない」
「いやまあ……」
それはそうなのかもしれないけど。
でもお前はあいつの推しの押しの強さを知らないから。オタクとしてのガチ度を知らないからそんなことが言えると思うんだ。
「何よその煮え切らない態度は。普段あれだけ人の心に刺さるようなこと言ってんのにこういう時はチキンなわけ?」
「お前ほど人の心に刺さりそうなことは言ってな」
「うっさい! 今はあたしが話してんの。あんたは聞かれたことを素直に答える」
恋バナでテンション上がってんのかな。
今のフタバさん、これまでの中で最も暴君。聞かれたことだけに答えるってそれはもう会話じゃなくて尋問では?
「あんた、すでにこの人と仲良いんでしょ?」
「まあそれなりに」
「この人のことまったく女の子として見てないわけ?」
「まったく見ていないということはないが……」
あっちからは面と向かって男として見ていないって言われてるからなぁ。
何かあれば責任を取って彼女になるみたいな発言もされてるけど。
今度家に来いとか言われてるけど……。
「なら攻めなさいよ。あんただって彼女欲しいとか思うでしょ? いないよりはいる方が楽しいって思うでしょ」
「それは……まあ」
そう思うけど。
それ以上にフタバさん、顔が近いんですが。そんな近づかなくてもちゃんと話は聞いてます聞こえてます。
「認めたわね。じゃあ今度この人をデートに誘いなさい」
「本人の言葉を信じるならデートは頻繁にしているのですが」
「は? どゆこと?」
困惑するフタバさんに最近の西森との絡みを説明する。
「…………何でそれで付き合ってないのよッ‼」
フタバさん大爆発。
「何なのそのイチャコラ。話を聞いただけでもリア充してんな。目の前でやられたらバカップルかって思うんですけど!」
「そうか。でも俺達には互いに友人より上の感情はないんだよな」
「何でよ!」
「あっちからは何度も俺のことは男として見てないってはっきりと言われてる」
「え、そうなの?」
そうなの。
ボーイフレンドにしてあげる、みたいな発言もされてるけど、これは言わないでおく。言ったら話がこじれそうだし。フタバさんの頭の中が余計にパニックになるだろうから。
断じて自分の保険に走っているわけではないぞ。本当なんだからね!
「あーでも、それが本当ならあんたの妙にやる気のなさにも納得だわ。あんたの立場で考えると……あんたはあんたで苦労してそうね」
フタバさん……マジ天使じゃね?
口は悪いけど、自分勝手に話を進めたりするけど、でもこの理解力。きっとフタバんは良い彼女かつお嫁さんになるね。男の方は尻に敷かれるだろうけど。
「でも、まあ頑張りなさいよ。あたしは実際に会ったことはないけど、話を聞く限り割とあんたとお似合いだと思うし。あんたが本気ならあたしも相談くらい乗ってあげ……」
不意にフタバが言葉を紡ぐのをやめる。
その理由は単純だ。話している途中で腕を掴まれ、俺から距離を取らされたから。この状況でそれができるのはひとりしかいない。
「もういいんじゃないかな?」
いつもより低く、冷たい声。
この響きは、かつてフタバがこの家に通う俺にあまりにも暴言を吐いた時に一度聞いた覚えがある。
ただそれとは少し違うようにも思えるが……
「何がよ?」
「何がって……トウヤくん困ってるじゃん。フタバがそういうのに興味を持つのも分かるけど、自分の言葉ばかりぶつけるのはどうなのかな」
「別に自分の言葉ばかりぶつけてないし」
「いやぶつけてるから。さっきまでのやりとりは会話じゃない。フタバがそう思っていても周りにはそう聞こえない」
つかさが言っていることは正しく、姉としての行動としても正しいと言える。
ただフタバに今日のようにあれこれ言われることはこれまでにもあった。俺が今日フタバに抱いた感情は、それを比べる強いものもある。が、強いといってもさほど変わるわけでもない。
つかさは俺のために動いているだろうし、フタバからすればいつものやりとりだと思っているはず。それだけにどちらかと擁護するのも難しく、今にもケンカが始まりそうなだけにとても居心地が悪くなってしまう。
「こういうときでもあんたは‥…あんたがそんなんだから……」
「…………」
「……分かったわよ。あたしが言い過ぎてた。悪かったわよ。これでいいんでしょ? 痛いから腕放して」
放して、と言いつつフタバはつかさが力を緩める前に半ば強引につかさの腕を振り払った。
女同士のケンカは怖いと聞くが確かにそうなのかもしれない。
出来ればこの姉妹のマジなケンカにだけは巻き込まれたくないものだ。
「謝るのは私にじゃなくてトウヤくんにでしょ」
「ち……はいはい」
舌打ちに気のない返事。
これはフタバさん、かなり不機嫌になってますね。逆ギレしないあたり理性ではつかさの言っていることが正しいと分かっているんだろうけど。
「……一度しか言わないからちゃんと聞いときなさいよ」
そういう前置きされると別の言葉を言われるように思うんですが。
これって俺だけかな? 俺がオタク脳過ぎるだけ?
でも分かってくれる人はいると思う。俺はそう信じてる!
「悪かったわね。あれこれ言っちゃって……ごめんなさい」
ちょっと恥ずかしそうに俯きながらの謝罪。
気の強い女子からされるとギャップ萌えですな。これはフタバさんの武器ですよ。
自覚して使われるとあざとくなるからフタバさんにはこのままで居て欲しい。
それでたまに心を抉るようなことを言われるかもしれないけど、裏表のないフタバさんの方が話してるこっちも楽だし。
「そのお詫びといっては何だけど……うちのバカ姉をあんたにあげるわ!」
……はい?
「へ? いやいやいやフタバ、フタバちゃん、ななな何でそういう話になるのかな? お姉ちゃんそんな話聞いてないというか予想外過ぎるんだけど!」
つかさの奴、目に見えて動揺してるな。
まあ今の流れからこうなるなんて普通は思わないから分からんでもないが。
何で俺は落ち着いてるのかって?
それはほら、人間って自分よりもパニックな人を見ると冷静になるじゃん。
それに俺って突拍子もない発言する人に囲まれてるじゃない。
だから普通の人よりも耐性があるのよ。そのへんが俺とつかさの反応の差に現れてるんだと思う。
「何でって……あたしは常々思っていたのよ。そいつと西森シノンさん、確かにお似合いだわ。でもうちのバカ姉との組み合わせも悪くないって」
そうなの?
いやまあなんだかんだ親しくしてる方だとは思うよ。距離感も西森とかと比べると健全というか普通だし。
でも……フタバさんがそういう風に思うのって単純に俺とつかさが居るのもよく見てたからでは?
俺も他の男子と話してる時とかクラスメイト達と遊びに行ってる時のことは良く知らないし、そのへんを見ると考えは変わるのでは?
「あのフタバさん」
「何よメガネ、うちのバカ姉は不服だって言いたいの?」
「いやそういうことは言わないが」
「なら良いじゃない」
いや良くもないよ。
あなたのバカ姉に不服な部分はあるから。それ以上にこういうのってお互いの気持ちが大切だと思うの。
周りが手助けが必要な時もあるとは思うけど、ちょっとフタバさんはやりすぎというか強引過ぎないかな。
「だって考えてもみなさい。あんたはうちのバカ姉の醜態を散々見てきた。それでも、いやそれなのにその場で呆れたりはしてもなんだかんだ一緒に過ごしてる」
同じクラス、同じ部活でゲーム仲間だからね。
一緒に過ごすの定義にもよるけど、その条件が揃っていれば一緒に居ることが多いのも当然では。
それにあなたの姉の醜態を何度も見ても態度が変わらないのは、他の男子ほど『月島つかさ』という人間に憧れや希望を抱いていないだけ。
出会ったばかりの頃も『同級生』くらいにしか思ってなかったから幻滅する幅が小さかっただけだと思う。周りの人間ほど恋人が欲しいだとか思ってなかったし、今でもそんなに欲しいと思ってないし。
「それでいてうちのバカ姉と同じくらいオタクで、互いの家に行く仲なのよ。うちのバカ姉にとってあんたほどの好条件が存在してる? してないわよね!」
「いやそこは存在してる可能性も」
「何より! あんたにうちのバカ姉を押し付けることが出来れば、あたしが楽を出来る。うちのバカ姉をを朝起こさなくて済むし、部屋の掃除だって任せられる。もしかしたらうちのバカ姉に女としての自覚が芽生えて、今より多少は身の回りのことをするようになるかもしれないわ!」
あ、ついに本性を現しやがった。
他人のことを考えているフリをしていたくせに結局は自分のことかよ。現状のフタバさんの状況には多少なりとも同情はするけど。
「あたしは今よりも楽な環境を手に入れる。あんたは人生初の彼女が出来る。どうよ、悪くない話でしょ?」
「いや悪いだろ」
「は? どこがよ」
「得してるのがそっちだけな点だよ」
つかさの成長がない場合、俺はただフタバが面倒臭いと思ってることを押し付けられるだけじゃん。
「そっちだって得はしてるでしょ。彼女が出来んのよ彼女が。見た目だけは満点な」
「その言い方は見た目以外ダメだって言ってるようなものだろ」
「あんたのことを将来兄と呼ばなくいけなくなるかも、と考えると癪だけど。でもそれにも耐えてみせるわ。というわけで、うちのバカ姉を頼んだわよ」
勝手に話を終わらせないでくれ!
おいつかさ、お前も何か言ってくれ。この流れはお前にとっても良いものじゃないだろ。
「へ? あ……ぅ……」
顔を逸らすな、何かしゃべれ!
予想外の展開で戸惑うのは分かるよ。お前が割とポンコツなのも知ってるよ。でも今日はいくら何でもポンコツ過ぎないかな。
「そういやあんたってロボットものとか好きだったわよね?」
「まあ好きではあるけど。ただ今の話が終わったみたいに話を進めるのは待ってもらっていいですか?」
「却下。あたしの中ではもう終わったから。話の続きだけど、ちょっと前に今やってる映画の割引券もらったのよ。自分で使ってもいいんだけど、映画の内容に掛けてるのか男女ペアでしか使えないのよね」
何度かフタバさんのこと天使だとか言ったけど、やっぱり訂正。
今日のフタバさん、マジ暴君。
「だからあんたにあげるわ。ただ今は料理の続きしなくちゃだし、そのあとは対戦しないとだから……後日つかさに持たせてあんたに渡すようにするわ」
きっぱり言い切ったフタバさんは、颯爽とキッチンへ戻って行った。
フタバがどうこう言おうと。結局のところ大切なのは俺とつかさの気持ち。だから今のやりとりでどうこうなるというわけではない。
が、高校生という年代は微妙な時期だ。
誰かに何か言われると変に意識してしまうということもあるわけで。
つかさとふたりっきりにされると、微妙な緊張感と気まずさを覚えてしまう。つかさがポンコツな状態のままだったらどうしよう……
「…………」
「…………」
「………………」
「……えっと……うちの妹がごめんなさい」
「そんなに気にしてない。だから……そっちも気にするなよ」
「……うん……ありがと」
ちょっとフタバさん、この空気どうしてくれんの!
今すぐどうにかして欲しいんだけど。
もう帰ってもいいですか。というか、帰らせてください!
なんて心の中で叫んでも現実は変わらない。
後々のことを考えるとここで帰れる勇気も度胸もないわけで。
俺、どうにかこの空気に耐えながら今日という日を生き抜きたいと思う。
フタバさん、早くこの場に帰ってきて!
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