第16話 「その写真の美人は誰?」

「…………で?」


 で? と言われてもねぇ。

 え、今の状況が分からん?

 ならば説明してやろう。

 つかさが短パン履いて戻ってきた。それまでフタバをボコボコにしてた。

 現在、テーブルを挟む形でつかさと向き合ってる。

 つかさは肩肘を付いてムスッと顔。

 フタバさんは俺の隣に座って牛乳をチビチビ補給中。

 はたから見れば、付き合ってる彼女の妹と浮気。それが彼女にバレて修羅場……なんて感じに見えるかも。

 まあ雰囲気だけの話だけど。現実はつかさと付き合ってもいないし、フタバとしてたことなんてゲームだし。


「何でトウヤくんがここに居るのかな?」

「お前の妹に呼ばれたからですが?」


 故に俺に不機嫌な顔を向けるのは間違っていると思います。

 というか、何でこいつ今日はこんなに不機嫌なの?

 ただラフな格好見られただけじゃん。ま、パンツも見ちゃってるけど。

 でもそれは下に何も履かず、無防備に背伸びとかしちゃうつかささんが悪いよね。


「……って言ってるけど?」

「事実よ」


 不機嫌そうな姉に対して平然とした顔で言い切る妹かっけぇ。

 でもその態度に姉がイラっとしたようだぞ。

 学校ではこんな顔をしたのを見たことがない。まあ身内相手なんだから別を顔を見せるのも当たり前だろうけど。


「私、トウヤくんが来るって聞いてないんだけど」

「そりゃあそうでしょうね。あんたに言った覚えないし。というか……わざわざ言う必要があるわけ?」


 フタバさん、何でそんなにケンカ腰で返しちゃうの?

 まああなたはつかさの妹だし、能力的につかさの汚部屋掃除とかもしてるんでしょう。故に俺の知らない苦労があるでしょうよ。

 でもさ、やっぱり平和が1番だと思うんだ。

 だからさ、わざわざ場の空気を悪くするような言い方をしなくても……


「今日のこいつはあたしの客。あんたじゃなくてあたしのなの」


 おーい、二回目客って言葉を忘れてるぞ。客って言葉を忘れないで客って言葉を。

 何故かって?

 だって今のだけ聞くと俺が浮気してた彼氏っぽくなるじゃん。

 それ以上に女の子に自分のって言われるとドキッとしちゃうじゃん。

 ちなみにどこぞの金髪ハーフやメカクレ女子みたいにバカな言動が多い相手は別だぞ。あの連中の場合、別の意味でドキッとすることの方が多いから。


「それは……そうかもしれないけど。私にも準備ってものが」

「は? あんた、こいつに散々普通の女子なら悶え死にそうなだらしない恰好見られてきてんじゃん」


 それな。


「なのに今更何言ってんの?」

「う……」


 ダメだ。

 つかさじゃフタバも攻撃力……いや口撃力に勝てない。

 ダメな姉を見て育った妹は強いぜ。


「つうか準備がどうのって言うならもっとマシな格好に着替えなさいよ。ただ下を履いてきただけじゃない」

「……だってここ家だし」


 カッチリとした恰好はしたくない!

 ラフな格好で居たいんじゃ! 家なんだからリラックスしたいんじゃ!

 と、つかささんは言いたいようです。

 その気持ちは分かる。

 誰だって家ではのんびりしたいから。疲れない格好で過ごしたいから。

 でもその考えを貫くなら、さっきのことで怒るのは筋違いだよね。


「はあ……何であたしの姉はこんな風に育っちゃったのかしら」

「長女ってことで甘やかされて育てられたからでは?」

「トウヤくん」


 君はどっちの味方なの?

 と言いたげな顔をされております。

 そんなの……フタバの味方に決まってんじゃん。

 だってつかさの味方をする理由はないし、マジでこいつが不機嫌になってた理由が分からんから。文句があるなら日頃の自分を見直せ。


「おぅおぅ、妹の前だってのに見つめ合っちゃって」

「あなたの姉からガン飛ばされてるだけですが?」

「あたしはご飯作るからそいつの相手は任せた」


 茶化された挙句、強引に押し付けられたッ!?

 この妹、どこの王様だよ。

 言動だけ見ればつかさよりこいつの方が我が侭。甘やかされて育った典型だよ。


「あ、ご飯食べたら再戦だから。次こそあんたのことボコボコにボコす!」


 え~まだやんの?

 さっきまで散々やったじゃん。全部俺の勝利だったじゃん。

 その挫けない心は尊敬するけど、もっと腕を磨いてからの方が良くない?

 というか、やるにしてもキャラくらい変えさせて。

 さっきまでの条件でエンドレスだと、俺が良心の呵責と代り映えしない展開に精神的にコフッ!? っちゃうから。


「また私の妹を泣かせるんだ」

「人聞きの悪いことを言うな。あいつが泣かされに来てるだけだ」

「どうだか。トウヤくんって女の子に対して鬼畜なところあるし」


 鬼畜?

 俺が?

 いやどこが?

 自分で言うのもなんだけど、俺って人畜無害な方だと思うよ。鬼畜なら絶対スキンシップの激しいあのふたりに手を出してるだろうし。

 年頃の性欲に負けない鋼の理性を持っている俺に対して鬼畜とか的外れもいいところだよね。


「妹に口ケンカ負けたからって俺に八つ当たりするな」

「八つ当たりとか失礼な。トウヤくんって実際鬼畜だから。高校の受験勉強でどれだけ私が精神的に追い込まれたことか……」


 それは真面目に授業を受けていなかったから起こった話では?

 俺はあなたの高校受験をお手伝いしただけなんですけど。

 あなたが無事に高校に入学できたのは俺のおかげと言っても過言じゃないと思うんですけど。

 なのにその恩人に向かって鬼畜ですかそうですか。


「そうかそうか、なら今後お前のテスト関連の世話は一切しない」

「おい」

「何だよ」

「そんなことされたら赤点取る可能性が上がっちゃうんだけど。君は私が後輩になっても良い。そう言いたいのかな?」


 何で訳の分からん脅しを掛けられるのかな?


「お前の留年が俺の人生に関係あるとでも? どうぞ後輩になってください」

「鬼、悪魔、おっぱい星人!」


 鬼と悪魔におっぱい星人を並べるな。

 世の中に居るおっぱい星人に失礼だろ。というか、ヒロインのおっぱいに関して感想の述べるお前もなかなかなおっぱい星人だろ。なのに俺だけを責めるとかお前何様だよ。


「私が留年したら私の顔を簡単に見れなくなるんだよ。それでもいいの?」

「その言い方だとまるで俺はお前の顔をよく見てるように聞こえるんですが?」

「その言い方だとまるで君が私の顔を全然見てないように聞こえるんだけど?」


 質問に質問で返した俺が言えることじゃないかもしれないけど、質問に質問で返すとやめてもらっていいですか。

 何より事実無根な発言やめてください。

 俺にはあなたを頻繁に見ている記憶はありません。

顔を見て話しているのなんて登校中か部活の時くらいだし。教室での会話とかほぼないようなものだし。


「……留年したくないなら真面目に授業を受けなさい」

「真面目に授業を受けても分からないものは分からないんだよ」

「教師が教えて分からないなら俺が教えても分からんだろ」

「そこはほら、人間的な相性というか教え方の相性ってあるじゃん」

「それはまあそうだが……お前、クラスどこか学年単位での人気者だろ。俺よりも秀才達に頼ればいいんじゃないか?」

「トウヤくん、秀才というのは私からすれば天才なんだよ。天才の言葉を私が理解できるとでも?」


 キリッとした顔で自分はバカですって言われても何も響かないんですが。 


「何より……私にも世間体というものがある。人気者であるが故の世間体というものがね。ぼっちの……シノンさんとイチャコラしているだけのトウヤくんには分からないだろうけど」


 ねぇケンカ売ってる? ケンカ売ってるよね?

 あなたからすれば俺はぼっちに見えるでしょうよ。人気者って発言が嫌味に聞こえたのかもしれませんよ。

 だからまあそこまでは許容しようじゃないの。

 でもさ、わざわざ西森を出す必要はないんじゃないかな。俺は別にあいつとイチャコラとかしてないから。俺から絡んでることとかほとんどないから。


「俺達がリア充のように見えて妬ましいんなら彼氏作ればいいのでは? よく告白されてるわけだし」

「それは無理な相談だね」

「何故に?」

「私は好きでもない相手と付き合いたいとは思わない」

「試しに付き合ってみれば変わることもあるんじゃないか?」

「それはそうかもしれないけど、好きって感情がないのに付き合ってもすぐに別れる気がするんだよね」


 まあ確かに。

 つかさって興味がないことは疎かにしがちだしな。

 だから部屋が汚くなるわけだし。


「だからお試しで付き合うって行為をしちゃうと、気が付けば私は男をとっかえひっかえしてるビッチという認定になりそうでよろしくない」

「そうか。なら俺に対して妬ましいって感情を抱くのはやめろ」

「え、やだ」


 この野郎……


「いやいや、考えてもみてよ。たとえ付き合ってないとしても目の前でイチャコラされたら嫌じゃん。何か邪魔してるようでその場に居づらくなるし」

「部活中はともかく、教室ではお前の目の前には俺達はいないと思うが」

「確かに教室では目の前とは言えない。でも私とトウヤくんの席の関係上、トウヤくん達のイチャコラは視界の隅にばっちり映ってる。シノンさんの存在感によって嫌でも情報が入ってくる。だから目の前でやられてるのと変わらない」


 それはもう俺にどうにか出来ることじゃないのでは?

 解決策なんて西森に西森シノンをやめろと言うしかないわけだし。

 え、俺が西森のクラスに行けば解決?

 いやいや、そしたら西森のクラスで俺らが付き合ってるんじゃね? って話が出てきそうじゃん。すでに出ている可能性もあるわけじゃん。外堀が埋まるような展開になるくらいならつかさの愚痴を聞く方がマシです。


「ならテスト勉強は西森に見てもらえ。そうすれば全ての問題が解決するだろ」

「え、シノンさんに……いや……でも」

「その微妙な表情を浮かべる心境は理解できなくもない」


 だってあいつの口から出てくる言葉なんて二次元に関することばかりだし。

 最近は特におっぱいおっぱいと男子以上に思春期真っただ中の発言しているし。


「だが……あいつは勉強ができる」

「冗談だよね?」

「いや冗談じゃない。考えてもみろ。あいつが小テストを落としたという話を聞いたことがあるか? 再テストで昼休みや放課後遅れてきたことがあったか?」

「えっと……私は部活以外でそんなにシノンさんとは絡んでないし」


 もっともらしいこと言ってるけど、認めたくない! と言いたげな顔をしてんな。

 まあ自分より趣味に生きてるような奴が頭良い、なんて思いたくない気持ちは分かるけど。

 でも……現実は厳しいものなんだよな。


「俺は何度か小テストがあるから自分の教室に帰れと言ったことがある。だがその度に笑顔で分かりやすく教えてもらった。そのときあいつは……」


 え、だって再テストとかで時間取られたらオタ活に支障が出るじゃん。

 それにボクはオタトークをするために学校に来ている。でもオタトークが出来るのは休み時間だけだ。

 休み時間を早く迎えるためにはどうすればいいか。

 それは……授業を真面目に受けること。目の前のことに集中することなんだよ。

 集中して授業を受けていればテストで困ることなんてない。


「こんな風に言っていた」


 は? 何それ同じ人間とは思えないんだけど。

 とでも言いたげな顔をつかささんはしている。まあ今のを鵜呑みにしちゃうと、つかさからすれば西森は天才に等しくなるもんね。そりゃあこんな顔しますわ。


「認めたくはないだろうが、あいつは勉強ができるオタクだ。いや聞いたところによると、勉強だけでなく運動も料理も出来るらしい。つまりあいつは、女子高生として高いステータスを持っている超人オタク。というか、教師側から見た場合、あいつはただの優等生でしかない」

「いやいやいや、そんなわけが……わ、私よりディープなオタクであるシノンさんが優等生とか……ありえない。というか、認めたくない」


 オタクとしても負け、女子としての能力のほとんども確実に劣っている。

 その現実がつかさには重くのしかかっているようだ。


「それに何だろう……シノンさんに『え、つかさちゃん赤点取ったの? 調子でも悪かったのかな。追試で合格できるか不安ならボクが勉強見てあげよっか?』とか言われるかもって考えるだけで何か癪に障る。悪気はないんだろうけど……何か気に入らない」


 お前、あいつのこと嫌いなの?

 それとも俺が知らないところで何かあったの?

 まあ時折ぶつかってる感じなのは見たことあるけど。主にオタクとしての価値観の違いとかで。

 冷静に分析すると、つかさは最低限女の子として守るべきラインを弁えてる。

 しかし、西森はそのへんのことを考えられるくせに平然と踏み抜いて言動に出しちゃう。

 故につかさからすれば癪に障ることもあるのかもしれない。

 だがこれを機につかさが少しでも真面目に授業を受けてくれれば。

 西森に張り合おうという気持ちでもいいから頑張ってくれれば、きっと俺に掛かる負担は減るはず。

 俺の輝かしい高校生ライフのためにもそうなってくれることを願いたい。

 それはそうと…目の前で突っ伏されると変形したお胸に目が行っちゃうな。

 西森みたいなダイナマイトな迫力はないけど、つかさの胸も十分に巨乳。おっぱい星人の俺には十分刺激的。

 この刺激にどうにか耐える己の理性をマジで褒めたい。下半身の粗相を犯さない自分を超褒めたい。


「……トウヤくん、私決めたよ。テスト勉強においてシノンさんには頼らない」

「そうか。それはつまり」

「うん、トウヤくんだけを頼ることにする」

「おい」


 そこはまず自分の力で頑張るところだぞ。

 そう続けたかったが、このタイミングでスマホが振動。

 怠惰な決意をするつかさを更生させるべきなので確認するのは後回しにしたい。

 が、嫌な予感する。こういうときの予感は、経験上よく当たっている気がしてならない。

 なので送り主だけは確認しておきましょう。


「…………」


 ふ……何となく分かっていたさ。

 こういうタイミングでメッセージを飛ばす奴なんて限られているし。今しがた話題に名前も出していたからな。

 みんなもここまで言えば分かるだろう。

 そう、メッセージを送って来たのは西森さんだ。

 西森からは、事前にどこかに遊びに行こうといった誘いを受けていない。

 なので普通に考えれば


『今暇してるなら一緒にゲームでもどうかな?』


 といったお誘いだろう。

 ただ……ラノベ制作に関する内容だった場合、必然的に部長も絡んでいるので返事が遅れると後々面倒になるかもしれない。

 そうでないにしても前もって返事しておくのとおかないのとでは、絡んでくる西森のテンションも変わってくる。

 多分だけど夕方まではフタバさんが俺のことを解放してくれない。

 なら現状で打てる最善は、内容を確認して素早く返事をする。それしかない。

 よし、そうと決まれば即行動。えっと、何々……


『やあトウヤ、今日はいかがお過ごしかな?』

『突然だけどボクは今とある悩みを抱えている』

『だから君にはその解決の手助けをしてほしい』


 悩み? 何でも自分で決めれそうなあいつが?

 もしかしてフィギュアに関することじゃないだろうな。

 前に俺の部屋に持ってくるだの言っていたし。そんなんだったら即行で拒否って……何か送ってきたぞ。


『イェイ♡』


 送らせてきたものは、そんな感じにポージングしている西森の自撮り。

 帽子にノースリーブにショートパンツ。髪をポニテにして活発さな雰囲気を印象付けるボーイッシュスタイル。表情は可愛げであざとくウインクまでしている。


『このボクと』

『こっちのボクは』


 またもや自撮り。

 ただ服装は変わっていて、白い帽子に水色のワンピース。髪型もハーフサイドアップ。これは俗にいうお嬢様結びのことだ。

 先ほどの自撮りと違って窓を開けている状態で撮ったのか、はたまたこちらは偶然風が吹いたのか、金色の髪とワンピースがなびいている。

 表情にもあざとさはなく自然的で、目の前に居るつかさと比較しても一般的にはこちらがザ・お嬢様と言われるだろう。


『どっちが君の好みかな?』


 ふむふむ、なるほどなるほど。

 何で俺は恋人でもない同級生に自撮りを一方的に送られ、こんな質問をされているんだろう。

 誰かとデートするから男から見た意見が欲しい。

 俺に好意を抱いているから俺の好みを知りたい。

 みたいな話なら分かるんだけど。

 もしかしてラノベ制作に関連してる?

 部長にデートにはどんな服装で行くのか聞かれてて、その流れで俺に俺の好みを聞いているのかな?

 そういうことならこの状況にも納得なんだけど。


「でも……」


 西森だしなぁ……

 そんな理由がなくてもこの手の質問や自撮りを送ってきそうではある。

 こいつが俺に気がないのは明言してるから知ってるけど。

 だけどこういうことされるとさ、思春期の男子高校生としてはあれこれ考えそうになるよね。なので素直に言おう。やめて欲しい。

 つうかどう返そうっかな。

 茶化すための材料が欲しくて聞いているというよりは、単純に好みを知りたいだけだろうし。

 なら素直に俺の好みを答えても……

 いや待て、学校行事の中には私服でもOKなものがあったりもする。そのときに


『トウヤが前に好きだって言ってたからこういう感じにしてみたんだ。どう似合ってる? 今日のボクは可愛いかな?』


 なんて発言を周囲に聞こえるボリュームで言われたらやばくね?

 そういうときまでに西森との関係が変わっていたなら恥ずかしさはあれど、言われても仕方がないと思えるだけに問題はない。

 けど、今のところ進展するとも思えない。

 普段のやりとりが変わる気はしないし、そこが変わらないのなら関係性にも変化は起こらないだろうから。

 普通に今のままオタ友ともして高校生活を送りそう。

 ……じゃなくて返事を考えないとな。すでに既読になってるから見てみぬふりはトラブルの元だし。


「え、マジ……めっちゃ美人なんですけど」


 すぐ近くで声がしたので意識を向けると、すぐ傍に綺麗な顔がありました。

 ねぇフタバさん、距離感近くない?

 まあそれくらい俺に心を開いてくれているのかもしれないけど。

 でもね……人のスマホを堂々と覗き込みのは良くないんじゃないかな。


「そこまで堂々とされると言う気力も失せるけど、一応言っとく。他人のスマホを除くのはプライバシーの侵害だぞ」

「失礼ね。あたしはあんたの分のお昼ご飯がいるのかどうか確認しに来ただけよ。そしたら偶々見えただけ」


 傍に立ってただけならその言い分も信じましょう。

 でも……あなたは画面を覗き込むように近づいてたじゃん。


「何よその疑いの目は。そんなんだとあんたのお昼ご飯作ってあげないわよ」


 食いしん坊でもない俺相手にそんな言葉が通用すると思っているのだろうか。

 作ってもらえるなんて展開はほぼ期待していなかっただけに昼飯代はちゃんと用意している。

 ただ……俺は客としてここに来ている。

 また今後取材という形であちこちに行かなければならないことを考えると少しでも節約しておきたいのが人の性。ここからコンビニまで行くのも地味にだるい。

 何よりフタバの料理の腕前は、俺の知る限りでもトップレベル。

 タダでコンビニ弁当よりも美味いものが食べられるのならば、ここは折れてもいいのではなかろうか。


「すいませんでした。ごちになります」

「ふん、最初からそういう態度を取ればいいのよ……で?」


 で?


「何が食べたい的な?」

「は? 違うわよ。この鈍ちん」


 あぁそうですか。それはすみません。

 でも……そこまで強く言わなくて良くない?

 今の流れだとそう思っても仕方なくない?


「じゃあ何なんでしょう?」


 俺の返しにフタバは盛大に溜め息を吐く。

 その態度に言いたいことが芽生えはしたけど、ここは我慢我慢。思ったことは口に出したら本命から遠ざかる。俺はフタバさんはよりも大人。高校生なんだからここは身を引かないと。


「だからあんたは彼女が出来ないのよ。あたしはその写真の美人はいったい誰? って聞いてんの」


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