第14話 「本当に西森さんの方が氷室くんと親しいのでしょうか?」
我が家。
それは日々の生活を送る上で欠かせない拠点である。
自室。
それは俺のようなオタク男子にとって自身の理想を具現化できる場所。疲れた心を癒す憩いの場所である。
だがしかし、その定義は俺はひとりで利用する場合に限られる。
「ここがトウヤの部屋……」
ただいま金髪ハーフさんに部屋を確認されております。
年頃の異性の部屋に来ているというのに緊張の色は一切見られません。
さすがは金髪ハーフさんですよね。
家族いないよ、って前もって言われていたとしても、普通初めて友達の家に行ったら少しは緊張するものだと俺は思うんだけど。
まあ可能性としては、表面上は平気に見えても内心はドキドキなんてこともありえるかも。
「漫画、ゲーム、ラノベ……オタクとして大切な要素が綺麗に保管されてる。それでいて適度に感じる生活感。オタクにとってこれほど居心地の良い部屋があるだろうか、いやない!」
いや、探せばあるだろ。
だってここ一般家庭のオタク男子部屋だし。というか、生活感があるとか言う必要ある?
ちゃんとこの部屋に入れる前に片付けたんですが。
ま、どこぞの片耳ピアスさんと違って汚部屋に出来る才能はないから片づけより部屋着に着替えたかったってのは本音だけど。
「そうですね」
西森の声に賛同した声。
それは俺が普段使っているベッドの上から発せられた。
その声の主は、言うまでもなく部長である。
教室を出てすぐ合流しました。待ち伏せされていました。一部始終見られていたんじゃないかって思うくらい今日の予定を把握されていました。
なのでここまでの道のりがとてもスムーズだったよ。
いや~マジでこの人怖いよね。
今はそれ以上に人のベッドを我が物顔で使うなって言いたいけど。
「確かにこの部屋は居心地が良いです」
ごろん、って寝返り打たないでください。
寝返りくらい良いじゃん?
バカ野郎!
部長は変人でも女の子だぞ。見た目だけは抜群に良い女の子なんだぞ。
今日ベッドに寝た時、女の子の匂いがしたらドキッとするだろうが。
それを抜きにしてもな……学校終わってから直行で来てんだぞ。つまり部長の服装は制服、スカートなんだよ。ミニスカとまでは行かないけど、そこまで長いわけでもないんだよ。
故に……ごろんってされたら見えそうになるんです!
部長ってニーソ吐いてるから絶対領域が強調されててマジで心臓に悪いの。
我が物顔で人のベッド使うならいっそ布団も使って欲しいよね。布団にくるまって美脚を隠して欲しいよね。
「どうかしましたか氷室くん?」
「別に」
「そうですか? 初音さんには心なしかあなたの目つきがエッチに見えたんですが。もしかして初音さんのパンツを見たいって思いました?」
微笑を浮かべながらスカートを抓むのやめてください。
マジで見えそうになるから。
反射的に目が行っちゃうから。
だからマジでやめろこの痴女野郎。
「トウヤ!」
「皆まで言うな。部長じゃなくてお前の相手をしろだろ?」
「まあそれもあるけど、今回はそうでもない」
何とも曖昧な返答である。
しかし、ないと言ってるだけあってボクだけを見ろ! という主張はあまり感じられない。
ただ雰囲気的には何かに前のめりだ。
トイレに行きたそうな感じはしないし……でもこいつなら今の勢いで「トイレどこ?」って聞いて来ても不思議じゃない。
だが一般人の俺では西森の思考を読み切るのは難しい。
ならば素直に聞くことにしよう。こんなことを考えるのも面倒だ。
「じゃあ何だ?」
「フィギュアがない!」
……はい?
「フィギュアだよ、フィギュア! もしくはドール! どうしてこの部屋には女の子がいないの? トウヤは男の子でしょ。もしかして別室に飾ってる? もしそうなら今すぐここに持ってきて、あそこにある机にでも飾るべきだ!」
オタク男子なら美少女フィギュアのひとつやふたつ絶対に持っている、と言わんばかりの主張については理解できないが理解した。
だがしかし、何故そこまでこいつは美少女に固執するのだろう?
だってこいつ、三次元で誰もが美少女認定するであろうリアル美少女だよ。一人称はボクだけど、全力で女の子の恰好を楽しんである女子力高い系女子なんだよ。なのに何で俺以上に美少女に飢えてるんですか?
でもそれ以上にこう言いたい。
近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近すぎるよ!
勢いに任せて人の唇を奪うつもりかこの野郎ッ!
「メガネをかち割りそうな勢いで迫ってくるな。鬱陶しい」
「ならフィギュアを出してよ! ドールを出してよ!」
「無理だ。うちのその手のものはない」
「嘘だッ!」
剣呑な顔でそのセリフを大声で言うのはやめなさい。
うるさいから。俺の耳やお前の喉にも悪いから。
何よりオタクはそのセリフを聞くとブラッティな展開を想像しかねない。
部屋にフィギュアがなかったからブラッティされました、なんて最後を俺は望みません。
「トウヤはオタクでしょ、なのに美少女フィギュアのひとつも持ってないとか嘘に決まってる」
「全オタク男子がフィギュアを持ってるなんて考えは捨てろ。俺はオタクだがグッズの収集癖はそれほどない」
フィギュアが欲しくないかと言われたら……推してるヒロインのとかは欲しいと思いますよ。
でもさ、ちょっと考えてみて欲しい。
この部屋に最も来ている人物は、あの月島さんところのつかささんですよ。
隙あらばからかおうとする茶目っ気のある自称お姉さんですよ。
美少女フィギュアなんて置いてみなさい。見つけた瞬間に嬉々とした顔をこっちに向けてくるに決まってるじゃないですか。
この手の展開を未然に防ぐためにも、美少女フィギュアなんてものは保有できないのです。
「う、嘘だ……さ、探せばきっとどこかに」
「西森さん、あなたの気持ちは痛いほど分かります。ですが……氷室くんの言っていることは事実です」
おいトウヤ、部長がお前の味方をしてくれてるぞッ!?
と思った方、確かに今の発言だけを聞けばそう思うだろう。
だが忘れないで欲しい。少し前から毎週土曜日は初音さんデーであることを。
人のベッドを我が物顔で使用し、尚且つ無防備な体勢で漫画を読んでるこの人物は、俺の許可なく部屋に入るような人間だということを。
部長って奴は取材という言葉を盾に色々と仕掛けてくる人なんだからね。この部屋だってすでに隅々まで調べられてますよ。
さらに夜に『どのおっぱいが最推しですか?』なんてメッセージと共に複数の二次元おっぱい画像を飛ばしてきたり。
何で俺はこんな部活に入ってしまったのだろう……なんだかんだで部長の取材に付き合い、質問に答えているあたり俺という人間も大概かもしれないが。
「そんな……いや、そうだよね。ボクの考えが全て正しいわけじゃない。トウヤにはトウヤの考えがある。ボクの理想を押し付けたらダメだよね」
ねぇみんな、何か今日の西森さん物分かりが良くない?
いつもは自分の考えが間違っていようとそれを貫こうとする奴なのに。
「ごめんねトウヤ、お詫びに……今度ボクの家から美少女フィギュアをいくつか持ってきてあげるよ♪」
前言撤回。
こいつは今日も自分を貫いている。反省したかのような素振りも俺の部屋にフィギュアを持ち込むための布石か。
さすがは西森シノン、平然とした顔で打算的なことをしやがる。
「期待して待っててね」
「待たん。持ってきても突き返す」
「まあまあ、そんなこと言わずに。一度見たらきっとトウヤの気も変わるって。ちゃんとトウヤの好きな巨乳の娘を持ってくるから」
巨乳なら許されると思っているんですか?
人のことをおっぱい星人だと思っているんですか?
まあ確かに貧乳よりは巨乳に惹かれることが多いですよ。
でもね、胸の大きさだけで惹かれてるわけじゃないからね。
というか……
「西森、お前さ自分の部屋に置けなくなってきた。でも捨てるにはもったいない。だから俺の部屋に置こうなんて考えてないよな?」
「失礼だな。ボクはそんなこと少ししか考えていないよ」
少しとはいえ考えとるんかい。
なら別に失礼じゃないだろ。
「ということは別に理由があるんだな。もし仮にフィギュアを置くことを許可するとして……金髪以外って条件を付けたらどうなる?」
「トウヤ、質問に質問で返すのは悪いと思う。でもあえて問わせてもらおう。金髪の何が悪い? 金髪で巨乳で何が悪い!」
こいつには誤魔化すという選択肢はないのだろうか。
もう完全に開き直ってるじゃん。金髪で巨乳のフィギュアを置こうとしてましたって自白しちゃってるじゃん。
「悪いとは言わんが却下だ」
「何で? トウヤはいつからそんなに金髪巨乳が嫌いになったの?」
「いやだから嫌いとかじゃなくて……正直、金髪で巨乳とかフィギュアを見るまでもなくお前で間に合ってるから」
西森は三次元だろ! 二次元と三次元を比較するな!
と、この場にいないオタクには言われるかもしれない。俺も二次元と三次元を比べるべきじゃないと思う。
だが……俺は、ほぼ毎日こいつとは顔を合わせているんだ。
顔を合わせない日だってゲームをしながらボイスチャットで会話したり、スマホでやりとりしたりしているんだよ。
そのうえ西森は残念なところはあるけど美少女なの。
三次元だけど作り物かって言いたくなるような顔立ちとスタイルをしているんだ。
こいつで妄想とかすると罪悪感みたいな感情が湧くからあまりしないけど。でも俺だって男の子なんだ。思春期の男子高校生なんだ。ムラムラする時はあるんだよ。
そのとき金髪で巨乳のヒロインとか目に入っちゃったらさ、西森さんが脳裏をチラつくじゃん。そうなったら罪悪感と悶々感の永久ループよ。
その可能性を排除するためにも、断固としてこいつにフィギュアを置かせるわけにはいかない。
最大の理由はやっぱりつかさだけど。金髪巨乳のフィギュアとかあったら西森に気があるのか、みたいなことを言ってくるに決まってる。
「部長、今の言葉聞きましたか!」
「はい、ばっちり。単刀直入に言ってセクハラですね」
「でも解釈によっては金髪かつ巨乳属性はボクだけでいい。二次元すら必要ないってことになりますよね? もうこれは一種の告白なのでは! ボクがメインのシナリオは今の言葉を告白に使っちゃってください!」
「西森さん、それ本気で言ってます?」
「モチのロンッ!」
西森、お前はあんなのが告白の言葉で本当に良いのか?
でも今の言葉は本当に頭を悩ませるのは俺ではなく部長かもしれない。
だって今の言葉を告白のシーンで使うとか、そのシーンに至るまでの構成とか絶対に弄らないといけないだろうし。
この推測が間違っていないことを示すかのように、自由気ままにながら状態で会話を聞いていた部長が漫画をベッドに置いて何か考えている。
表情こそあまり変えていないが……視線が定まっていないところを見るに結構困っているのではなかろうか。
あの部長を困らせるとは……西森シノン恐るべし。
「あ、ねぇトウヤ」
「今度は何だ? トイレか?」
「あーうん、まあ行くことになるかもしれないから場所は聞いておきたいけど。でも聞きたいことはそうじゃないんだ」
そうですか。
ならいったい俺は何を聞かれるんでしょうね。
俺の経験上、こういうときのこういう口調での質問は基本的に俺にとってマイナス方向なことが多い。
故に出来れば聞きたくないんだが……
この金髪ハーフがノーという返事に同意するわけないよな。すでに早く言いたく堪らないって顔してるし。
「……嫌な予感しかしないが聞くだけは聞いてやろう」
「ありがとう。でもそこまで露骨に嫌そうな顔をされちゃうと、さすがのボクも言いづらくなるからやめて欲しいかな」
「やめて欲しいなら今言おうとしている言葉を飲み込むしかないな」
「それは無理だよ。だってボクは一度決めたことは貫きたい派だから」
うわ~お、このオタクさんカッコいい。まるでどこかの主人公みたいだね。
お互いの性別が反対だったらときめいていた……かもしれないと思ったりもしたが、それはないな。
仮に俺と西森の性別が逆だったとしても、今とやりとりが変わるとは思えん。
「というわけで、言わせてもらうね」
はいはい、どうぞどうぞ。
すでに覚悟は出来ております。大抵のことには動じない自信があるからさっさと言っちゃって。
「トウヤ、君のお宝探していい!」
「……は?」
「君のエロ本、探していいかな!」
いや、エロ本ってはっきり言わなくても理解はしてるよ。
疑問の声が出ちゃったのは思考が止まった故の結果だから。
さっき大抵のことには動じない自信があるとか言っただろって?
バカ野郎、こいつは俺の彼女でもないんだぞ。高校に入学以来親しくしている相手ではあるが、うちに来るのは今日は初回の奴なんだぞ。
漫画やラノベを見ながらおっぱい談義くらいさせられる、くらいのことは覚悟していたが、ここまで堂々と改まる形でハレンチなもの探していいかなんて聞かれるとは思わんじゃん。
「……好きにしろ」
「…………」
「何だよその顔は?」
「いや、ここまであっさりと許可が下りるとは思ってなかったから。本当に探してもいいの?」
ここでダメって言ったらやめてくれるの?
やめるわけないよね?
だってあなたは西森シノン。一度決めたことは貫く派のオタクなんだから。
「ああ。探したところで無駄だからな」
「無駄? そんなことないよ。どんなエロ本だろうとお宝には違いないから」
「いや、そっちの無駄じゃない。俺の部屋にはお宝がないから探しても無駄って意味での無駄だ」
あれれ……西森さんの表情から感情が消えて行っているぞ。
そんで静かに距離を詰めてきた。静寂という圧を出しながら詰められるとちょっと怖いよね。
「トウヤ……それ本気で言ってる? 冗談だよね?」
「ここで冗談を言う理由があるとでも?」
おや? 西森の両手がゆったりと天上の方へリフトアップしてるぞ。
それと同時にさらに距離を詰めてきた。
と思ったら勢い良く両手を肩に振り下ろされました。がっちりとホールドまでされました。
ホールドの強さは女子だなって感じだから大丈夫だけど、ホールドされる前がまるでチョップだったから地味に痛いです。
「トウヤ、嘘を言う必要はないんだ。トウヤだって男の子、思春期真っただ中で性欲旺盛な男子高校生のひとりなんだから。だからエッチな本のひとつやふたつあったからって女の子は引いたりしない」
いや普通の女子は引くだろ。
そんな風に温かい考えを持ってくれるのは、理解のある母親か親戚のお姉さんくらいなもんだ。
「だからねトウヤ、隠さずにお宝を出そう。ね?」
今の西森の顔は慈愛に満ちているのだろう。
それ以上に……どうして俺は、同い年の女子からエロ本を出せと促されているのだろう。
「ね? って言われてもないものはない」
「嘘だ! 部屋にある漫画やラノベを見る限り、君という人間が電子書籍派だとは思えない。またこれまでにしてきた会話で君に人並みに性欲があることははっきりしている。そもそも、いくらデジタル化が進んだ現代だからって紙媒体の文化が減退するはずがない。だってオタクは情緒を重んじる生き物だから。君だってそのひとりだろトウヤ。故にエロ本のひとつも持っていないなんてことがあるはずないんだ!」
正直こいつの言っていることを分かりたくはない。
しかし、こいつが言うように俺もオタク。だからこいつが何を言いたいのか理解出来てしまう。
だが……
「西森、お前の言いたいことは分かった。でもな、俺はまだ高校生なんだ。R18指定のものが買えると思うな。仮に買えたとしても俺はまだ実家暮らし。実家に自身の性癖の塊とも言えるお宝を持つと思うのか? 西森、お前のその理屈が通じるのは一人暮らしをしている独身オタクに対してのみだと知れ!」
「そ、それは……でも」
「諦めましょう西森さん。残念ですが今回のことに関して氷室くんは嘘を吐いていません」
おい、またもや部長が味方してくれるぞ!?
なんて思うなよ。部長は俺の味方をしてくれてるわけではない。ただこの家にお宝がないと知っているが故に……過去に徹底的にお宝を探したが故に事実を口にしただけなんだからな。
というか、今日の部長ゴロゴロし過ぎ。
今横になってるの自分のベッドじゃなくて俺のベッドだからね。自分の匂いを擦りつけるかのようにゴロゴロするのやめて。
あとで不意にドキッとしちゃうかもしれないから。
今も下手したらパンツ見えるんじゃないかってドキドキしてるから
スカートとニーソに挟まれた絶対領域エロ……とか思っちゃってるから。
「そんな……そんなことって! 男の子の家でお宝探しをするのはボクの夢の一つだったのに。今日それが実現できるかもって期待してたのに!」
どんな夢だよ。
あと床をドンドンするのやめろ。ドンドンするにしてももう少し上半身の位置を高くしろ。お尻だけ他より位置が高いとそこに意識が行きそうになるから。
「……うん? ……おかしい……普通に考えておかしいよね」
何かブツブツ言い始めたんだけど。
早く体勢を整えて。
今の体勢のままで固まらないで。
無防備なお尻が目の前にある状況は思春期の男子高校生には刺激が強いから。
「部長、ちょっと確認したいことがあるんですけど」
「何でしょう西森さん」
「今日のパンツは何色ですか?」
……この金髪ハーフ、真顔で何言ってんだろう。
「すいません、部長の美脚や絶対領域を見てたら間違いました」
「いやどんな間違いだよ」
「氷室くん、それだけ初音さんのおみ足が魅力的ということですよ」
確かに俺から見てもあなたのおみ足は魅力的ですよ。
女の西森から見ても魅力的に見えたんでしょうよ。
それが嬉しかったのは分かります。でもだからってグラビアみたいなポーズをするのはやめてください。マジでパンツが見えそうなんで。
「改めて部長」
「改めて何でしょう西森さん」
「ふと思ったんですけど、今日の部長の発言の中にはいくつかおかしいものがありましたよね?」
いくつか?
部長の発言の大半は、俺からすると基本的におかしなものばかりだと思う。
まあ口にはしませんけど。こっちに飛び火して絡まれたら面倒臭いし。
「というと?」
「ひとつ目、部長はこの家にフィギュアはないと確信しているかのような発言をしていました。トウヤがないと言っているんだからないんじゃないか? そういう発言ならともかく、部長が断定する形の発言をするのかおかしくないですか?」
「なるほど……いくつかと言っていたからには他にもあるのでしょう? それも聞かせてもらいましょうか」
何でこいつらは探偵と犯人みたいな雰囲気を出し始めたんだろう。
いや探偵側の西森はまだいい。問題なのは犯人側の部長だ。
何で顔と声は真面目なのに視線は漫画の方に向いちゃってるの?
何で西森の雰囲気に乗ったのに寝転がったままなの?
俺に茶番を見せるならもう少し真面目な体勢でやってよね。
「ふたつ目ですが……部長は先ほどこの家にはお宝がない、トウヤがエロ本を持っていないと確信した発言もしていました。トウヤと付き合いが長いつかさちゃんならともかく、ボクよりもトウヤと親しくない部長がそういう発言をするのはおかしくないですか?」
そうだね、そうだよね。おかしいと思っちゃうよね。
勝手に自分より部長の方が親しくないって決めつけた発言しちゃうのは、人としてあれかもしれないけど。
でも実際に親しいと感じるのは部長よりも西森。だから気にしないことにしよう。うん、それがいいそれでいい。
「ふむ……まあ西森さんが言おうとしていることは分かります。そして、理解も出来ます……ですが」
部長は一度起き上がりながら読み終わった漫画を閉じると、視線を西森へと向ける。
ついに本気で西森とやり合うつもりか!
と思わせる表情を浮かべたのも束の間、微笑を浮かべるとこれまで以上に無防備な姿で俺のベッドに寝転がった。
「その考えは西森さんの方が氷室くんと親しい。親しい自分が知らないことを初音さんが知っているのはおかしい、という西森さんの主観に基づいています」
「そ、それは」
「本当に西森さんの方が氷室くんと親しいのでしょうか?」
部長の問いかけに西森の表情に曇る。
茶番だということは分かっているが、ここまで本気でされると茶番だろうが見せ物に見えてくるから不思議だ。
「同じ学年、同じクラス、休み時間の度に話す相手、部活も同じで放課後も一緒。確かにこの事実だけを見れば、西森さんは初音さんよりも親しい。ですが、裏を返せば……これは西森さんが氷室くんの友達でしかないということになります」
「確かにそうですけど、でも部長だってトウヤとは友達……それどころか先輩と後輩とか、部長と部員みたいな友達以下の関係じゃないですか」
「そうですね、西森さんには初音さんと氷室くんの関係はそう見えているかもしれません」
「ま……まさかッ!?」
西森さん、何で驚愕の事実を知ってしまったけど信じたくないって感じの顔でこっちを見るのかな?
まあ部長が何を言おうとしているのかは俺も分かる。でもそれを否定するのはお前らの茶番が終わってからだ。
何故なら今やると絶対に茶番の時間が伸びるから。
「ボクが知らなかっただけでトウヤと部長はすでに……!」
「ふふ」
「そ、そんな……それなのにつかさちゃんに絡むような的外れな言動をした挙句、トウヤに君のこと攻略するだとか家に来てねなんて発言をしちゃうとか、ボクの人生において最大の黒歴史。こんなの……恥ずかし過ぎて死ぬ! 穴があったら入りたい。いや、いっそ穴に落ちて死にたい!」
最後のところはオタクなら「いっそ殺して!」だろ。
まあ妙なシリアス感は消えてるから結果的にはオーケイかもしれないけど。
でも何かすでに疲れた。
こいつらが来てまだこれといってしたわけでもないけど、もう帰ってくれないかな。ひとりで黙々とゲームしたい。
「ん?」
ポケットに入れていたスマホが震えた。
振動の長さからして電話やメールではなく、アプリによるメッセージ。
絶賛茶番中の西森と部長の手にはスマホはない。このタイミングでメッセージが届くことはないだろう。
ならば家族という線を考えてみるが、うちの家族は急用でもない限り連絡はしてこない。またその場合、基本的に電話が多いためメッセージを送ってきたとは考えにくい。
そんなこと考える必要ないだろ。スマホ見れば送り主分かるじゃん、だって?
はいはい、見ますよ見ればいいんでしょ。
『日曜暇でしょ? うちに来て』
……だから見たくなかったんだッ!
どうせこんなことだろうって思ってたよ。
でもさ、何で神様は俺の事いじめるような展開しか起こさないの?
俺のことが嫌いなの?
日曜日は今の俺にとって唯一の完全オフだってのに。
だけど体調不良や用事でもないのに断ったってバレると後々面倒なんだよな。故に行くしかないのが現実。
ま、でも……日曜を迎える前に今日を乗り切らないといけないんだけどな。
なのでやる気も気力もすでにどん底に近くなってるけど、頑張って目の前に居るふたりの相手をしたいと思います。
詳しいことは後日語る……かも。
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