第6話 二人の親指姫
翌日謹慎中だと言うのに登校し、教室へ入ると昨日休んでいた一ノ瀬が来ていた。一ノ瀬は険しい表情をしていて、今日放課後起こるであろう災難を想像し不安を募らせているようだ。
「おはよー、一ノ瀬、来ていたのか。昨日はどうしたんだ?」
「やっぱり、全員から徴収するしか無いと思う。ある程度の現金は工面してきたけど流石に全額は無理だった。」
「大丈夫だぞ。断固払わないと言いに行くぞ。」
俺は笑顔で提案した。
「そんな事をすれば、お前はまた虐められるぞ。」
「大丈夫だ。奥の手がある。」
「なんだそりゃ。」
「今日は木刀持ってきた。」
「おいおい、それが奥の手?大丈夫か?いじめられっ子が木刀持っても、所詮いじめられっ子だぞ。あいつらだって木刀持ってただろ?」
「行けば分かるよ。」
「そうか。分かった。なるほど裸踊りで木刀をケツに突っ込んで笑わせて許してもらうって訳か。」
「違う!。少しは信じろ。」
そして放課後。その顔に一日中不安の色を浮かべていた一ノ瀬と、対象的に気楽な顔した俺は、バイクに二人乗りで北高へと向かった。
「藤城、何でお前は何の気負いもなく気楽な表情でにこやかでさえあるんだ?」
「なるようになると思ってるからだろ。結果が変わらないのなら不安になるだけ損だぞ。」
「なるほど。お前は毎日虐められてるから、不安の対処法を心得てるんだな。」
「なっ、しっ、失敬な!違うぞ。なんとかするって言っただろ。」
「言ったか?」
「言った。はず。多分。」
それから、話すこともなく二人乗りのバイクは、そろそろ日も沈みかけ空は少し赤くなり始めた頃、北高に到着した。
「一ノ瀬、お前は話さなくてもいいからな、俺に任せろ。」
「木刀一本で何言ってやがる。相手は何本も持ってるぞ。」
「言ってなかったか?剣道部のキャプテンの田所さんいるだろ?」
「あー去年の剣道のインターハイのチャンプだろ?」
「俺は田所さんに勝ったぞ。」
「はぁー、寝言は寝てから言え。」
「少しは信じろ。三島さんには負けたけど・・・」
「ほら、やっぱり負けてるんじゃないか。三島さんに負けてるのにどうして更に強い田所さんに勝つんだよ。」
「色々と事情があるんだよ。」
「はい、はい。」
ついに一ノ瀬が呆れてしまった頃、俺達はこの市の高校のキングの南の仲間が屯たむろする部室棟の一室へと到着した。
そこには先日と同じように南と他の老けた四人とその他大勢十数名が屯たむろしていた。幸いなことに今日は女子は一人もいない。
「おっ!おやゆび姫も来たのか?今日も笑わせてくれよ。女子も呼んでくるか?」
「大丈夫だ。その心配は必要ないぞ。」
「それより、学校税持ってきたんだろうな?」
「いや持ってきてないし、持ってくる気もない。」
「はぁー、未だ分かってないのか。期限は今日までだ。おい、分かりましたと言うまで痛めつけていいぞ。」
「ありがたいな。お前らが分かりましたと言うまで痛めつけて良いのか?」
俺は訊き返した。
「違うだろうがぁ!お前らがぁ、一ノ瀬とおやゆび姫がぁ分かりましたと言うまでに決まってるだろうがぁ。コイツら舐めてやがる。分からせてやれぇ。」
「良いのか?そんなに余裕ぶっこいていて。大物気取りだな、まるで納豆帝国の御老公様だぞ。」
「余裕ぶっこいてるのはお前だろうが。お前に余裕なんかないぞ。余裕があるのは下の皮だけだろうが!」
「ぐさっ!!うー、くそっ!俺は1000のダメージを受けたぞ!」
俺はバイクに乗る時邪魔だったから背中に挿しておいた木刀をおもむろに背中から引き抜いた。
「だからなんだ?こっちは木刀沢山あるぞ。やれっ、ホラッ、早くっ!」
俺は相手を威嚇するために上段で構えた。比較的高身長ではあるが、ここにいる奴らは総じて背が高い。低いやつもいるが。南やその側近に至っては190cmは越えているのではと思えるほど高い。だから、身長のディスアドバンテージを消すためにも上段に構えた。
まぁ、相手は素人だからそんな事しなくても大丈夫だろうが・・・
げっ!し、しまった。俺も素人だった。
まぁ、少しは魔法でブーストアップするから良いか・・・
そのまま向かってきた相手の二の腕当たりに打ち下ろした。
手首あたりの筋肉の少ない部分に打ち下ろした場合骨折する恐れがあるからだ。
まぁ、骨折したら終わってから治癒魔法掛ければ大丈夫だが。
相手は苦悶の表情を浮かべ、あまりの痛さに持っていた木刀を落としてしまった。仕上げに動けなくなるように太ももに強烈な一撃を加えせいでそのまま蹲ってもらった。
一瞬の出来事に、呆気に取られた不良共は攻撃することを忘れ呆然と俺を見ていた。
「なにしてるんだ。早くぶっ倒せ。」
キングの南からの檄が飛んだ。
我を取り戻したかのように不良共は攻撃を再開した。しかし、その攻撃は腰が引けている。心に刻まれた恐怖は不良共の体を強張らせ前へ出ることを躊躇させている。
相手が攻撃しないからといって俺も何もしないのではいつまでも終わらない。
今度はこちらから攻撃していくことにした。
片っ端から骨が折れにくそうなところを叩いていく。
相手は素人だから避けることもできず蹲っていく。
結局、一発も打撃を受けること無く雑魚を蹲らせた。
「おい、南、来い。」
残った老け顔の五人は余裕の表情で座っていた。
「南俺が最初に行くぞ。」
立ってきたのは、老け顔の笑わない強面のやつだ。
「山田ぁ、お前が行くのか?お前は四天王だぞ。まぁいいか。お前が行くと終わっちゃうだろ。俺まで順番が来ないぞ。」
四天王?
南がキングで他の四人が四天王か。
山田と呼ばれたやつが正眼に構えてきた。どうやら素人ではないようだ。だが、どう考えても、去年のチャンピオンの田所さん以上に強いとは思えない。
相手が打ち込んできた。
その時ボールが飛んできた。
ボールを避けた瞬間、強烈な一撃が頭を直撃した。
倒れていく際に見えたのはボールを投げ終わった格好をしたにやけた南の顔だった。
俺は痛みを堪え、とっさに転がり次の攻撃を避ける。
立ち上がろうとすると山田が次々に打ち込んできて攻撃する隙がない。
ドス、ガツッ、カツッ
数発身体に木刀が当たった。
痛い。当たった箇所が動かしにくい。
仕方ない。
ドスッ!
俺は蹴りで山田を後ろに転がした。
「おい、卑怯だぞ。蹴りは反則だぞ。」
「はぁ、これ剣道じゃないだろ!しかも、ボールを投げたり俺が倒れたところに攻撃してきてそれは反則じゃないのか?」
「ハーッハハハッ、そりゃそうだ、山田ぁ頑張れぇ!」
「クソぉー、殺してやるぅー。」
山田が怒り満面で攻撃してきた。それだけ怒ってれば逆にあしらいやすいだろ。怒って強くなるのはスーパーサイヤ人だけだぞ。
俺は、横から太ももを薙ぎ払った。山田は足をすくわれた形で倒れた。足首でなく太腿を打ち足を掬ったのだから、かなり痛かったはずだ。それともわざと倒れて威力を殺したか。
山田が立ち上がるのを警戒したが、心配は稀有だったようだ。演技でなければ実際にかなり痛がっている。後で治療してやろう。
「次は南か?纏めてくるのか?纏めてこられたら手加減する余裕がなくなるかもしれないぞ。」
「おい、田中。行け。」
「良し。俺が行く。おい、親指姫?」
「誰がおやゆび姫だ。手加減止めるぞ!」
「俺は空手が得意なんだ。だからお前も木刀置いて空手で戦え。」
「あーそうだな。お前が空手で素手で来るんだから俺だけ木刀持ってたら卑怯だよな・・・ってなんで、お前の土俵で戦わなくちゃいけないんだ。だったら、俺はそろばん得意だから、そろばんで対決するぞって言ったらそろばんで戦うのかよ?」
「ちっ、騙されなかったか。」
アホなのか?こいつは阿呆なのか?
頭にきたから向かってきたところをカウンターで頭に一撃入れて気絶させてやった。
四天王は後二人だ。
「佐藤、福岡、お前ら二人で行け。速攻でやっつけろ!」
「よーし、佐藤。前後で挟み撃ちにするぞ。」
「おう、やるぞ。」
二人は俺を前後に回り込み距離を詰めてきた。
俺は木刀を横に放った。
「なんだ?諦めたのか?」
「いや、卑怯者には手加減は必要ないだろ。本気で行く。」
二人が同時に近づき木刀で殴りかかってきた。
前に田中、後ろに福岡だ。
俺は重力に任せしゃがみ込み蹴りを水平に360度回し二人をまとめて足払いで転がした。もちろん最初の180度は勢いを付けるためだ。
次に、前の田中の上に乗り顎を殴って意識を奪う。
後ろから福岡が蹴りを放ってきた。
立ち上がりざま福岡の脚を蹴り上げ、上げた脚をそのまま下げ福岡の頭に踵落としをくれてやった。
流石に魔力で強化した踵落としは相手の意識を奪うには十分で、福岡は白目をむき崩れ落ちた。
「ほら、残ったのは南、お前だけだ。早く来い。」
パン!
破裂音がした。南を見ると手に拳銃を握っていた。もしかして家庭の事情による凶器の所持ですか?
腹が熱くなってきた、熱い。
見ると腹から血が流れていた。
痛い。痛いというより熱い。気づくと俺は膝を付いていた。
いかんこのままでは異世界に転生してしまう。
い、いや、それはそれで良いのか?しかし、また魔王がいないと困る。
「おい、親指姫、ふざけた真似してくれたな。俺を怒らせたぞ。だが安心しろ。お前の死体は完全に酸で溶かして死体が残らないようにしてやる。お前はいじめで家出したと学校で言いふらしてやるよ。完全犯罪だな。」
「ふざけるな!」
俺は腹から弾丸を魔力で引き抜き、傷跡さえも残らないように治癒させ、立ち上がった。
南は、何が起こったのか分からず動揺し始めた。南は俺に銃口を向け続けている。
そして、発射した。
乾いたでかい数発の破裂音が室内に響き渡った。
数発の弾丸は俺の目の前で数秒停止しコロコロと音を立てながら下に落ちていく。
「バ、バケモノォ!」
「失敬な!俺はバケモノじゃない。」
南は引きつった泣きそうな顔で構えていた銃を撃つでもなくただ銃口を俺に向けて放心していた。
俺は南にゆっくり近づいていった。
「南、お前は子供か?銃で人を撃ったら駄目だと分かるだろ。俺はお前に手加減する必要ないよな。そうだろ?」
怒りで、バレることなどどうでも良くなっていた。
南の顎を思いっきり蹴り上げてやった。
「ほ、本当に強かったんだな、藤城。」
一ノ瀬は勝ったと言うのに笑顔でもなく複雑な表情で俺に話しかけた。
俺はあたりを見回して骨が折れてそうなやつを探して、骨がくっつくように暗々のうちに治癒魔法をかけていった。
「一ノ瀬こいつらどうする?やっぱ、仕返しに裸にしないと駄目だろ?そうだよな。」
「当然だ!」
一ノ瀬も賛成してくれたので全員スッポンポンにした。
俺は意識のない南に言ってやった。
「南、おまえもか。」
南も見事なホー○ーだった。
全員に電気ショックを与えて目覚めさせ南に詰問する。
「もう学校税は徴収しないだろ?」
「いや無理だ。俺達は愚連隊『白い彗星』に上納金を納めていたんだ。止めれば『白い彗星』が黙っちゃいない。」
「だったら、俺がなんとかするから北高は東高の下につけ。」
「分かった。お前だったら何とかしてくれるだろ。お前の下に就くよ。」
「それと親指姫と呼ぶの禁止な!俺は成長期なんだ。」
バタバタと足音が聞こえたと思ったら女子が入ってきた。
「アーッ、親指姫ぇ、来てたんだぁ!」
こないだ、俺の真仮の判定をした女子だった。
「南、コイツ何とかしておけよ。」
「わかった。教育しておくよ。」
「それと、俺が今日したことは絶対秘密な。」
俺と一ノ瀬はバイクへと向かって部室棟を出た。
後ろの方から大声で笑う女子の声が聞こえてきた。
「ヒーッ、何で、あんた達みんな裸なの?し、しかも南、親指姫じゃん!!あんたも?あんたもなのね。ヒーッ、許して、もう笑わせないでぇー、ク、苦し良い、あんた私を殺すつもりでしょ?わ、笑死にするぅー。ひ〰〰〰っ!」
「ご愁傷さま。」
そう声を掛けるとバイクへと急いだ。
「銃で撃たれて血が出たろ?大丈夫か?」
「かすっただけだ。」
「藤城、本当に強かったんだな。」
「いじめられっ子だからな。」
「・・・・」
またバイクに二人乗りして俺の自宅へと送ってもらう。
既に日はとっぷりと暮れ夕方の交通渋滞も終わろうとしている中をバイクは順調に進んでいく。
「なぁ、血って落ちるのかな?」
「知らねぇー。」
「だよなぁー。」
そして、翌日。
夏に近づくと街は暑くなり教室に行かずに図書館へこもりたくなる。しかし思わぬところで手に入れた謹慎処分という早弁のよう自由時間。有効に活用させてもらうとしよう。
学校の図書館へ行きたかったが、流石に謹慎中はまずいと思い区の図書館へと向かった。図書館は冷房が効いていて読書には最適な空間になっていた。
「あら、あなた学校は?」
中へ入ろうとすると職員が話しかけてきた。
「えー、冤罪で謹慎中なんです。」
「まぁー、冤罪で?それは戦わなきゃね。頑張って再審勝ち取ってね。正義は勝つわよ。」
「いえ、もう。再審は諦めてます。だから、罪を受け入れた結果の謹慎なんです。世の中、勝った方が正義というのが常識ですから。」
「そう、めげずに頑張りなさい。」
「ありがとう。お姉さん。」
「いえいえ、どういたしまして。」
明らかに40歳超えている人にお世辞でお姉さんと言ったら喜ばれた。なるほど、お世辞とは効果抜群だな。
席に着く前に適当に数冊の科学雑誌を手にとって座った。
読み進めていくと面白い記事があった。ソナーについて書いてある。
『海中に向けて超音波を発射し、その反射波を捉えることで目的の物体を探す仕組みになっています。また、海中に存在する魚群をレーダー映像のように捉え、自船位置を中心に、前方、左右方向などの魚群の分布状況、密集度などを探知表示することができます。 』
なるほど、魔力を周りに広げ物体に反射させれば戻ってきた魔力でその位置とその物体の情報がわかるかもな。
俺は魔力を周りに広げた。
直ぐに、周りの状況が目を閉じているにも関わらず分かるようになった。ただ、何かがあるのは分かるが、何があるのかまでは分からない。
精度を高くすれば分かるのだろうか?しばらく続けてみた。
数分が経過する頃には人が分かるようになった。後ろに二人。少し離れた所に十数人。
ただ、受付に居るはずのお姉さんがわからない。いないのではなく分からない。受付の前にある扉が邪魔しているようだ。扉の向こうが見えない。
更に続けた。
十分程経過した頃だろうか。お姉さんが見えた。
実際見えたわけではないが格好まで分かるようになった。後ろにいる人の顔や格好まで分かる。魔力で扉を越えようとした成果だろう。
更に本も読まずに十数分経過した。
ついに建物を越えた。
建物の外が分かる。人がいるのがみえる。街並みが見える。上空から下を見る視点へと移すとこの図書館が衛星画像のように見える。街並みが鳥瞰図のように見える。
ついに、俺はソナーを手に入れた。
どんどん視点の発信点を上空へと移していく。
大気圏を出た頃だろうか、目の前が真っ暗になった。魔力を使い切ったのか。未だ出来る。未だほんの少しだが魔力は残っている。
もう一度周りを見ようとすると、すごく疲れる。まるで、筋トレのオールアウトをしているようだ。
こ、これは、これでは、筋トレのように、魔力を使っていくと超回復で魔力の量が増え魔力も強くなるのではないか?
俺は再度、周囲を魔力で観察し始める。
建物の中の隅々を見た。ただし女子トイレはやめておいた。
もうダメだ。すごく疲れる。
横でもう一人の俺がもう少しだ、後一回と命令してくる。
俺は気絶していた。
目が覚めると既に夕食の時間だった。たった一冊の本も読めなかったが有意義な謹二日目だった。なるほど、やはり謹慎というは会社員で言うところの有給休暇のようのものだな。単位を減らすこと無く公的に休暇が貰える。
次の日も謹慎処分という早期夏季休暇制度を利用して図書館へ行った。
図書館は昨日と同じ平日ということで人もまばらだ。
「おはよぉー、お姉さん。」
「あら、おはよー。もう図書館で寝ちゃ駄目よ。」
ここでも濡れ衣を着せられてしまった。
「嫌だなぁー、寝てませんよ。目を閉じて集中力を高めてたんですよ。」
「そうなの。でも高めなくても良いから本を読んでね。」
「はーい。」
集中力を高めたほうが本は読みやすいと思うのだが。まぁ、昨日は2時間位目を閉じてたからな。2時間も寝てると思われてたら注意もするよな。
科学雑誌を手に取り席に着き読み始めた。早速気になる記事が。
万有引力について書かれていた。
「な、なんだとー!」
「もう、いい加減にして下さい。」
「はい、すいません。もうしません。」
またお姉さんに怒られた・・
なんと、この星が俺達を引き付けている為に人間は浮かばないらしい。
だったら、もし、引力の影響を断ち切り重さを限りなくゼロにすることができれば、まるで風呂の中に沈めたボールが風呂の外に飛び出してくるように、引力が遮断された人間は空気の圧力で地球外に一気に押し出されるのではないのか。
もしある程度の重さで止めることができれば空中に浮かぶことも出来るだろう。
だったら、これを魔法で行えば重力魔法だな。この魔法を完成させれば打倒魔王にまた一歩近づくことが出来る。
魔法+科学=死ね魔王だ。
待ってろよ魔王。
引力を遮断する事をイメージした。そのまま1時間経過したが何事も起きず、目を閉じてから既に2時間が経過しようとしている。
また明日寝ないでくださいと怒られるのだろうかという考えを中断し、また引力の遮断をイメージした瞬間、天井に頭をぶつけていた。
ゴンッ!すごい音がした。俺はその反動で図書館の広めのテーブルの上に落ちてしこたま背中をぶつけてしまった。
誰かが走る足音が聞こえてくる。でも目が開けられないくらい痛い。
「何があったの?」
職員のお姉さんだった。お姉さんが訊いてくるが痛さのあまり答えられない。
「突然テーブルに落ちたんですよ、天井から?いや、飛び乗ったんでしょうか?」
近くに座っていた人が代わりに答えていた。
「治癒!」俺は小さな声で治癒魔法をかけ怪我を治癒させた。
「すいません、躓いちゃって。」
「躓いたの?気をつけてね。煩くすると出入り禁止になっちゃうわよ。」
「はい。気をつけます。」
また迷惑をかけてしまったが、新たな魔法を開発した。
その後、夕食の時間まで身体を浮かせ過ぎないようコントロールしながら、椅子から1センチほど浮かせ続け本を読んでいた。
いや読めなかった。読むと集中が途切れ椅子の上に落ちるか天井に頭をぶつけてしまう。
ただまた怒られないように読む振りをしていた。しかし、明日は読めるかもしれない。
俺は気づいた。前世において何が足りなかったかを。そう、知識だ。根拠に裏付けられた魔法ではないからイメージが甘く、効果が弱かった。その所為で魔王に殺されてしまった。
勇者は知識があったから強い魔法が放てたのではないのか。
さらに、重力魔法などイメージさえも無かったから出来もしなかった魔法も多い。ただ浮かべと考えただけでは浮かべない。そこに何が浮かばせるのかをイメージする知識がなかったからだろう。
今はその根拠が分かる。その知識がある。今後、魔法が更に増えるだろう。期待に胸を弾ませ、空腹の身体にむち打ちながら家路についた。
家に着くと校長先生と四十路の荒巻先生が来ていた。
なんでも、謹慎処分はあまりに行き過ぎであり、その根拠に欠けるということで取り消すから明日から登校してくれということだった。
まだまだ休めると思っていた謹慎期間はたった二日間だけで終わってしまった。
荒巻先生は恐縮しながら謝罪していた。
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