第5話 早期夏季休暇制度?

 次の日、学校へ行くと。朝のホームルーム前だと言うのに、元バラモンから迎えが来た。至急来てくれとのことだ。昨日のことだろうとは思うが一ノ瀬が来ていないので一人で行くことにしよう。


「おはよ、バラモン。昨日は大変だったよ。」


「もうバラモンじゃねぇーよ。」


「そうか?だったらボスだな。おはよ、ボス。」


「聞いたぞ!おやゆび姫。大変だったそうだな。どうするんだ。」


「お、親指姫言うなぁ!昨日は油断したんだよ。明日は一人でいこうかな?今日、バラモンの一ノ瀬も来てないしな。」


「は?誰がバラモンだって?」


「一ノ瀬だろ?北高が学校税を一ノ瀬に徴収させてただろ?」


「それは北高が勝手に決めただけだろ。バラモンはお前だよ、藤城。元バラモンの俺を倒して俺が認めたんだから藤城がバラモンだ。お前が内緒にしろって言ったから誰にも誰がバラモンかは言ってないぞ。」


「はぁ、なんだよそれ?」


「でも大変だな。バラモンになったり、おやゆび姫になったり。」


「バラモンは一ノ瀬にしておけよ。迷惑だ!」


「そりゃ無理だな。俺を倒してもいないし俺が認めて資格を譲ったわけでもないからな。厳格なルールがあるんだ、本校のカースト制度には。」


「うちのクラスの女子が『私達はクシャトリヤよ』とか言ってたけど、条件とかあるのか?」


「カースト制度委員会に認められバラモンの承認を得なくちゃいけない。未だ一年には一人もいないはずだぞ。」


「なるほど。勝手ににクシャトリヤと名乗っているだけか。自称クシャトリヤかぁ。」


「勝手に名乗ればペナルティーが課せられる。罰則のない規定は実効性に欠けるからな。」


「クシャトリヤフォーとか名乗ってたぞ。」


「そうか。美菜、バラモンの命令だ。バラモンのクラスの勝手にクシャトリヤと名乗っている女子に罰を与えて名乗らないようにしておけ。」


「ダーリンのクラスのやつね。分かったわ。」


「なぁ、美菜さん。俺のことは無視しておけよ。それとダーリンじゃないからな。」


「わかったわよ。だから今度デートしてね。」


「うーん、考えとくよ。」


「私が外に出してあげるわよ。」


「何をだよ!」


「言えないわよ。」


美菜、恥ずかしそうにモジモジしているが、似合わないぞ。


「おい、バラモン、本題だ。学校税という名の上納金どうするんだ?」


「勿論払わない。明日一ノ瀬が話し合いに行くから、俺も付いて行って北高の南に言ってやるよ。」


「名前がややこしいって?」


「そうだな。それもだな。まぁ、東高は傘下から外れるより、北高を東高の傘下にしたほうがいいな。」


「お、がんばってこい!お前なら出来るぞ。新バラモン。」


「じゃぁ、俺教室戻るよ。」


「私も行く。ダーリンのクラスの誰か教えて。」


「見たら直ぐ分かるぞ。一番派手な4人組だ。」


美菜は俺の腕に自分の腕を絡ませ、俺にもたれかかりながら、まるで恋人のようにぴったり寄り添い歩いていたが、屋上から建物の中に入ってからは、俺のことを内緒にするためか腕を離してただ進む方角が同じ人の様に俺のことを無視して歩いている。

色々気が利く女のようだ。



教室の前まで来ると美菜が質問してきた。


「どいつ?」


「あー、あそこにいる派手な四人組の女子ですよ、先輩。」


俺は、派手な四人組を指差し、あたかも知らない上級生に尋ねられたかのように答えた。


美菜は教室の中へ入り、つかつかと四人組の元へ歩いていくと、強い口調で詰問し始めた。


「あなたたち、クシャトリヤと名乗っているそうね?」


こうしてみると三菜もクシャトリアフォーに負けないくらい派手だ。

まるでクシャトリヤファイヴになったかのようだ

クシャトリヤフォーは突然カースト制度委員会の三年が来た事で恐縮し少し縮こまっている。


「え?だ、だめでしたか?」


「うちの学校のカースト制度には厳格なルールがあって、クシャトリヤとバイシャは東高カースト制度委員会に認められないと名乗れないシステムなの。最初は皆スードラね。もし、あなた達がクシャトリヤの資格があると思えば用紙に記入して申請し、合格すればクシャトリヤと名乗れるわよ。」


「用紙はどこでもらえるんですか。」


「三年棟にカースト制度委員会専用の部屋があるからそこで貰えるし、提出もその部屋ね。でも、あなた達は、勝手に名乗っていたのだからペナルティーがあるわよ。」


「えー、それ何ですかぁ?でも知らなかったんだしぃ。良くないですかぁ?」


「それじゃ他に示しがつかないでしょ。バラモンも怒ってたわよ。罰金5000円かカースト制度委員会への1週間の奉仕作業よ。」


「え?バラモンさんも?でも、奉仕ってどんなことをするんですか。」


「書類の整理とかの雑務かバラモンの秘書的な作業とかね。」


「だったら、私バラモンさんの秘書やります。」


「え?私も、私もっ。」


「4人で秘書やろうと、私が第一秘書ね。」


「え~?勝手に決めないで。公平に決めましょうよ。」


「ちょっと、あなた達、それは後で決めなさい。じゃあ、ペナルティーは奉仕活動ね。ただ、バラモンの了承を得ないといけないの。彼、バラモンになったばかりだからもしかしたら駄目かもね。」


「でも、バラモンって誰ですか?教えて下さいよぉ。誰も知らないんですよ。」


「それは秘密だからよ。ダーリンから教えちゃだめって言われてるから。」


「え?バラモンの彼女さんなんですか?御似合いですね。」


「あなた良く分かってるじゃないの。ペナルティーは無くして貰えるよう話してみるわ・・・ってあなた達バラモン誰だか知らないでしょ!調子のいい事。」


「ペナルティーは無くさなくても良いです。秘書やりたいです。」


「秘書じゃなく雑務の可能性が高いわよ。秘書はバラモンから認められないと駄目だから。」


「バラモンに会いたいです。どこに行けば会えますか?」


美菜、こっちを見るな。


「そのうちね。じゃぁー、私帰るわ。」


美菜が帰っていくと自称クシャトリヤフォーと目があった。ニヤリと良からぬ事を企んでいるような顔をするとこっちへ歩いてくる。


「あれ?こんなとこにおやゆび姫がいるわ!今日は撮影は無いの?」


え?なぜ知ってる?


「誰がおやゆび姫だよ。」


「私の近所に住む北高のお姉さんが言ってたわよ。親指姫って。でも本当は人差し指の先くらいでお情けでおやゆび姫って呼ばれてるって。ぷぅーぷぷぷっ。」


「うぬぬぬぬ・・・」


「でも、良かったじゃない。お姉さんが言ってたわよ。あなたは本物だって。手術は保険が適用されるから安いらしいわよ。あーっはっはっは。」


「違うよ。お、俺は〇ーけーじゃないよ。」


「でも、お姉さんがちゃんと触って確認したって。そ、そしたら・・ま・・まっったく・・ぷぷっぷ・・頭が見えなかったって・・・ぷっはぁーっはっはっはぁ。」


「だって、しょうがないじゃないか。」


「なにそれ?どこかの子役あがりの役者のマネ?」


「だって僕未だ子供だよ。」


「はいはい。おこちゃまはかえってママのおっぱいでも吸ってなさい。」


クソぉー、莉々菜にもバレたじゃないか。


「ちょっと、そこの包茎の君。荷物運び手伝いなさい。付いて来て。」


美菜、未だいたの?もしかしたら助け舟?


「おっ!親指姫は荷物持ちで三年からも虐められるのか?」


「煩い、高橋!」


「何だ、奴隷が偉そうに!」


ドスッ!


「うっ!」腹蹴られた。


高橋のいじめから逃れる為に美菜に付いて誰もいない非常階段へと来た。


「ダーリン、あんな奴に虐められて可哀そうに。やっつけちゃえばいいのに。」


「はぁー、だよねー。でも虐めは暴力では解決しないんだよ。」


「でも、暴力で相手を抑え込めば問題解決すると思うけど。」


「でも、その後みんなに無視されるかもしれないし。高橋なぜか人気があるから。難しいよね。」


「そうなの?私虐める側だから良く分からないわ。」


「いじめはやめろよ。」


「うん、もうしない。」





「藤代!」


授業も終わり帰ろうと教室を出ようとした時、声をかけられた。幼馴染の莉々菜か?


「ちょっとぉー、藤城!あなた何帰ろうとしているの?今日は1時間目の授業サボってるし、一昨日職員室へ来なさいと言ったのも無視するし、不良やってると推薦受けられないわよ。あなた学校舐めてるでしょ。職員室まで来なさい!」


担任の三十路なのに四十路にしか見えない荒巻先生だった。

職員室へ行くと先生の机の横に立たされた。


「先生、俺推薦要りません。実力で受験しますので。」


「あなたねぇー、ふざけてるの?不良してたら落第して退学したら受験自体できなくなるわよ。それよりあなた体格が良い事を利用して高橋君をいじめてるそうね。」


え?予防線張られた?

俺が虐められてると言っても先生は俺が嘘を付いていると判断するという、いじめられっ子のチクりを回避し自分のいじめを相手になすり付けるという高等テクニック?


「俺虐めてません。」


「嘘仰い!クラスのみんながあなたが虐めていると言っているそうよ。」


「それ誰が言ったんです?」


「高橋君よ。」


「つまり、皆が言っている訳ではなく、皆が言っていると高橋君が言っている訳ですよね。再伝聞ですよね。」


「はぁ?あなた馬鹿なの?阿呆なの?高橋君が嘘を付く訳ないじゃない。だったら、皆があなたが虐めていると言っているという証言は正しいのよ。」


「いえ、そもそも判断の基準が間違っていると思いますが。」


「高橋君は正しいのよ。」


「正しいと思い込んでいるだけでは?それとも、高橋は正しい事にしないとまずい事でもあるんですか。もしかしたら脅されてるんですか?」


「何を馬鹿な事を。馬鹿の考え休むに似たりです。子供は大人の言う事を聞いていればいいの。子供は事実だけを言いなさい。真偽の判断は大人がやるから。」


「俺はバカですか。つまり俺の発言は信じないと?でしたらこれ以上話しても無駄ですね。帰りまーす。」


「ま、待ちなさい。」


「話したいのなら第三者がいないと埒が開かないのでは?」


職員室の外に出ると中から荒巻先生の大きな声が聞こえてきた。


「聞きましたか、教頭先生?あの態度。しかも未だ話も終わってないのに出ていきましたよ。謹慎にしましょう。謹慎処分です。」


「本当ですね。先生の言うことを聞かないなんて。謹慎処分決定です。内申書を最悪にして大学に入りづらくしてあげましょう。」


もう一度職員室の中へ入り確認した。


「荒巻先生。いつまで謹慎処分でしょうか。」


「一週間よ。それまで自宅で謹慎しておきなさい!!」


「はい。ありがとうございます。明日から一週間の有給(有単位)休暇ですね。」


俺は一足早い夏休みを手に入れた。

あ、でも明日は北高行くから一度登校して一ノ瀬に会わないといけないな。LINE ID知らないし、番号も知らないからな。



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