第4話 真性?

 帰宅して早くご飯を食べようとダイニングに向かおうとすると妹が俺の部屋へやって来た。

 妹は未だ中2で俺とは2つ違いだ。

 誰の遺伝子のおかげか、俺と同じで背が高く170cmを超えているが、はっきりした数字は教えてくれない。

 妹だという欲目で見ているという点を差し引いたとしても美人の部類だ。

 高身長なのでかなり顔が小さく見える。


「なぁ、兄貴。もうすぐテストがあるんだけど教えてくれないかなぁ。」

「はぁ、何で俺が俺のことを兄貴と呼ぶやつに教えなくちゃいけないんだ。教えてほしかったら『お兄ちゃん』と呼べ。そしたら、考えてやる。」

「は?不気味なんですけど。気持ち悪いんですけど。学校で虐められてる人は家だけでも偉そうにしてたいんでしょうけど。お断りなんですけど。」


 こっ、ここでもイジメかよ。



 翌日。


 教室へ入るとかなえと目が合う。

 しかし、普通にスルーされた。

 彼女を愛人にする道は遠そうだ。

 かなえはかなり美人でクールで賢く非の打ち所がない。

 そのためかなえとは呼ばれず皆からと呼ばれているようだ。


 席へ着くと相も変わらず周りには高橋達が屯している。


「おい藤代。お前嘘ついたな。学校税は廃止されてないぞ。今日から一ノ瀬君がバラモンの代理で徴収する事になったからきちんと払えよ。五千円だぞ。」

「本当か?廃止されてなかったのか?」


 困ったな。また昼休みに屋上に話を訊きに行く必要があるな。まさか懲りて無いのかな。


 そうこうするうちに昼休みになった。


 昼食を食べ三年棟の屋上へ向かった。


 屋上のドアを開けると昨日ストリップさせようとした女子が屋上への出口の横で別の女子と話していた。


「あれ?ダーリン。いらっしゃい。私に会いに来たの?」


「あー、バラモンに会いに・・って誰がダーリンだよ!」


「今日のダーリン冷たい。昨日は優しかったのに・・あいつはアジトにいるわよ。」


 やはりあそこはアジトだったのか。

 アジトに行くとそこには昨日の様にバラモンと他の面々がいた。


「どういう事だ。」


 俺は強い口調で詰問した。


「何が?」


 バラモンが答えた。


「昨日学校税はやめろと言ったよな。まだ続けるのか。」

「あのな、学校税はこの市の全ての高校を傘下に収めている北高が集めてるんだ。だから、この東高の一存では決めれないんだ。」

「北高の頭は誰だ?」

「南と言うやつだ。お前に負けたから俺はバラモンを辞めことにした。それを理由に次のバラモンに交代するまでの猶予を貰おうとしたんだが、一年A組の一ノ瀬に代理で徴収させると言ってきた。」

「そうか。北高の南か。紛らわしいな北か南かはっきりしろと言いたくなるな。それにしても、俺に負けたからと言ってバラモンを辞めなくてもいいだろ。実際お前は男気に溢れていると思うけどな。だから俺に向かってきたんだろ?ストリップが見たかったからじゃなく子分が俺にやられたからだろ?」

「子分じゃねぇーよ!」

 バラモンの右側の筋肉質の男が怒鳴る。

「いや、他に良い言葉が思いつかなくって。じゃあ、俺教室に戻るわ。サンキューな。」


 教室へ戻ると派手なギャル4人組クシャトリヤフォーが何かの噂話をしているのが聞こえてきた。


「ホントだって!バラモン交代するらしいわよ。」

「マジで?」

「何か、誰かに負けたって。だから辞めるらしいわ。」

「あー、それね。私も聞いた。暫くしたら新しいバラモンが誕生するらしいわ。」

「誰かな?イケメン?」

「何かぁ、カースト制度規則で前のバラモンに認められないとぉ駄目なんだってぇ。」

「誰だろ。楽しみー。」


 もうバラモンが止めるって話が広まってるのか。まぁ、次のバラモンは誰か俺は知ってるけどな。

 絶対教えてやんねぇー!

 でも言いたい。

 教えたい。

 次のバラモンは一ノ瀬だぞーって、言いたい。

 この市の高校の元締めに指名されて学校税の徴収をしているんだから一ノ瀬に決まってるだろ。


「おい、藤代!奴隷の分際で何にやけてるんだ。早く金払えよ。一ノ瀬君を困らせるなよ、このパンピー奴隷が!」


 パンピーって、お前はどれだけ選民思想が強いんだ。

 一般人をパンピーと呼ぶのは自分と区別する為で、自分は選ばれているという思想から来たのだろう。

 高橋、お前は選ばれてないから。


 ガスッ!


 顔殴られた!

 こいつ、人の考えを読むのか?サトリか?


「金は払わなくて良いぞ、藤代。」


 突然会話に割り込んで来たのは一ノ瀬だった。


「どうしてだよ。一ノ瀬君。」


 高橋が一ノ瀬に尋ねた。


「俺は、学校税には反対なんだ。なのに、俺に学校税の徴収を命じやがって。俺は納得できないから今から北高に行って断ってくる。」

「今から行っても未だ授業中だろ?」


 俺は素朴な疑問をぶつけてみた。


「あいつらがまじめに授業を受けている訳ないだろ?」

「あ、なるほど。そう言う人種なわけね。一ノ瀬、俺付いて行こうか?」

「は?いじめられっ子が付いて来てどうする?俺の代わりに虐められてくれるのか?」

「まぁ、何かの役には立つぞ。」

「じゃあ、付いて来い。俺のバイクで行くぞ。」


 二人でバイクへ向かい歩いていると一ノ瀬が話しかけてきた。


「実はお前は良い奴だな、藤代。ダチだと思っていた高橋は付いて来てもくれないのに、ほとんど接点のない藤代が付いて来てくれるとはな。」

「そうだな。まぁ、気まぐれだ。あまり気にするな。お礼は天下一品のこってりでいいぞ。」

「あー、分かった。上手く行ったらな。」


 その後、何の話をする事もなくバイクに二人乗りをして北高へ向かった。しかし、まだ16歳なら、1年未満だから二人乗りは禁止だろと思ったがもしかしたら留年の可能性もあるから訊かないことにした。


 北高は思いのほか近く十数分で到着した。


 一ノ瀬は前にも来たことがあるようで迷うこと無く北高の中を進んで行き、部室棟と思われる建物の一室に着いた。

 ノックをして中へ入るとそこは教室の半分くらいの広さがあり、奥のソファーセットには中年かよと突っ込みたくなるような老けた顔した五人が座り、その周りを取り巻きが十数人が立っていた。


「一ノ瀬、そいつは誰だ?お前のパシリか?まぁ、いい。金持ってきたんだろ?」

「すいません。金は持ってきていません。学校税は勘弁してもらえないですか。みんな迷惑してるんです。もし、俺を殴って気が済むならそれで勘弁して下さい。こいつは俺に付き合ってくれただけなので殴るのは勘弁してやってください。」


 おー、自己犠牲?男だな、バラモン一ノ瀬。


「お前は馬鹿か!金がなかったら俺が迷惑するだろ!パンピーが迷惑するのはコラテラルダメージだ。必要的犠牲だ。それにそいつらが迷惑しても俺が迷惑しないからいいんだよ。そいつらが迷惑しなかったら逆に俺が迷惑するだろ。俺の遊ぶカネがないだろ。女にプレゼントできないだろ。良いもん食えないだろ。お前ら奴隷は、主のために金を稼ぐんだよ。分かったか。お前も困ったことになるぞ。」

「なぜですか。脅してるんですか。」

「金を持ってこなかったら俺がお前をボコるからだよ。持ってくるまで毎日ボコる。それまでお前ら東中の生徒からは毎日、いや、会うたびに寄付してもらうぞ。一千一会いちせんいちえだ。会うたびに千円を徴収する。嫌なら、早く帰って今日中に集めて持ってこい!おい、お前ら、東高には危機感が足りない。この二人が理解するように足腰立たなくなるまで殴れ。」


 え?殴られるの・・・・


 周りを囲まれた。老け顔五人組は相変わらず座ったままで、ニヤニヤとした暗い笑顔で俺達を見ている。その中の一人は感情表現に乏しいのか渋い顔を崩さない。ただの、無愛想なのか、南に不満を持っているのか、俺達に怒っているのか分からないが、兎に角、不気味だ。


 周り雑魚達は余裕の表情で喧嘩をすると言うよりもただ弱いものを甚振ると言った雰囲気で俺達を取り囲む。

 手に木刀を持ってるやつもいる。素手のやつが多いが、素手のやつは腕に自身があるのか俺達を極度に舐めているかのどちらかだろう。


 素手のやつが一ノ瀬に殴りかかってきた。一ノ瀬はそれをヘッドスリップで避けた。大ぶりのパンチは空を切る。


 おっ、一ノ瀬ボクシングやってるのか?と思った瞬間、ストレートが一ノ瀬の顎を捉えていた。

 弱いパンチだから大丈夫だろうと思ったが思いの外、効いているように見える。

 

 しかし・・・


 どうやら一ノ瀬に攻撃の意思はないようだ。ただ、殴られている。


「おい、一ノ瀬、そのまま殴られてるつもりか?」


 一ノ瀬は避けるだけで攻撃しようとはしない。もうかなり殴られている。足腰がフラつきはじめた。喧嘩というよりリンチだ。


 ゴンッ!


 一ノ瀬に気を取られていたら殴られた。木刀?なぜ俺はいつも木刀で殴られるの?俺は一気に数人にフクロにされてしまった。


「流石、いじめられっ子のパシリ君は弱いな。」


 南の声が聞こえた・・途端・・意識が・・・・






 目が覚めると目の前には老け顔五人組が女性を侍らせ俺達を見ていた。


「お、目が覚めたか?お前らが奴隷だってことを理解したか?理解したら今後逆らうな。明日中に学校税徴収して持ってこい。」


 手が痛い。俺は手を縛られて天井付近の窓の枠から吊るされ無理やり立たせられている。横を見ると一ノ瀬も手を縛られて木の枝に吊るされ無理やり立たせられている。


 ん〰、何か違和感が・・・・なんだ・・頭を叩かれたせいか・・頭が回らない・・って裸じゃん!!一ノ瀬、裸だよ。一ノ瀬はスッポンポンにされていた。


 下を見ると俺も一糸も纏っていなかった。見事に閉じこもった俺の御本尊が更に小さくなって防御態勢を取っている。


「しかし、パシリ君は見事に被っているな。」


 う、うるさい!そこ、女子、撮影するな!ま、まさか動画ですか・・・


「一ノ瀬は東中一年の頭だけあって頭がでかいわよ。巨根ね。巨根。そっちの君は、それ真性なの?確かめていい?」

「え、遠慮します。」

「は?馬鹿なの?誰もお願いしてないわ。宣言しただけよ。何こいつ?自分に拒否する権利があるとでも思ってるの?あなた私を舐めてるわね。まぁ、でも私はあなたを舐めませんけどぉ、文字通り。ぷっぷぷぷっ。」


「あーはっはっはっ、おい、舐めてやれよ、栞ぃ。」

「どうして私が!あっ!そう言えば野良犬がいなかった?連れてきて舐めさせればいいわ。」


 噛んだらどうするんだよ。もう付き合いきれねぇ。俺は魔力で炎を出しロープを切った。唖然とする奴らを尻目に雑魚の一人が持っていた木刀を雑魚を蹴り倒して奪った。


「お前ら、今日無事に帰れるとは思うなよ。」

「あーっはっは、お前、短小に皮まで被らせてなに粋がってるんだよ。」

「僕ぅ、大丈夫ぅ?おちんちんは怖いって言って隠れちゃったわよぉ!」

「はっはっはっ、本気か?おい、〇〇〇100%やれよ。やってくれよ。誰かぁ、お盆持って来ーい!」

「小指よ、小指サイズよ。私の小指とどっちが大きいか確かめていい?」

「いーっひっひっひっ、お前はお笑い芸人か?」

「普通で小指サイズなら、大きくなったら人差し指ぃ?人差し指なの?」

「ヒーッヒッヒッヒ、そ、そりゃ可愛そうだろ、せ、せめて、親指って言ってやれ!」

「おやゆび姫かよ。」

「そ、そうね、ひーっひっひ、おやゆび姫となら出来るかもね、これから親指姫って君を呼んであげるわよ。」

「親指姫、面白いから私達のパシリになりなさい。」

「ほ、ホントですか?ぼ、僕をパシリに?してくれるんですか・・・・・って言うかぁ!!よくもお前ら、よくも俺を馬鹿にしてくれたなぁ・・・」


 頭にきた。怒りで、あまりの怒りで、このままだと何か別のものに変身しそうだ。うぅ〰〰〰〰〰!!俺は両手に力を入れた。拳を握り力を込めた。全力の力を拳に込めた。あまりの怒りで俺は意識を失った。




 目が覚めた。目が覚めると一ノ瀬が俺を揺り起こしていた。


「起きたか?帰るぞ。早く服着ろ。」

「どうなった?」

「お前があまりに面白かったから、2日待ってくれることになった。それまでに何とかしないと。」

「なにっ!お、お前もあいつらと一緒になって笑ってたのか?」

「いや、つい。あまりに面白くって。でも、良かったな、女が確認してくれたぞ。真性だって。元気出せ、真性の手術は保険適用らしいぞ。」

「いや、それ別に嬉しくないし。俺には必要ないし。でも、その女、笑ってたんだろうな。」

「あーそうだな。『こいつ真性だよぉ、マジだ。本物だよぉ。』ってみんなで大笑いしてたぞ。」

「ち、ちくしょぉー。何の本物だよ。」


 またバイクに二人乗りして学校まで戻ってきた。すでに夕方で当たりは暗くなり始めていた。すごいムカついたけど、一ノ瀬と少し仲良くなれた気がしてほんの少し嬉しかった。

 一ノ瀬と別れ、僕はママの夕食を一秒でも早く食べたくて家路を急いだ。



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