第59話 俺と妹のこれからについて9

 という事は、俺の背中を踏みつけている影山という男以外も皆能力者だというのか。


 確かに霧子の能力は強い。

 しかし、四人、いや、滝波さんを含めて五人もの能力者ならば霧子を捕まえる事は確かに可能だろう。

 でも滝波さんは本当にそんな事をしてまで霧子に復讐をせねばならないのだろうか。それ程までに霧子を恨んでいるのだろうか。


「滝波さん……」

「なぁに?」


「滝波さんが霧子を憎む理由はわかる。でも、それ程に時間をかけて、手間をかけて、犯罪紛いの事までしてまで復讐する程の事か? 霧子はただ、俺をあんたに取られるかもしれないと思って衝動的に行動したんだろう。もちろんそれは悪い事だし、滝波さんにちゃんとした謝罪もしていない……でも、そんなに霧子を憎む必要があるかよ!?」

「だから、それは私が決める事でしょう。まぁ、私が能力者じゃなかったら復讐なんて考えずに泣き寝入りしてたでしょうけど。ううん、そもそも私が能力者じゃなかったらあんな事にはならなかったのかな……」


 俺は何かを考える素振りを始めた滝波さんの言葉に違和感を覚える。


「どういう……事だよ?」


 すると滝波さんは一瞬キョトンとした表情を浮かべ、その顔はすぐに呆れ顔へと変わった。


「阿佐ヶ谷君って本当、鈍いっていうかなんていうか……」

「なんだよ」

「普通はさ、私の能力を聞いたらもう少し何か思うよね」

「だからなんなんだよ!?」

 滝波さんのフワフワとした物言いに俺は苛立ちを覚える。

 そして、それまで拒絶していた考えがメリメリと俺の胸を裂き始めた。


「もしかして阿佐ヶ谷君はさ、二年前本当に私と『いい感じ』だったとか思ってない?」

 なんだろう。この質問に何の意味があるのだろう。

 考えたくない。でも、その答えはもう俺の鈍い脳ミソに手を伸ばしている。


「そっかぁ、やっぱりそう思ってたんだ。じゃないとデートのお誘いなんて受けるはずないもんね」

「だからなんなんだよ!? ハッキリ言ってくれよ!」

 俺は声を荒げた。

 しかし滝波さんは相変わらずフワフワとした口調で語りながら首を傾げる。


「まぁ、ここまで言っておいて今更だよね。実は阿佐ヶ谷君もね、私の能力にかかっていたんだよ」


 何か冷たいものが、ワシッと俺の心と脳を掴んだ。


「う、嘘だ!!」

「本当だよ。思い出してみて。いつも私のかわりに掃除当番してくれたのは誰だった?」


 ——俺だ。


「いつも私の変わりに宿題やってくれたのは?」


 ——俺だ。


「いつもジュース奢ってくれたり、ゲームセンターでゲーム代を出してくれたのは?」


 ——俺だ。


「ね? 思い出した? あの頃私は能力に目覚めたばかりでさ。阿佐ヶ谷君はたまたま私の前の席に座ってたから能力の実験台にさせて貰ってたんだ。便利に使わせてもらってごめんね」


 違う……違う……俺が滝波さんに尽くしていたのは————


「俺が滝波さんに尽くしていたのは……俺が、俺が滝波さんの事を好きだったからだ!!」


 そう叫んだ瞬間、涙腺の奥に熱い刺激がピリピリと走った。


 

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