第58話 俺と妹のこれからについて8

 復讐劇だなんて冗談じゃない。

 確かに滝波さんには霧子に報復をする理由も権利もあるだろう。でも、俺は霧子の兄として、そして滝波さんの友人としてそれを黙って見過ごすわけにはいかない。

 以前の滝波さんは、復讐などという言葉とは縁の無い誰にでも優しく明朗快活な人だった。二年前の出来事はそんな滝波さんをこんな手の込んだ復讐に走らせる程の事だっただろうか。そして滝波さんはこれからどのような復讐を行おうというのか。

 いや、そもそもあの霧子をどうやって捕まえたというのだろう。

 例え相手が複数人であろうとも、『異次元ディメンション』を持つ霧子を捕まえる事は容易では無い筈だ。そんな霧子を捕まえてくるだなんて、滝波さんの復讐に手を貸すあの男達は何者だろうか。


 すると、混乱している俺に対して滝波さんは言った。


「でも、劇の前にキャストの紹介をしなくちゃね。演出と主演はもちろん私、そして敵役は霧子ちゃん。そしてそして————」


 そして謎の男達に向かって指を指す。


「彼等は私のお供の……イヌサルキジってところかな。あら? そしたら一人余っちゃうね。まぁ、いいか」

「なんだよお供って!? おい! お前らもこんな事に手を貸すのは止めろ! 霧子に何か恨みでもあるのかよ!?」

 俺が呼びかけるが、男達は何も言わずにただ冷たい——そしてうつろげな目で俺を見つめている。まるで何かに操られているかのように。


「彼等がどうして私の復讐に手を貸すか気になる? 」

「気にならないはずないだろ!」

「じゃあ、教えてあげる。私ね、阿佐ヶ谷君に秘密にしていた事があるの」

「……秘密?」


 滝波さんの言葉に俺は眉をひそめる。

 秘密だって? こんな復讐劇を計画していた以上に滝波さんにどんな秘密があるというのだろうか。この状況以上に俺を驚かせる事がまだあるのか。もしかしたらこの一連の出来事はドッキリで、サプライズ誕生日パーティーでも開いてくれるのだろうか。まぁ、まずそれはないだろうし、俺の誕生日は八月だ。


「実はね、私も能力者なのよ」

「えぇ!?」


 普通に驚いた。

 二年前、滝波さんと俺が話すようになってから、滝波さんが能力者であるという事は滝波さんの口からも他の誰かからも聞いた事がなかったし、能力を使うところも見た事がない。だから俺はてっきり滝波さんは俺と同じで能力者ではないのだろうとずっと思っていた。だが、どうやらそうではなかったらしい。

 そして問題は滝波さんが今このタイミングでその事をカミングアウトしたという事だ。きっと滝波さんの能力はこの状況に関わっているはずだ。


「まぁ、たいした能力じゃないんだけどね。『遅咲きの薔薇ポイズンローズ』っていう、フェロモンに関するちょっとした洗脳能力ってところかな。相手と接すれば接するほど洗脳が進む能力なんだけど、完全に洗脳するためには洗脳したい相手のすぐ側で数百時間は過ごさなきゃいけないの。霧子ちゃんの能力に比べたら不便でちゃちな能力でしょう?」


 つまり、あの男達は滝波さんの能力で洗脳されて復讐に手を貸しているいるという事だろう。


「私は二年前、霧子ちゃんに能力で打ちひしがれた。だから私は時間をかけて彼等を洗脳したのよ。霧子ちゃんへの復讐に役立つような能力者達をね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る