第55話 俺と妹のこれからについて5
「……ここか」
俺が六面港の外れにある巨大な廃倉庫にやってきたのは、夕方の五時を過ぎた頃であった。
春とはいえ、天気のせいもあってか辺りは既にかなり薄暗い。
そしてその薄暗さと周囲の人気の無さが相まって、目の前に聳える廃倉庫はまるで魔王が棲まう城のような不気味なオーラを放っていた。
なぜ俺がこのような場所を訪れたのかというと、その理由は先程かかってきた滝波さんからの電話にある。あの後滝波さんは電話口で、酷く怯えた様子でこう言った。
『さっき霧子ちゃんが私の前に現れて、私また霧子ちゃんに飛ばされちゃったの! 『お兄ちゃんに手を出す奴は許さない』って……。私は今コンテナの中みたいなところに閉じ込められているんだけど、近くから船の汽笛が聞こえるから多分六面港の廃倉庫あたりだと思う……。お願い、早く助けに来て! じゃないと空気が……』
「わ、わかった! すぐに行くから!」
『お願い! 早く来て!』
それを聞いた俺は公園を飛び出し、走って六面港までやってきたというわけだ。
霧子がどこから俺のデート相手の情報を仕入れたのかは知らないが、まさかまた滝波さんを能力で飛ばすとは思いもしなかった。いや、それはただ見通しが甘かっただけか……もしかしたら俺は自分の想像より遥かに霧子を追い詰めてしまっていたのかもしれない。いや、今はつべこべ考えている暇はない。とにかく一刻も早く滝波さんを救出しなければ。
ガタガタガタガタ……
風が吹き、錆びたシャッターが激しく揺れた。
まるで早く中に入れと促すかのように。
ここに来るまでにかいた汗は既に冷え切り、冷や汗のようになっていた。
俺は意を決して、シャッターの傍にある通用口のドアノブに手を掛ける。
通用口に鍵はかかっておらず、ドアノブを回して引くとギギギと音を立ててあっさりと開いた。
倉庫の中は外以上に薄暗かったが、二階の窓から差し込む光でなんとか中を見渡す事はできる。しかし、通用口の入り口付近には棚やコンテナが乱雑に配置されているせいで、奥の方まで見通す事はできない。
「滝波さん! 聞こえるか!?」
俺は倉庫内へと大事で呼び掛けてはみるが返事はない。聞こえてくる物音は風に揺れるシャッターの音と、魔笛のような隙間風の音だけだ。
俺はドアを開けたままにし、スマホのライトをつけて倉庫内に入る。そして棚とコンテナの合間を縫うようにして進んだ。
埃っぽい倉庫内をしばらく進むと、背後でガシャンという音が聞こえて俺は身を竦ませた。恐らく風でドアが閉まってしまったのだろう。
閉じ込められてしまったような気分ではあるが、鍵はかかっていないはずだから大丈夫だろう。いざとなれば窓を開けて出れば良い。
ドアの事を気にせずに更に進むと、倉庫の中心部らしき開けた場所に出た。
そしてその中央には髪の長い女性らしき人影が横たわっていた。
俺は驚き、その人影に向けてスマホのライトをかざす。
「滝波さん!!」
倒れていたその人影の正体は、俺にSOSの電話をかけてきたあの滝波さんであった。
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