第53話 俺と妹のこれからについて3

 十二時四十分。

 待ち合わせの二十分前に、待ち合わせ場所である公園に着いた。

 少し早過ぎるとは思うが、気分を落ち着けるにはちょうどいい時間かもしれない。俺はベンチに腰掛けて滝波さんを待つ事にした。


 滝波さんはどんな格好で、どんなテンションで来るだろうか。

 そして俺は今日のデートをヘマをする事なく終える事ができるのだろうか。


 まぁ、滝波さんの事だから何を着て来ても可愛いだろう。

 それにヘマをしないかといっても、中学時代は何度も放課後に遊んだ仲だ。休日に二人きりで遊ぶのは初めてとはいえ、今更かしこまる必要もないだろう。


 深呼吸がてらに空を見上げると、空は微妙に曇っており、まるで俺の心中を映しているかのようだ。


 家を出るときにジャケットの裾を摘んだ霧子の小さな手。俺は本当にあれを払ってしまって良かったのだろうか。

 いやいや、あれは仕方のない事だ。色恋云々を抜きにしても、友人として滝波さんとのデートをドタキャンするわけにはいかない。それに、もしデートをキャンセルして家に残ったところで俺はどうすれば良かったというんだ。


 もし俺が映画やドラマの登場人物なら、リビングに戻って霧子を抱きしめるべきところだったのだろう。だけど現実の俺にはそんなつもりはない。かといって、『どうした、寂しいのか? お前も一緒に行くか?』だなんて言うわけにもいかない。そもそもそういう問題ではないし、せっかくの初デートに妹連れだなんてドン引きもいいところだ。


 それに、霧子が俺を諦めて、滝波さんが霧子を許してくれたとはいえ、二人を会わせるのはまだ危険だろう。主に滝波さんの命が危険だ。二人が再会する事があるとすれば、霧子が失恋から完全に立ち直り、万が一滝波さんが俺の彼女になった場合だろう。


 とにかく、今俺がやるべき事とできる事は、ただ素直に今日のデートを楽しむ事だ。


 それにしても、滝波さん中々来ないな。

 スマホの時計を見ると、時刻は一時ちょうどを示していた。

 まぁ、女の子は身支度に時間がかかるだろうし、良い女は遅れてやってくるもんだと何かの映画で言っていた気もする。それに、俺は別に待つ事は嫌いじゃない。今日のデートプランを復習していれば時間なんてあっという間に過ぎてしまうはずだ。


 待つ、か……霧子はずっと待っていたのだろうか。あの手この手で俺にアタックしながら、俺が霧子を一人の女の子として見てくれるのを——


 あぁ! また霧子の事を考えてる! ダメだダメだ、こんな気持ちで滝波さんとデートしたら失礼じゃないか! もっと楽しい事を考えなくては……。楽しい事、楽しい事、たのしー事、たのCカップ……滝波さんは多分Dカップくらいは……となると、滝波さんより明らかに豊かな指宿先輩はE!? いや、まさかのF!? ってバカ! いや、これでいいんだ。これが本来の俺だ! 滝波さんが谷間の見える服着てくるんじゃないかなぁとか、生足魅惑のミニスカート履いてくるんじゃないかなぁって考えてるくらいがデート前の健全な心理状態だ! ガンバレ俺の煩悩よ!


 俺の煩悩と想像力は予想以上の頑張りを見せてくれた。


 十分、二十分、一時間————

 煩悩が尽きてからも、俺は滝波さんを待ち続ける。


 一時間半、二時間————

 スマホから滝波さんへメッセージを送るのは、四通目でもう辞めた。


 やがて、西の空にゆっくりと陽が傾き始める。

 いくら座り心地の良いベンチでも、三時間以上座っていれば尻も痛くなる。

 それでも俺はベンチに座り続けた。

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