第44話 俺と妹の恋愛について7
「お兄ちゃん、もっと食べて食べて!」
ダメージが回復した俺は、霧子と一緒にリビングへ降りて、夕飯を食べていた。霧子は俺がいくら「もういい」と言っても、まるで田舎のおばあちゃんのように無限にコロッケを運んでくる。
俺がコロッケで内臓が破裂するんじゃないかと考え始めた頃、霧子はようやくコロッケを揚げるのを止めて食卓についた。
「私、朝も昼も食べなかったからお腹減っちゃった」
「なんでだよ。飯くらいちゃんと食え」
「だって……お兄ちゃんの事で胸がいっぱいだったんだもん」
そうかそうか。
霧子の胸がいっぱいに膨らんでいるところを見てみたかったが、残念ながら今はいつも通りのアンパンサイズに戻っている。
やがて霧子が食事を終えたので、俺は先程の謝罪とは別の、もう一つの話を切り出した。
「なぁ、霧子」
「なぁに? お兄ちゃん」
「お前が俺から女の子を遠ざけようとするのって、やっぱりその……俺の事が好きだからなのか?」
俺がそう言うと、霧子は顔を赤くして俯く。
「……そだよ」
「じゃあ、滝波さんを山奥に放り出したのも、滝波さんが俺とデートしようとしたからか?」
すると、滝波さんの名前を出したせいなのか、霧子の表情は僅かに曇る。
「……そうだよ」
「本当にか?」
「……うん」
やはり霧子にとって滝波さんの話題はあまり話して欲しくないようだ。
「なぁ、前から何度も聞いてるけど、お前は俺のどこがそんなにいいんだ?」
「……カッコいいとこ」
「どこがだよ?」
「それはヒミツ」
妹とはいえ、女の子にかっこいいと言われて悪い気はしないのだが、俺には俺のどこがカッコいいのかさっぱりわからない。
前にも言ったと思うが、俺は別にイケメンでも無いし、特別勉強やスポーツができるわけでも無い。能力だって持ってないし、将来性や才能があるわけでも無い。一体どこがかっこいいと言うのだろうか。
「いい加減教えてくれてもいいと思うんだけどな。そうじゃないと俺としてもお前の気持ちにどう応えればいいかわからないっていうか……なんかからかわれてるんじゃないかって思うんだよな」
まぁ、これまでの霧子の行動を振り返る限り、からかっているという事はまずないだろうけど、惚れられている理由がわからない限り混乱してしまうのは確かだ。
すると霧子は俯いたまましばらく考え込むと、上目遣いにジッと俺の顔を見つめて言った。
「お兄ちゃん覚えてる? お父さん達が再婚したばかりの頃のこと」
覚えているかと言われれば、完全に覚えているわけではないが、ある程度は記憶に残っている。
「最初の頃、私達そんなに仲良くなかったでしょ?」
そこで、俺は当時の記憶を穿り返した。
「あー、そういえばそうだったかな」
七年前、母さんと俊夫さんが再婚してすぐに、霧子と俊夫さんが家に引っ越してきた。
当時小学四年生だった霧子は、最初は借りてきた猫のように大人しかったものの、慣れてくるにつれて能力を使って俺にイタズラばかりするようになった。イタズラとは言っても、異次元から飛び出してきて脅かしたり、テレビのリモコンを取って異次元に隠れたりするなどのかわいいものだ。今思えば当時の霧子はただ俺に構って欲しかっただけだったのかもしれない。
「あの時から比べるとお前もずいぶん大人になったもんだよなぁ」
当時の事は霧子にとって黒歴史であるらしく、霧子の顔は真っ赤になっていた。
「そ、それで、お兄ちゃんが怒って私と全然喋ってくれなくなったんだよ。二年前の時みたいに」
「え? そうだったか?」
「やっぱり覚えてないんだ! そうだよ、全然喋ってくれなくて、私すごい落ち込んだんだから。ほら、あのプラモデルの時……」
「プラモデル……あぁ!」
そうだ、そうだった。霧子がイタズラで俺を脅かした拍子に、驚いた俺が棚にぶつかって父さんから買ってもらったプラモデルが床に落ちて壊れてしまった事があった。その時俺が霧子を怒鳴りつけたら霧子が泣いて、逆に俺が母さんに怒られてしまった。それから拗ねた俺は霧子と口をきかなくなったのだ。
「で、それからしばらくしてさ……覚えてる?」
「……覚えてない」
「本当に?」
「覚えてない」
そもそも七年も前の事など普通はそんなに覚えていない。
うっすらと記憶にはあるものの、ポンポンと当時の話が出てくる霧子の方がおかしいのだ。
「ほら、公園でさ」
「だから覚えてな————ん? 公園?」
公園という単語に、またしても俺の記憶が蘇ってきた。
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