第28話 兄妹混浴劇場5
「じゃあ、お兄ちゃんもアップデートして」
今度は霧子の無茶振りが始まった。
しかし、こう見えて俺は結構ノリが良い。多少のぼせてきたが、妹にネタを振られたのならば兄としてやらざるを得まい。あくまでフリに応えるだけだが。
「俺OSは1.01バージョンにアップデートしました」
霧子がiOSならば、俺はAnidroidだ。
霧子が俺のデコをちょんちょんとタッチする。ちょっとこそばゆい。
「残念ながら、呼び方変更機能はついていません」
「えー、ズルい!」
「お前なぁ、妹の呼び方にバリエーションなんてないだろ。難易度高いっての」
「あるよー、霧子ちゃんとか、霧子姫とか」
「あー、うちのOSそういうのやってないんだよね。そういうのは恋人OSじゃないと」
俺があしらうようにそう言うと、霧子は何かを思いついたような顔をして言った。
「恋人OS……。じゃあ、はい! 私OS1.02にアップデートしました」
もういい加減上がりたいのだが、仕方なく霧子のデコをタッチしてやる。すると霧子は目を閉じて深呼吸をし、ゆっくりと目を開いて言った。
「本介」
ドキッとした。
俺にとっては悪い意味で。しかし驚きや恐怖とは違う意味で。
「お、おい、兄を呼び捨てだなんて———」
「本介……ちょっと、のぼせてきちゃったね」
俺の言葉を遮り、霧子はズイッと顔を寄せてきた。
「そうだな! の、のぼせてきたからな! 血流がな! アレだよな!」
「……本当にのぼせてきただけ?」
霧子の手が俺の肩に触れる。目の前には首を傾げた霧子の顔、そして少し下を向けば霧子の慎ましいアンパンが二つ。いかん、実にいかん。このままでは俺のジョーが立ち上がってしまう可能性がある。
ジョー! 寝ていろ! ゴングまで休んでいるんだ!
俺の中で理性という名の眼帯セコンドがタオルを振り回して叫ぶ。
「本介……」
目を潤ませた霧子の唇が目の前に迫ってくる。ヤバい、かなりヤバイ。このままでは色々と取り返しがつかなくなる。
しかしその時、セコンドが力強くタオルを投げた。
「オラっ!!」
理性を取り戻した俺は、右手で素早く霧子の顔を鷲掴みにすると、親指と中指でこめかみを挟み込む。対霧子用ゼロ距離決戦奥義『アニキ・アイアンクロー』である。霧子は異次元空間を使った中〜遠距離戦は強いが、近距離戦ではただの貧弱なホビットガールだ。
「イタタタタタタタ! お兄ちゃん痛いヨー! ギブアップ!」
「馬鹿め! 兄より優れた妹などいないのだ!」
危なかったがな、とは言わなかった。
次に同じ作戦で来られても負ける気はしないが、万が一という事があるからだ。
それにしても、いつも力技でくる霧子が変化球でくるとこうも色っぽく見えてしまうものかと驚いた。同じ容姿でも立ち振る舞いによってこうも見え方が変わるとは思わなかった。
こうして、俺と霧子の奇妙な混浴劇は幕を閉じた。
風呂から上がった俺達は、いけないとはわかりつつも夜食にインスタントラーメンを食べて、歯を磨いてから各々の部屋に戻る。
電気を消した俺が布団に寝転がると、空中に開いた異次元空間から霧子が顔を出した。
「お兄ちゃん、一緒に寝ていい?」
「アホか、まだやる気か」
「そうじゃなくて……普通に怖くて……」
そんな怯えた顔で言われたらNOと言えないのが俺という兄だ。
まぁ、霧子も多少気遣いを覚えたようだし、たまには甘やかすのもよしとするか。
「わかったよ。でも、お前が床だからな。布団持ってこい」
「ありがとぉ……」
全く、こいつはどこまでも困った妹である。
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