第27話 兄妹混浴劇場4

 それからタオルを腰に巻いた俺は霧子に背中を流してもらい、現在に至るという訳だ。


「ふぃーっ」

 足を伸ばせないのは不満ではあるが、湯船の心地よさに思わずおっさんのような声が漏れる。霧子が目の前にいるおかげで、ゲームで膨れ上がった恐怖心もかなり薄れた。


 しかし、変な意味ではないのだが、スクール水着姿の妹を見ながらの入浴というのもなんだか妙な気持ちになる。


「ねぇ、お兄ちゃん。私、今この下に何も着てないんだヨ」

「水着なんだから当たり前だろ」

「布一枚って考えたら水着も下着も同じだと思わない? つまり、私は今下着姿と同じなんだヨ」

「思うもなにも、それはただの事実だ。そしてお前は下着姿じゃなくて水着姿だ」

「ドキドキしない?」

「俺お前がビキニだろうとチャイナドレスだろうと全裸だろうと欲情しない。浴場だけにな」

 どうやら俺にジョーが乗り移ったようだ。いや、そっちのジョーじゃない。マンティスビレッジ3のジョーだ。


「じゃあ、これ脱いじゃってもいい?」

「それは兄として許さん。最悪全裸でもいいけど羞恥心だけは着ていろ」

「ねぇ、たまに授業中にさ、「今いきなり意味不明な事叫んだらどうなるんだろう」って思わない?」

「めっちゃ思う事あるけど絶対やるなよ」

「今私、「いきなり全部脱いでお兄ちゃんに抱きついたらどうなるだろう」って考えてる」

 頭のおかしい妹だ。ブラコンだと気付いた時に早く病院に連れて行けば良かった。


「もしそれをやったら俺は舌を噛んで死ぬ。というか、嫁入り前の妹にそんなはしたない事はさせない」

「嫁入りかぁ……お兄ちゃんは私がお嫁に行っちゃっても寂しくない?」

「寂し……い、だろうとは思うけど、お前が嫁に行くのは早ければ早いほどいい。だけど相手はちゃんと選べ。俺とゲームと漫画の趣味が合う奴以外は認めない」

「ヒドイ……でも、寂しいって思ってくれるんだ」

 そう言った霧子は少し嬉しそうだった。

 そりゃあ兄として妹が嫁に行ったら寂しくは思うだろうが、霧子が嫁に行くような相手を見つければ俺も安心して恋愛をする事ができる。それはもう万々歳だ。


「あーあ、お兄ちゃんが寂しがるから、私お嫁に行けないヨ」

 相手もいないくせに下町映画に出てくる妹が言うようなセリフを言うな。早く高収入で優しくて絶対浮気しなくて家族付き合いが良くてお前を看取ってから死んでくれるような奴を探してくれ。とは思うが、もうしばらく俺の妹でいて欲しいという気持ちもある。少し悔しいけれど。


「ねぇ、にいさま」

 突然の兄さま呼びに俺はギョッとする。


「どうした急に。突然OSがアップデートしちまったか?」

 妹OS、略してiOSだ。


「霧子OS1.01バージョンは、好きな呼び方に変更できます」

 なるほど、そういう遊びか。

 しかしながら霧子に『お兄ちゃん』以外で呼ばれるイメージが湧かない。俺は霧子のデコに人差し指を当てて、軽くフリックする。


「兄上」

 悪くない。偉くなった気分だ。

「兄ちゃん」

 悪くない。元気そうだ。

「兄貴」

 悪くない。やんちゃだが兄想いなタイプだ。

「兄者」

 ダメだ。怪力の弟と小狡い兄の雑魚キャラコンビっぽい。

「にぃに」

 む、きたかこれ。いや、あまりにも露骨すぎる。人前で呼ばれたら恥ずかしい。

にいさん」

 あー、無難。無難でいいのだが、霧子のイメージには合わない。

「あんちゃん」

 ん、なんかグッときたぞ。田舎に住む純朴な妹を彷彿とさせる。

「にぃちゃま」

 ダメだ。気持ち悪い。許されて小学生低学年までだ。『ちゃま』ってなんだ、『ちゃま』って。

「ブラザー」

 黒人ラッパーか。

「ニーハオ」

 もはや呼び方じゃない。

「兄さま」

 最初に戻った。どうやらネタ切れらしい。しかしこのOSはやけに呼び方が豊富だな。


「どれがいい?」

「兄貴か、あんちゃんか……いや、いつもので」

「えー、にぃちゃまは新しい機能とか試さないタイプ?」

「にぃちゃまだけはやめろ。俺はファミレスとか行ったら一応新メニューも見るけど、散々悩んだ挙句にいつも同じメニューを頼むタイプだ」

「知ってる。いつもチーズインハンバーグの和食セットライス大盛りだもんね」

 流石は俺の妹歴七年のベテラン妹だ。仕事へのやる気が感じられる。これならば誰かの彼女に転職してもやっていけるだろう。




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