第23話 能力者の休日8
「もー、ごめんってば」
コーヒーを飲みながらむくれている俺を見て、先輩は俺達のテーブルに杏仁豆腐をサービスしてくれた。因みに霧子はロイヤルミルクティー、稲葉さんはハーブティー、桜庭はアイスココアを注文している。
自家製らしい杏仁豆腐は、コンビニなどで買う杏仁豆腐よりもクリーミーで、ほんのりとミントのような爽やかさが混じっており、そのままジョッキ一杯飲んでしまいたいほど美味かった。先輩に敵意を持つ霧子が無言でパクパク平らげるくらいに。
が、そんな事で俺の機嫌は直らない。実は俺は結構恥ずかしがり屋なのだ。それなのに女性客の多い喫茶店で「サモン・ファミリア!」って……
すると俺の不機嫌さを見兼ねたのか、指宿先輩は俺の耳元で囁く。
「もう、今度また33点してあげるから許してよ」
33点。
それは俺と指宿先輩の秘密のグランドキャニオンである。しかしそれを出されたところで俺の機嫌は……直さざるをえまい!!
「33点って何?」
稲葉さんがピュアな瞳で俺を見つめてくる。
すまない稲葉さん。俺のピンクの脳味噌を許してくれ。
「33点って何ですか?」
桜庭は実に訝しげだ。
桜庭、お前に33点はまだ早い。
「33点……」
薄ら笑いを浮かべた霧子の目が怪しく輝く。ヤバい、臨戦態勢に入ってしまった。流石に店内で能力を使いはしないとは思うが、先輩が無事でいられる保証はない。この空気は俺がどうにかせねばならないし、霧子の暴走も防がねばならない。しかしどうすれば……
「あ、あのな……」
苦し紛れに話を切り出した俺に、みんなの注目が一気に集まる。
やばい、女の子に注目されるとパニックになってしまう。
「えーと、き、霧子はな、俺の妹なんだが……その、うちは両親が海外だから、霧子がいつも早起きして朝飯を作ってくれるんだ」
皆の頭上に一斉にハテナマークが浮かぶのが俺には見えた。そりゃそうだろう。俺自身も何を言っているのか分かってないのだから。
「それがな、美味いんだ。飽きないように毎日メニューを変えてくれるし、味噌汁の具も、焼き魚の魚も変えてくれる。あと、ハムエッグの時もあればベーコンエッグの時もある」
なぜ俺は朝飯の話をしているのだろう。全く理解できない。だが、何故かみんなは恐ろしいほどに大人しく俺の話を聞いている。
「そ、それだけじゃなくて、掃除も洗濯もしてくれるし、あ、俺も手伝いはするけれど……とにかく、俺には勿体ないくらいできた妹なんだ」
なんだこれ、妹自慢をする気など全くなかった。今俺はシスコンだと思われていて、ドン引きされているのではないだろうか。えぇい、ままよ!
「その、だからな、何が言いたいかというと……霧子はあんまり素直じゃないし、みんなには色々迷惑をかけていると思うけど、悪い奴じゃないから、これからも気にかけて仲良くしてやって欲しい。兄としての頼み……です」
あぁ、もうなんだコレ。サモン・ファミリアより百倍恥ずかしいではないか。でも流れで言ってみて気付いたが、これは俺の本心だ。
霧子は色々厄介だけれど自慢の、俺には勿体ないよくできた妹だ。だから俺にばかり構うよりも、もっと色んな人と交流して、もっと色んな経験をして欲しい。友達を増やして、恋愛もして、普通に幸せになって欲しい。それは本当に心から願っている事だ。
「ごめん! 急に変な事言ったな! 今のなし! 今のなしで!」
そう言って俺が周りを見渡すと、みんなはポカンとして俺を見ていた。そして霧子の顔はなぜか真っ赤になっていた。
すると、急に稲葉さんが霧子の手を自分の両手で包み込んだ。
「霧子ちゃぁぁぁん! 偉いよ! 良い子だよ! 仲良くしよ? 私の事お姉ちゃんて呼んでもいいんだよ?」
稲葉さんが霧子の姉になるという事は、つまり稲葉さんは俺と夫婦に……いや、違う違う! でも、この中で一番まともそうな稲葉さんが、女性として霧子の手本になってくれたら嬉しい。
「先輩に言われなくても、私は霧子ちゃんと友達ですよ。でも、先輩が霧子ちゃんをいじめたらバチッといきますから覚悟してくださいね」
桜庭は相変わらず生意気だが、同年代の友人は大切な心の支えになると言うし、霧子にも友達がいてくれて本当に良かったと思う。ただ電撃だけは本当に勘弁して欲しい。
「少年は妹想いだねぇ。妹ちゃん、女の子にしかできない相談とかあったら私に相談していいからね。でも、おいたしたらまたお仕置きしちゃうぞぉ」
そう、便利すぎる能力を持ち、更に何でも卒なくこなせる霧子に必要なのは、指宿先輩のように自分より
「あ、アノ……えっと、ワタシ……お、お兄ちゃん、助けて……」
当の霧子は、三人の女子に囲まれてアワアワと戸惑っている。異次元に逃げ込もうにも稲葉さんに手を掴まれているので叶わない。これをきっかけに少しは
一時はどうなるかと思ったが、怪我の功名、雨降って地固まる、結果オーライでめでたしめでたしというわけだ。
すると、うんうんと頷く俺にまたしても先輩が囁いた。
「いい事言ったご褒美に、今度は66点してあげようかなぁ」
「「66点?」」
こうして俺は再び針の筵に置かれる事となり、俺と霧子のお出掛けは幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます