第20話 能力者の休日5

 霧子や稲葉さんと離れて一人でブラブラしていると、二階の小動物コーナーで俺はまたしても見知った顔を見つけた。


「うりうり〜、君はいいヘアスタイルしてるねー。お、君もハンサムだね」

 そんな事を言いながらハリネズミのケージに張り付いているのは、俺の一年後輩で、霧子の友人である桜庭鈴さくらばりんであった。中学生のような見た目の桜庭であるが、春らしい色のワンピースを着た私服姿だと尚更幼く見える。

 先日は色々あって俺は桜庭にすっかり軽蔑される事となったのだが、ここで出会ったのも何かの縁だと考え、声を掛ける事にした。


「よう、桜庭」

「ひゃあ!」

 俺が背後から声を掛けると、桜庭はオーバーに悲鳴をあげて振り返る。そして俺の顔を見た瞬間、つい今までハリネズミにデレデレしていたのに、ジトリと胡散臭い人を見る目に変わった。


「あ、おっぱい先輩じゃないですか。こんな所で何してるんですか?」

「おっぱい先輩ってなんだ。人のあだ名で韻を踏むな」


 おっぱい先輩と言われると俺が巨乳の先輩みたいだが、俺におっぱいはない。俺は確かにおっぱいが好きだが、俺自身におっぱいはないのだ。


「ここはおっぱい屋さんじゃないですよ。それとも動物のおっぱいでも見境なしですか? ここの子達は確かにみんなヌードですもんね。先輩は人生楽しそうでいいですね。そうだ、いい事教えてあげます。牧場に行けば牛の大きなおっぱいが絞れますよ。しかも新鮮な牛乳も飲めます」


 おっぱいの『お』くらいまでしかおっぱいが無いくせに、同じ学校の先輩であり、友人の兄に対して酷い言いようである。


「俺はおっぱいモンスターかよ。別におっぱいを求めてここに来たわけじゃない。霧子と買い物に来たついでだ」

「あ、霧子ちゃんも来てるんですか。あれからまた霧子ちゃんを泣かせてないですよね? もし泣かせたらバチッといきますよ」

「いや、だからあれは……」


 あの時のおっぱい発言は桜庭のおっぱいを————ではなく、桜庭の身を守るための発言だと今更言っても信じては貰えないだろう。下手な事を言えばまたあの『雷轟電転ライゴー』とかいうスタンガンのような能力を喰らわされる事になりそうだ。


 しかし、言われっぱなしは悔しいので、俺は少し反撃する事にする。

 俺は桜庭の声音を真似て言った。


「うりうり〜、君はいいヘアスタイルしてるねー」

「なっ!?」

 これは先程桜庭がハリネズミに対して言っていたセリフだ。

 クールだった桜庭の表情に動揺が現れ、頬が赤くなる。霧子の友達というだけあって結構チョロい。


 俺は桜庭の声真似を更に続ける。

「そんなにツンツンしてたら男の子にモテないゾ。ハリネズミだけに」

 これは俺の考えたセリフだ。もちろん桜庭に向けた皮肉である。するとこれが結構効いたようで、桜庭は小さな手をギュッと握りしめて悔しそうに俺を睨みつける。


「全然似てませんからやめて下さい。私、別にモテたいなんて思ってません!」

 まぁ、男が苦手だと言っていたし、それは本心なのだろう。だが、そういう女の子ほど甘い言葉に弱いと以前金田に借りたちょっとエッチな少年向けラブコメ漫画に書いてあった。

 ここで俺は作戦を切り替える事にした。

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