第19話 能力者の休日4
サイコロシティ商店街。
それが六面町にある商店街の名前である。
サイコロシティ商店街はアーケード内にあるメインストリートを中心にした広域型商店街であり、八百屋や肉屋などの昔ながらの商店をはじめ、アパレルショップや飲食店はもちろんの事、カラオケや映画館、ボーリング場や漫画喫茶などの娯楽施設も充実しており、休みの日にはいつも多くの人々で賑わっている。
近年では大型ショッピングモールの進出により、日本各地の商店街でシャッターストリート化が進んでいるというが、六面町から最寄りのショッピングモールまでは電車で三駅とわりと離れているので、住宅地と駅から程近いサイコロシティ商店街はまだまだ活気が溢れているのだ。
ただ問題は、名前がダサいために誰も正式名称で呼ばないという事であろうか。龍鳳高校の生徒達はもっぱら『サイマチ』か『コロシティ』、もしくは普通に商店街と呼んでいる。
商店街への道中、腕にしがみ付いてくる霧子を引き摺るように歩きながら、稲葉さんと少し話をした。
「稲葉さんは休みの日とか何してるの?」
「私? うーん……普通に友達と遊んだり、課題したり、あとはサークルかな」
「サークル? 部活じゃなくて?」
「うん。外部のパルクールサークルに入ってるんだ。中学の頃は陸上部にいたんだけど、私能力者だから色々あってやめちゃった」
パルクール。
俺にとってはあまり馴染みのない単語ではあるが、確か街中をアスレチックのように見立てて、走ったり跳んだりする競技だったはずだ。稲葉さんの能力があればさぞかし楽しい競技であろう。
補足になるが、この世界でのスポーツの大会等はほとんどの競技が能力者とそうでない者とで分けられて行われている。そうでないと、特定の競技に相性の良い能力を持った能力者に普通の人間は絶対に敵わないからだ。だからオリンピックやインターハイも、一般競技者向けのものと能力者向けのものが別々に行われるのだが、まぁ、その辺は色々複雑なので、ここでは割愛させてもらう。
「阿佐ヶ谷君は部活は?」
「入ってないよ。図書委員会になら入ってるけど」
「そうなんだ、結構意外かも」
何がどう意外なのかはわからないが、稲葉さんは今度は霧子に尋ねる。
「霧子ちゃんは部活してるの?」
稲葉さんが霧子の顔を覗き込むと、霧子はサッと俺の背中に隠れた。俺が首根っこを掴んで無理矢理引き摺り出すと、霧子は稲葉さんの顔をジトッと睨みつけながらボソッと答える。
「……演劇部」
「へぇー! そうなんだ! 私、霧子ちゃんのお姫様役とか見てみたいな」
稲葉さんはそう言ったが、俺からすれば霧子はお姫様より魔女の方が似合うような気がする。目を爛々と輝かせた霧子が毒林檎を片手に異次元空間の中からヌルリと出てくる様子が目に浮かぶようだ。
そんな話をしているうちに、俺達は商店街に辿り着いた。
商店街に着いた俺達は、まず商店街の入り口付近にあるドラッグストアで稲葉さんの買い物に付き合い、それから人で賑わう商店街をブラブラする事になった。別にお金を使わずとも、ゲームセンターに新しいゲームが入っていないかチェックしたり、意味もなく百円ショップを覗くのも中々楽しいものだ。稲葉さんがついて来た事で不機嫌そうだった霧子の機嫌もブラブラするうちに若干良くなってきて、稲葉さんとも少しずつ話すようになってくれた。
ある程度ブラブラした俺達は、サイコロシティ商店街で一番の人気スポットへと向かう事にした。
商店街一の人気スポット。
それはメインストリートから一本外れた場所にある大型ペットショップの『アニマルランド・ノア』である。ここは全国に展開しているペットショップチェーン店の一つで、三階建の広い店内では動物園のように様々な動物を見る事ができ、店員さんに頼めば触る事もできるという、無料で楽しめる暇つぶしとデートに最適なスポットなのだ。
「ここ、私もよく来るんだよねぇ。うわぁ! 見て、この子立って歩いてる! かわいい〜!」
そう言って稲葉さんは子犬のケージにベッタリと張り付く。俺は「君の方がかわいいよ」と言えるほどのイケメンポイントは持っていなかった。
ふと、俺は霧子が背後からいなくなった事に気付き、少し探して回る。すると霧子は鳥のコーナーでフクロウと見つめ合っていた。霧子は以前からフクロウが好きで、大きなぬいぐるみもいくつか持っている。前に一緒にここに来た時も、こうしてフクロウと見つめ合っていたのを覚えている。
邪魔するのも悪いので、俺はもうしばらく一人で店内を見て回る事にした。
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